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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第86話 決着

 セガルの弟子達と戦うブルースとノリス。


「ノリス。そろそろのはずだ。もう良い。後は俺がやる。」


「ああ。ロマン砲が来るのか。なら俺が……」


「いや、俺だ。」


「いやいや。どう考えても俺だろ?セガルのロマン砲だぞ?お前との相性が最悪だろ!」


「だからノリスが受けるのか?なあ、ノリス。お前……腹、どうした?」


「ぐっ……」


「弟子達の攻撃を受けた訳ではあるまい。

そうか!クロードに譲渡でもしたのか。その腹の状態で、セガルのアレは受けきれんだろ。」


「馬鹿言うな。このぐらい……」


 弟子達と戦いながらも、ブルースとノリスはいつも通りのじゃれ合いをしてしまっていた。


「はあぁぁぁ……お前達!散れぇぇ!!」


 二人がグダっていたら、いつの間にかセガルが溜め終わったようで、弟子達に合図を送る。弟子達は負傷者を助け合いながらバラバラと散っていった。


「チィ。言い合ってる暇も無い!ノリス!俺を後ろから支えろ!」


「クソったれめ!分かったよ。」


 セガルとクロードの斜線上にブルースとノリスは強引に割り込み、ブルースは急いで精神統一し、その後ろでブルースの体を支える。


 受け流せるのか?いや、出来なければ負ける。絶対に負ける訳にはいかないと、ブルースは【奥義】を出そうとする。


「やるぞ!【千手観……」


「……このタイミングでグダってるとは……呆れた。」


「エ、エスト!?」


 手を合わせ、発動する間際のブルースと支えるノリスの前にエストがフッと現れた。


 エストは焦るブルース達の前で人の手で組めないような印を素早く組む。普通なら指の関節がバキバキと折れる音でもしそうだったが、特に音も鳴らず、スラスラとエストは組んでいった。


「またお前が乱入か!?良いだろう。お前ら全員まとめて死んでおけ!破龍穿槍ぉぉぉ!!」


 溜めきったセガルから、ついに【破龍穿槍】が放たれた。


 それと同時にエストの印も組み終わる。


「……時空術、【虚空】開門!」


 エストは両腕を広げ、エストの正面に少しだけ透明な膜が出来ていた。

 ブルースやノリス、またクロード達にもそう見えただろう。

 だが、セガル側ではエストの正面に真っ黒な空間がぽっかり出来上がる。

 その空間は、何処までも黒く、まるで底の見えない穴のように……深く、暗い、黒が口をあける。


 セガルの放った【破龍穿槍】はエストの展開した【虚空】にぶち当たり、そのまま【虚空】の中に吸い込まれていく。


「んなっ!?」


 放ったセガルは驚きの声を発するが、そこから方向転換や途中で止める事が出来ないようで、それでも貫いてみせる!とでも思ったのか、全ての力をエストの【虚空】にぶつけた。


 十秒もすれば、セガルは力尽き、【破龍穿槍】のレーザーは消えていった。


「……閉門。」


 レーザーが消えたと同時にエストは両腕を畳み、【虚空】を閉じた。



「そこまでっ!!両者、引き分けです!」


 いつの間にか、『肉屋』の代表がセガルとエスト達の真ん中に躍り出て、終了宣言をした。


「なっ!?」


「馬鹿な!」


 これにはセガルが消化不良とばかりに不満の声が上げ、ブルースでさえもエストが乱入したが勝ったはずの戦いを引き分けにされて、文句を言った。たかが『肉屋』の代表如きに決められてたまるかと、二人は代表を睨みつけた。

