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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第87話 決着Ⅱ

 エストはブルース達を反省の意味を込めて、部屋の一角に正座させたまま放置し、代表やサウル達のソファーまでため息を吐きながら戻った。


「エスト。お疲れ様です。」


「……ホント。色々と疲れた。

皆もごめんね。【英雄】ってあんなのばかりだから、まともな人が少ないんだ。」


 改めてエストは『肉屋』の面々へ謝罪した。


 【英雄】まで登り詰めた者は、誰もが何処かぶっ飛んでいる。


 エストはそう言ったが、ブルース達とは違い自分はまともだと自身も思っていない。

 ただ、今回のエストは終始蚊帳の外だった。先行して時間を稼いだり、サウルの補助をしたりはしたが、中心に立ってはいなかった。だから、他の人よりも周りが見えていただけだった。


「いえ。こうして皆が無事に終われました。本当にありがとうございます。

ですが、あの終わり方で……引き分けで良かったのでしょうか?」


「……うん。出来れば有耶無耶にしたい。」


「そうですね。クロード君達にも言いましたが、私達の事はあまり大っぴらにしてほしくないのですよ。

セガルが来た時も大変でしたよね?そこにブルースまで居るのがバレたら、皆様も大変ですよね?いえ、すでに下で介抱している冒険者の方達やセガルの弟子達は盛大に噂しているでしょうね。」


 勝った負けたを決めるとなると……セガルの相手は一体誰だ?となってしまう。


 セガルがクロードに勝っただけもアリだが、そうなるとクロード達が困ってしまう。それはエスト達や肉屋でもあまり好ましくない。逆にセガルが負けた……あの『青龍』のセガルが?当然、クロードでは相手に相応しくないので、結局ブルースの名を出さざるを得なくなってしまう。それに道場を開いているセガルとしても困りものだろう。

 だからこその引き分け。更に言えば、そのまま戦いも無かったかのように、エストやサウルは有耶無耶にしたかった。


「それは確かによろしくないですね。分かりました。口止めはこちらで請負ましょう。」


 『肉屋』の代表が了承し、幹部の面々に目配せすると、幹部の何人かが部屋から出て行った。今から周知してくれるようだ。しかし、ジャンやガンダル、他数名は残ったままだった。その意味はエストとサウルも理解した。


 『貴方達は一体何者なのか?』


 イドはブルースだった。それだけでも十分驚きだが、彼らはパーティだ。無論、イドだけがそうだった可能性もある。しかし、先程までの光景でそうでは無いと誰もが確信していた。

 ブルースと有り得ない程の連携をとり、魔法の盾を縦横無尽に使いこなしていたノリス。実際に歌ったのはエマだが、それ以外の全てをどう見てもコントロールして、数人だけでクロードを蘇生したサウル。セガルの破龍穿槍を何の被害もなく手玉に取り、更にはブルース達を当然のように説教したエスト。

