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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第84話 竜と亀

 ノシノシといつも通りに歩いてきた者にブルースは声をかけた。


「ノリス。何故来た?」


「何故って、しょうがねぇだろ!

ただでさえ乱戦になりそうなのに、『肉屋』まで参加したら、ぐちゃぐちゃだ。」


「俺一人で十分だぞ?」


「それを俺に言うな。俺も言ったさ。でも周りが納得しねぇだろ。」


「それもそうか。」


「ああ。それに丁度良いと思ったんだ。

イド……いや、今はブルースと言った方が良いか?ちょっとクロードに贈り物をしようと思ってな。少し耳を貸せ。」


 隣まで来たノリスはブルースにこそこそと話しかけるように贈り物の内容を伝えた。

 聞いたブルースは少しだけ感心しつつも、何故そこまでするのか疑問に思った。


「ほぅ。急にどうした?」


「どうせ、セガルのアレまで暇潰しだろ?ならちょっと付き合え。

アイツは俺の正体を気づいてやがった。しかも意味も理解して、気づかないフリまでしてよ。」


「フッ。なんだ。そんな事か。」


「なんだとはなんだ?

お前やサウルならまだしも、俺に気づく訳が無いだろ?マジで何処でバレたんだ?」


「それは俺も知らん。

だが、そうだな。お前が昔よく使っていた盾を出せ。確か、アースドラゴンの爪を素材にした盾があっただろ?どの道、今から盾を使うのだ。それを出せ。」


「んあ?ああ、アレか。良いぞ。」


 ノリスはブルースの指示通り、『玄武』の頃に割と長く使い込んでいた盾をマジックバッグから取り出す。


 それはとても綺麗な盾だった。

 爪を素材にしたせいか、アイロン型のヒーターシールドで、更には素材本来のものなのか?それとも加工した職人のお陰なのか?精巧な紋様が盾の表面に刻まれていた。


「ほれ見ろ。その紋様だ。

クロードが最初に出した【魔法の盾】(マジックシールド)にそっくりじゃないか!あの時のクロードは意図して出したのだろうな。」


「ああ?この紋様なんて、何処にでも売ってるだろ!」


「まさか知らないのか?お前が使っていたからこそ、何処にでも売られるようになったのだぞ。」


「……マジで?」


「ああ、そうか。お前は防具屋に立ち寄って真剣に物は見ないか。今度行って見てみるといい、確かに何処にでも売っているが、全部お前の名前が付いてるぞ?」


「マジかよ……鳥肌たってきた。もうコレはお蔵入りだな。」


「仕舞うなよ?今から使うのだろ?

クロードに見せるのだ。それで丁度良いだろ。

【阿修羅】だと……邪魔だな。弟子程度なら必要も無いだろう。

俺も彼らの決断を褒めようと思っていたのだ。仕方が無いから、お前に付き合ってやるか。」


「相変わらずのツンデレっぷりだな。素直に褒めれば良いのによ。」


「お前にだけは言われたく無い。」


 ブルースは【阿修羅】を解きながら、盾を装着するノリスと背中合わせに周囲を見る。

 セガルの弟子達は十分な時間があり、すでに二人を取り囲んでいた。


 弟子達との戦いはすぐに始まった。ノリスがあからさまに魔力を込めだしたからだ。


 例え、ガタイが良くても、盾を持っていても、ノリスの込める魔力の量に弟子達は警戒する。しかも先程まで師匠と戦っていたクロードも魔法使いなのに壁役をしていた事も頭にこびり付いていた。

 『この男も魔法使いかもしれない。ならば範囲魔法を撃ってくるかもしれない。』弟子達がそう思うのは仕方が無かったかもしれない。


「何かを撃たせるな!その男から先に!」


 ノリスに近い何人かが一斉に突きを放ち、攻撃を仕掛ける。


「よっしゃ!ほらよ。」


 ノリスのあまりにも軽い掛け声に、何を使ったのか弟子達は一瞬分からなかった。

 しかし、数人で放った突きが四枚の【魔法の盾】(マジックシールド)で全て受け止められているのを見て、逆に戸惑った。

 攻撃じゃなかった。やはりこの男は先程の師か何かだと弟子達は確信した。


「所詮、ただの【魔法の盾】(マジックシールド)だと思ってるな?