 しかし、たじろく代表の前に、またもエストがフッと現れた。

 セガルには分からなかったが、ブルースとノリスには長いとは言い難いが、その付き合いでヒシヒシと感じた。


「エ、エスト?何故怒ってるのだ?」


「俺達は禁句言ってねぇぞ?」


「……うん。そうだね。でも分からない?」


「「……。」」


 エストが何に怒っているのか、分からない二人は沈黙した。だが、更に分からないもう一人が喚く。


「お前!肝心なところで、邪魔しやがって……」


「……セガル。肝心なところ?一体どこ?」


「そんなの見れば分かっただろ、俺とブルースの……」


「……残念、不正解。ココは『肉屋』の庭。

それで、セガルは街中で……しかも他人の庭で……何をした?もう一度言って?」


「うっ!」


「……ブルース。僕らはココに何しに来た?」


「……。」


「はい!」


 ブルースが押し黙るなか、ノリスが手を挙げてエスト先生に発言の許可をもらう。


「……はい。ノリス。」


「今回の事態を収拾しに来ましたです。」


「……正解。でも、おかしい。

まるで途中から雌雄を決する雰囲気だった。一緒になって戦ってたノリスもそう思わない?」


「……。」


 エストのぐうの音も出ない言い分に、ノリスは本当にぐうの音も出なかった。

 ノリスは除外したとても、エストがボッコボコに口撃している相手は二人の『青龍』だ。空気を読んで代表がフォローに入った。


「エ、エストさん。とりあえずココでこの方々へお説教は、周りの目もありますし、後でしましょう。

とにかく本当にありがとうございます。

先程、エストさんが急に現れて提案を聞くまでは寿命がゴリゴリ削れていってましたから。」


「……うん。ごめんね。僕の仲間も暴走しちゃってた。」


「いえいえ。エストさんには感謝しかございません。本当にありがとうございました。」


 エストは代表に頭を下げて謝った。代表は戦いを収めたエストを褒めたたえ逆に最大限の感謝の気持ちで同じように深々と頭を下げた。

 その光景を見た、ブルース、ノリス、更にはセガルまでも、今まで自分達のしでかした事に気づき、死にたくなる程恥ずかしくなっていた。


 それから『肉屋』の代表主導で、セガルの負傷した弟子達は周りに居た冒険者に介護され、クロード達は安静という事で、クロード達と親しい女性が多いパーティが付き添いで家まで帰され、セガルとノリス達は屋敷の一部屋まで拉致された。


 応接室らしく、かなりの人数が座れるソファーやテーブルがあり、そこに代表やジャン、ガンダル数人の幹部、そして、サウルがゆったりと座り、先程までの慌ただしさとは真逆にのんびりとした雰囲気でいた。


 ある一角を除いて……


 セガルが全てを出し切ったので、ブルースとノリスが両脇を肩組みして、応接室まで来ると、エストは三人を一角に呼ぶ。なんだかヤバそうな雰囲気だが、逃げるのは不可能。追うのは一番速いエストだ。絶対に無理。と諦めてブルースとノリスはそこへセガルと一緒に行く。


「……正座。」


「「え?」」


「……聞こえなかった?正座。」


「「……はい。」」


 ブルースとノリスは素直に従うが、セガルは納得できなかった。


「馬鹿な!?ブルース。

こいつに従うのか?誰とも分からん……しかも、どう見ても年下だろ?」


「よせ。セガル。」


「……セガル。そんなにブルースと決着がつけたかった?

なら次はセガルの道場でやろう。ブルースもそれで良いよね?僕も手伝う。存分に暴れたい気分なんだ。」


「フッ。それは良い案だな。すぐにでも向かいたいな。」


「ちょっ。いや、ま、待て……」


「……何故?ココであれだけ暴れた。自分の家でもやらないと変だよ?当然、【破龍穿槍】も使ってもらう。」


「フフッ。流石【英雄】だったな。まさに『青龍』の必殺技だ。

お前の家など簡単に吹き飛ぶことだろうさ。」


「やめろ!分かった、分かった!悪かったよ。反省して正座すれば良いんだな?」


「……うん。ブルースとノリスも何か言うことは無い?」


「俺らか?どう考えてもセガルがほぼほぼ悪いだろ?」


「なっ!?ブルース!」


「……そう思う?二人だけの戦いなら、まだマシだった。

でも【破龍穿槍】を何故止めなかった?セガルが溜めてる時に止めさせる事は簡単だったはず。」


「それはっ……」


「……受け流せるとでも?何処へ?ノリスも同じ。多分二人共、上に流そうと考えてたよね?」


「ま、そうだな。」


「……あの時ブルース達の上後方にはこの屋敷だったけど?庭で戦ってたんだよ?普通に考えて当然。

勿論影響無く、問題無く出来た?セガルを舐め過ぎじゃない?」


「「……。」」


「はっ。分かってるじゃねぇか。」


「……まるで分からなかった人に言われても全然嬉しくない。

僕は単独で先行していたんだ。だからブルース達が『肉屋』とどんな会話をしたのか知らない。だから途中から雲行きが怪しくなった時、どこまで壊して良いとか……事前に色々取り決めでもあるのかと勘繰った程だった。凄く不思議だったんだ。

その後、ノリスは適当な説明で終わらせて、勝手に行っちゃうし、僕も行くって言ったのに止めるし、それなのにセガルは放置してるし。事前にセガルを止めるならまだしも、放出系なら僕でしょ。ちゃんと言わないと分からないよ。

仕方無くアンジェから【破龍穿槍】の詳細を聞いたり、『肉屋』と話しを付けに行ったりで本当に大変だった。」


 エストは呆れながらも、怒りながらも、愚痴をグチグチと三人に零す。

 そのどれもがブルースとノリスにはグサグサと問答無用で突き刺さり、セガルとの戦いよりもダメージを受けていた。


「「本当にすみませんでした。」」


 正座のまま、ブルースとノリスはエストに頭を下げてしっかり謝罪した。

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