 どう考えても誰もがブルースと同格だと思うのは仕方が無い事だった。


 その為にサウルの言うように正体は知らない方が良いのも分かる。だが、知らないままなのも問題ではあった。

 だから、肉屋の代表はなるべく幹部を選りすぐり、他の者達への周知に行かせて、人数を減らした。


「ありがとうござい……」


 代表の気遣いにサウルは感謝を述べようとしたが、


「おまっ!?その声!!どうしてお前がブルースと共に居る?アーロ……むぅん……」


「この馬鹿セガル!大声で言うな。またエストに怒られたいのか?」


 正座させられていた一角から、慌てふためき動揺するセガルの大声と、そのセガルの口を塞ぐよに押さえ込んでいるイドとノリスが騒ぎを大きくした。


「……全然反省してなさそう。」


「アハハッ。あちらは楽しそうですね。

どの道イド達も必要ですし……イド、ノリス。セガルさんも一緒に、こちらで話しましょうか。」


 エストはボヤき、サウルが笑いながら、イド達を呼ぶ。サウルの許しで、正座の刑が終わり嬉しそうにイド達はソファーへと向かい、堂々と座る。

 ようやくちゃんとした話し合いが出来る雰囲気になった。





 その後……

 暫く時間が経ち……



「おい、ブルース……なんてメンツのパーティを組んでやがる!」


 応接室でイド達の説明を聞き、誰もが言葉を出せない中、一番最初に口を出したのはセガルだった。


「俺じゃない。俺は誘われただけだ。最初に言い出したのはコイツだな。」


「んあ?そうだったか?ま、お互いにフリーになった直後だったからな。流れだよ、流れ。」


「アーロンはまだ良い。いや良くねぇが……しかし、それでなんで『不死鳥』や『蜃気楼』まで居るんだよ!」


「んー。面白そうだった……からかな?」


「アーロン!ふざけんなっ!」


「セガル。落ち着け。

だが、まぁあの時は『朱雀』と『白虎』を見に行こうか!ぐらいの気持ちだったな。話に聞くぐらいでちゃんとした交流が無かったからな。」


「あー。そうだったな。ま、これも流れだよ、流れ。」


「でもこれで分かっただろ?セガル。今回のお前に勝ち目なんて無かったのだ。俺らが来た時点でな。」


「ぐっ……。」


「割と頑張った方じゃね?もっと腑抜けているのかと俺は思っていたな。

道場のお陰か?弟子も多そうだし、上手いことやったな。」


「はぁ……お前達もやってみろ!言うほど楽では無いぞ?」


「ふーん。ま、俺達にはどうでも良いか。とりあえず、俺達の事はこんな感じだな。」


 セガルの愚痴をノリスは適当に遮り、改めて『肉屋』に反応を伺った。


「……では、本当に貴方様方は……

『清流』のブルース様、『巨壁』のアーロン様、『不死鳥』のシルベスト様、『蜃気楼』のジャック様……なのですか……。」


 代表は恐る恐る確認するようにイド達へ伺い返す。


「まぁそうだな。」


「ああ。冗談では言わねぇな。」


「その通りですね。」


「……うん。」


 イド達は特に威張り散らすでも無く、当たり前のように、普通に頷いて応えた。その応えにようやくジャンやガンダルや周りの者達もざわめき出した。



 マジかよ……

 あの『四神獸』が?

 ぜ、全部居る!

 夢なのか?

 と言うか、夢の共演じゃね?


 そんな声が周りから立ち昇る。

 ある程度、落ち着いた雰囲気を持つ幹部達ですら、ザワついている。騒がれ慣れているのかイド達は逆に平然としていた。

 確かに他の面々には大っぴらには出来ないなと代表は周りを見ながら思っていた。

 そんな中、彼らの声を聞いたセガルは嘆く。


「何が夢だ!壁役だらけの四人パーティとか、バランス悪過ぎだ!お前ら、それじゃワイバーン一匹倒すのも苦労するじゃねぇか。」


「セガル。先程の話を聞いてなかったのか?俺らは趣味だと言っただろ。ワイバーンやある程度強い魔物と対峙する事など無い。」


「だな。週末にダンジョンに潜ってゴブやオークなどの雑魚を倒す……自由気ままなただの遊びだ。」


「剣士になって、剣を持ち、連携練習したり、楽しいですね。」


「……うんうん。かなり新鮮。」


「それにな、セガル。

確かに俺らは強い魔物を倒せないかもしれん。まぁそれは今後、連携を磨いていけば分からんがな。

だが、誰も絶対に死なん。俺が守らなくても、それぞれが必ず生き残る頼もしい仲間だな。」


「そりゃそうだ!お前らを倒せる者が居たら、俺が教えて欲しいぐらいだ!」


「ブハハッ。な?面白いだろ?

まさかこんなパーティになるとは俺も思わなかったが、組んで正解だったな。」


 セガルの皮肉にノリスは笑う。

 ノリスの軽口に、サウルやエストは笑いながらも頷いて同意していた。


 代表や周りの者達は、イド達それぞれで、別のパーティを組んだ方が素晴らしい活躍が出来るはずと心境複雑に思いながらも、面白いだろ?とノリスが言う気持ちも理解できてしまった。


 【強さ】とは何か?


 彼らのパーティは一般的な冒険者が言う【強さ】は無い。セガルの言う通り、強力な魔物は倒せないし、高難易度なダンジョンで活躍する事も出来ないだろう。

 だが、例えどんなに凄い魔物が出現しようが、もしかしたら存在すら怪しい『魔王』が居たとしても、彼らを倒すのは不可能なのではないか?と思った。


 【強くない】かもしれない。だけども、【弱い】とは絶対に違う。


 【強さ】とは何か?


 周りの者達は彼らを知り、よりその意味が分からなくなっていた。

 そして確かに「面白いパーティだな。」と誰もが思っていた。

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