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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第85話 泥遊びⅢ

「す、凄い……!」


 ノリスとブルースの戦いを見て、クロードは感嘆する事しか出来なかった。



 ノリスさんは自分への贈り物だと言った。その答えがこの戦いだった。



 【魔法の盾】(マジックシールド)の更なる使い方を教えてくれていた。

 構築する為の制御が要らなくなった分を移動させる制御にまわしているとクロードは理解した。

 ノリスさんならもっと複雑な動きをさせる事も可能なのだろう。しかし、単純な円運動しかさせていない。回る速度はそれぞれ違うようだが、恐らく自分でもこれぐらいなら練習すればいつか出来ると思って、実践してくれているとクロードは思った。


 更には壊れた時のエフェクトで目くらましや、他人に制御を委ねるなど、クロードにとって自分の可能性がドンドン広がっていった。


 もう自分の完成系はアレなんじゃないかと思ってしまう程、全てが凄かった。

 そんな思いが顔に出ていたらしく、サウルさんから注意された。


「クロード君。ノリスも言っていたでしょ?

アレはクロード君じゃありません。あくまでもノリスがやっている事です。」


「それは……そうですが……。」


「確かに今のクロード君にとっては目標かもしれませんね。

ですが、成長していけば、魔法使いのクロード君の方が展開する【魔法の盾】(マジックシールド)を増やせるでしょう。

それに君の仲間は四人居ますから、単純な円運動では身動きが取りづらいでしょうね。」


「確かに……。」


「ノリスとクロード君の個人としての違いもありますが、そもそも仲間が違います。

君は、君達は、特訓で知りましたよね?

クロード君がエマ君達を守る為には、エマ君達もクロード君を支えている。それを忘れては絶対にいけません。

ノリスのようになるのではなく、ノリスの技術を身に付けて、エマ君達の為に使いなさい。

沢山話し合って、相談して、喧嘩してね。」


「は、はい!分かりました。」


 クロードは決意を込めてサウルに返事をし、再びノリスの戦い方を食い入るように見つめた。



 クロードは思い直す。


 サウルさんの言う通りだった。今のノリスさんは確かに凄いし、自分にとっても可能性の宝庫だ。だけど、そのままの動きをケイト達と一緒にやっても失敗する未来しか見えなかった。

 円運動が特にそうだ。二人だけだから……同じ壁役で周りが見えているイドさんだから……あんなに目まぐるしく動いていても二人は問題なく対応している。

 では、自分達五人が入り、邪魔にならないようにするとなると……かなり円を広げるか?動きを遅くするか?まるで動かす意味がなくなりそうだった。


 ノリスさんは自分が出来そうな事を見せてくれている。だけど、「そのまま使うな。自分で選び、それをパーティで研鑽して自分達の為に使え。」と言ってくれているとクロードは理解した。



 クロードのノリス達を見る視界がぼやける。


 本当ならもっと色んな事を教わりたかった。

 お金を貰った時、『肉屋』では無く、ノリスさん達にお願いしたくなった程だった。

 特訓中、何度も色んな事を聞きたかった。盾の使い方、【魔法の盾】(マジックシールド)の運用方法、更には『剣聖』の苦労話などなど……どんな事でもずっと話し合っていたかった。


 だけど、それは出来なかった。

 ノリスさん本人に言ったように、ノリスさんの正体に気づいたあの日だけで自分は縛られたのだから。


 こんなにも素晴らしい人を尊敬し、あの人のようになりたいと思うのは自然な事だと思う。でも、その人は敢えて「自分の為に自分であるべきだ。」と言ってくれる。


 視界がぼやけるのも仕方がなかった。だけど、あの勇姿だけは見逃す訳にはいかないと、震える腕で、目を拭い、水気を飛ばす。



 クロードの近くに居た、ケイト、メリル、エマもノリスとイドの戦いを食い入るように見つめていた。


 ノリスの戦い方は、クロードへの贈り物だと三人はすぐに思い至った。

 そして、それに対応するイドはまるで自分達はこう動くべきだと教えてくれているようでもあった。いや、イドは剣も弓も回復行為もしていないので、純粋に動きを真似ろと言っているのではなく、もしクロードがこういう方法を取った時、自分ならどう動くべきか考えろ!と言っているようであった。


 その思いを三人は受け取り、「私ならこうする。」、「クロードならこうして欲しい。」と、たまにブツブツと呟き、戦いを真剣に見続けていた。


 アンジェだけは、ノリス達の戦う相手が同門の弟子達であり複雑な表情で見守っていた。

 その気配を感じたのか、エストが近寄り、少しでも気を紛らわす為なのか、セガルの今から使う技の詳細をボソボソと聞いており、アンジェも他の者達の邪魔にならないよう声を抑えて答えていた。



「本当に……凄い……」


 ノリス達の戦いを見て、ついに堪えきれなくなったのか、ケイトは感情が零れる。それはクロード達誰もが思っていたので、全員が目をそらさずに頷いていた。


「ねぇ。クロード。

ノリスさんは一体誰なの?貴方は知っているでしょ?」


「それは……」


「ケイト君。それは今、聞いても答えられません。クロード君も後にしてくれませんか?

イドの場合は流れで仕方がなく自らが言いバラしましたが、本来の私達を知らない方が良い事もあります。

君達だって思っているのでしょ?イドがブルースだった。ノリスも同じ誰か?……なら私やエストも?……なんて想像しないはずがありません。」


「サウルさん。それは……そうですよ!」


「セガルとブルースだけでも君達の興奮は凄まじい。

セガル一人だけでも、この街に来た時はどうでした?街の人達はお祭り騒ぎでしたでしょ?

それが増えてご覧なさい。興奮では済みません。下手すれば暴動になりかねない。

その責任を貴方達は取れますか?だから私達は極力答えないのです。」


「だけど!何も知らないのは気持ち悪い。」


「メリル君。更に言えば、これは君達の為でもあります。その理由をアンジェ君なら理解しているでしょう?」


「……はい。セガル師匠の弟子としての……重圧ですね。

私達が一番最初に教わる心構えみたいなもの……アレが無かったら、私もすぐに潰れてしまったはずです。」


「……セガルは何気に良い師匠なんだね。アンジェの事も可愛がっているようだし。」


「みたいですね。だから、もしかしたら今後、ケイト君やメリル君は周りからブルースの弟子として認識されるかもしれませんよ?」


「え?」


「そんな!何も教わってない!」


「そうです。だから何も教えていないのですよ。

分かりましたか?ブルース一人ですら、周りはそう思うかもしれない。それにノリスやエスト、私まで加わったら、どうなると思います?」


「「……。」」


 ケイト達はその未来を想像して押し黙る。


「……大丈夫。アンジェが居るから教えてもらうといいよ。アンジェも申し訳ない気持ちで一杯でしょ?それを皆に教えて恩を返してあげて。」


「はい!私に出来る事があれば、何でもする!」


「アハハッ。そんなに肩肘張らずに昔と一緒で良いのですよ?クロード君に許してもらったでしょ。終わったらゆっくり話し合うと良いでしょう。」


「そうだね。アンジェ。宜しく頼むよ。」


「でも、何度もイジってあげるからね?」


「わわっ!アンジェと仲間です!」


「フフッ。エマの失態もアンジェに聞かせなきゃね。」


「うぅ……皆。本当にありがとう。」


 アンジェが再び泣き出した。クロード達はアンジェを励まし笑う。それを受けて、アンジェも少しだけ泣きながら笑っていた。クロード達はようやく五人が揃ったのだと心から思っていた。

 その光景をサウルは優しく見守り、エストは満足して頷いてからフッと消えた。

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