俺のはクロードとは違うぞ?ここからが見せ場だ。舞え!」


 ノリスは弟子達の侮る顔色を見てニヤリと笑う。

 そして、四枚の【魔法の盾】(マジックシールド)はノリスを中心にブルースも中に入れてグルグルと不規則にノリス達の周囲を廻り出した。


 その盾が廻る間を縫って、ブルースは円の外に飛び出ては弟子の一人を攻撃したり、反撃が来る度に円の中に入り、廻る盾に受けさせたりと器用に動き回った。


 弟子達もブルースと同じように盾の廻る間を縫って突きをノリスに放つ。しかし、ノリスは難なく実際の盾を引っ掻くように斜めに逸らす。そこに反対側から廻ってきた盾が突いた槍の中間に激突し、テコの原理で簡単に槍は折れていた。


「ノリス。お前も少しは倒せ。」


 ブルースが横から廻ってきた【魔法の盾】(マジックシールド)を蹴りあげる。


「あいよ。なら、後ろに一枚置くか。」


 ノリスは前に居る弟子に突撃しつつ、手を横に振り、一枚をブルースに向かわせる。


 ノリスの前に居た弟子は慌てて突きを放つが、それはノリスの持つ盾で防がれた。しかし、突撃は止めれたのでホッと一息。

 次の瞬間、ブルースが蹴りあげた【魔法の盾】(マジックシールド)が上に円運動し、ノリスが相手した弟子の脳天に降ってきた。


 ブルースを相手にしていた弟子達は蹴りあげて片足で立つ状態を狙い、一人がもう片方の足を薙ぎ払う。たまらずブルースはジャンプして空中に逃れる。


「今だ!」


「何がだ?」


 空中なら逃れられないと思い、他の弟子に合図を送るも、ノリスが前に出た為、円運動の中心がズレ、丁度ブルースの背後に【魔法の盾】(マジックシールド)が存在していた。その【魔法の盾】(マジックシールド)をブルースは蹴り飛ばし、反動で弟子の前に飛び込み、そのままの勢いで吹き飛ばす。


 ノリスとブルースは難なく元の背中合わせに戻り、多少少なくなった弟子達を相手に大立ち回りを演じ続ける。



 弟子の一人が槍のスキルで目の前に来たノリスの【魔法の盾】(マジックシールド)一枚をなんとか壊す。


「はっ!よし!残り三枚だ!」


 他の弟子を勇気付けようとしたのかもしれないが、壊れた【魔法の盾】(マジックシールド)は大袈裟に砕け散りキラキラと壊した弟子に降りかかった。


「ソレを壊しただけで喜ぶなよ。俺を倒さなきゃ意味無いだろ?」


 壊れた【魔法の盾】(マジックシールド)が目くらましとなって、難なくノリスの接近を許し、また一人の弟子が吹き飛んでいった。



「ノリス。減ったのなら一枚俺にくれないか?制御は俺にまわせ。」


「あいよ。」


 ブルースがノリスに頼むと、ノリスはブルースの前に【魔法の盾】(マジックシールド)を追加で作った。

 ブルースはノリスの作った【魔法の盾】(マジックシールド)を腕に付けて、感触を確かめ、弟子の放った突きを本物の盾のように腕に付いた【魔法の盾】(マジックシールド)で受け止めた。


「馬鹿な!?そんな事……」


「出来る訳がないか?こうして出来てるだろ?」


 驚愕して固まった弟子をブルースは瞬時に踏み込み、蹴って吹き飛ばし、また飛び下がり、ノリスと背中合わせに戻る。


 三枚の【魔法の盾】(マジックシールド)が縦横無尽に二人を廻り、更には二人共、盾を身に付けて、セガルの弟子達と戦った。

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