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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
83/104

第83話 二人の竜Ⅲ

 ブルースとセガルの戦いは、激しいまま続いた。


 周りの者達から観れば、何故疲れないのかと疑問や異様に感じていた。寧ろ、周りの者達が観ているだけで疲れてしまいそうな程だった。


 しかし、元とはいえ二人とも【英雄】だ。もっと長く過酷な戦いを何度も経験してきた。多少息遣いが荒く、汗を流していても、ブルースもセガルもまだまだといった具合で、戦い続けた。


 神速の突きを繰り出し、更には多彩な攻撃スキルも時折放ち、【竜爪】までも囮にして、ブルースを追い込もうとするセガル。

 それを【阿修羅】を纏ったままのブルースが三対の腕で流れるように受け流していく。


 相変わらず、激しい戦闘なのだが、あまり激しい音がしない異常な戦いだった。


 だからこそ、戦っている途中の二人にも、周りの音が……エマの歌が聴こえてきた。


「何っ!?この歌は【復活(リザレクション)】だと?

ブハハッ。馬鹿が……たった一人で歌うなど……御伽ですらそうそう出てこないぞ。」


 エマの歌を聴いたセガルは驚き、されど過去の経験からその無謀な行為を笑った。


「本当にそうか?俺は知っているぞ?」


「ふん。『不死鳥』だろ?俺を馬鹿にするな、ブルース。

あんなのは作られた話だ。俺らの話でさえ、盛られまくってるのだぞ?」


「まぁそうだな。」


「大体、あんな小娘にそんな『不死鳥』のような事が出来る訳がない。不可能だ。」


「フフッ。そうかもしれんな。」


 セガルとブルースは戦いながらも、器用に会話していた。

 二人共、過去の経験から【復活(リザレクション)】を当然のように知っている。だからこそ、セガルは無理だと決めつけた。

 『不死鳥』が単独で使った逸話があろうとも、あくまで逸話だ。それが真実とは限らない。

 更に言えば、その『不死鳥』の功績をそこら辺に居る僧侶が使える訳がないとセガルは思った。

 その点だけはブルースも同意するが、残念ながら『不死鳥』はクロード達のすぐ隣に居るのだ。そして、別れる前にサウルは普段通りで「間に合わないなんて絶対にない。」とまで言い切った。


 確かにブルース達『青龍』の話には盛られ過ぎて、当人が出来ない事まで書いてある物もある。無論、真実も混ざっている。それが嘘か誠か?当人達しか分からない。

 同じ立場だったからこそ、『朱雀』の話も真贋が分からないので、セガルのように全てを信じないのが普通かもしれない。ブルースも最初はそうだった。実際にサウルに会い、同じパーティになる前までは……。


 ブルースは何も知らないセガルを、少し前までの自分と重ね合わせて笑った。


 笑うブルースをイラッとしたセガルが猛攻を仕掛けようとするも、【復活(リザレクション)】の歌と共にクロードの体が光り出したので様子が一変した。


「馬鹿な!?……【復活(リザレクション)】が発動した……だと?……有り得ない。」


「どうした?手が止まっているぞ?セガル。」


「ぐっ……。発動したからといっても、成功する訳がない!どうせ途中で失敗する。」


「フッ。本来なら逆だな。お前のそれは願望だ。そして、俺は確信しているぞ。」


「う、うるさい!成功しようが、もうどうでも良い。お前を倒して、また殺してやる。」


「出来るのか?俺に手を焼いているようでは、難しそうだな。

今の俺の仲間は……俺でも敵わんのだぞ。」


 ブルースは忠告する。


 ブルースは、『清流』のブルースとしてでも、今の仲間達には勝てないと思っていた。と言うより、戦いにならないのだ。

 誰とやろうが、誰もがそれぞれのやり方で鉄壁を誇る。やり合うのが馬鹿らしくなる程に……更に、それぞれが全くその気が無いのだ。そもそも壁役だったのでロクな攻撃手段や攻撃意識すらも持っていない。

 なので、勝つとか適う以前に、戦う機会すら無いだろうと、ブルースは確信していた。


「ふざけるなっ!Eランクまで落ちぶれたお前の仲間なんぞ、俺の敵ではない!」


 戦いながらも、セガルはブルースの首にかかった木製の冒険証を見て、吐き捨てる。

 ブルースは「確かにそうかもしれんな。」と思いながらも、セガルが真実を知った時、「詐欺だ!」と騒ぎ立てる姿を想像して酷く滑稽に感じた。


 その気配を感じてか、セガルの猛攻がもう一段階上がりつつ、喋りながらも戦い続けていると、突如セガルの動きが止まった。


「ア、アンジェ……何故だ?

何故、その男を選ぶ……どう考えても間違い……だ。」


 ブルースは止まったセガルを警戒しつつ、更に別の顔で後方を見ると、ケイトやメリルに支えられ、上半身を起こしたクロードに、アンジェが抱きついていた。クロードの胸の中で泣き、クロードに慰められているアンジェが見えた。


「セガル。お前の言い分も分からんでもない。

確かに俺も最初、アレは見えてる地雷だと思った程だな。」


「ならば!何故だ?ブルース。」


「何度も言った。決めるのも、選ぶのも、進むのも、俺とお前では無い。クロード達やアンジェだ。お前こそ、何故そこまでして構うのだ?」


「構うだと?当たり前だろ!ブルース。お前の方がおかしいぞ!

どう見ても、誰でも、あんな構成に賛成できるはずがない!俺らの苦難の比じゃない。あの『玄武』よりも酷いのだぞ!」


「そうかもな。だが、だからどうと言うのだ?

俺らや『玄武』も【英雄】まで登った。お前の言う、もっと効率が良いパーティが過去幾度と倒れ、居なくなっていくのは何度も見てきた。

同様に、構成が悪くても、本人達が納得し、苦難を乗り越えていく様を何度も見てきたではないか?」


「馬鹿を言うな。そんなパーティはひと握りだったろ。確率の問題だ。効率の悪いパーティは、俺らが見る前にいくつものパーティが簡単に消滅していってるのだ。組合に聞いてみろ!これは真実だ。」


「フッ。真実か……そうかもしれんが、その言い方だとお前はまるでアンジェを信じていないようだな。

何故消滅すると思い込むのだ?例え苦難だろうが、自分の育てた者ならば簡単に跳ね返せるはずだと何故言い切らない?所詮その程度か。お前の自慢の弟子とやらは……。」


「ブルース!貴様、許さんぞ!!」


 セガルはブルースの煽りにブチ切れて、距離を取り、力を溜め込みだした。


 ブルースにとっても馴染みのある動きであり、その動きはある技を使う為のものであった。



 【破龍穿槍】


 セガルの全てを槍に込めて、解き放つ、真のセガルの必殺技だ。

 ブルースが共に居た頃から変わっていなければ、十分程、今のセガルのように力を溜める時間がかかり、更には放った後、二十分程はセガル自身、何も出来なくなる。

 確かに、この一撃はその名の通り一発でドラゴンをも沈める。しっかり当たれば……だが。残念なことに、よく外れるのだ。

 突きの軌道から、その速度も合わせて放つ為、ただの直進攻撃だった。しかも発射台たるセガルが本当に全てを込める為、ブレまくるのだ。

 当時のノリス達から苦笑と共に「ロマン砲」と言われた技でもあった。


 ブルースは若干呆れつつも、冷や汗を流す。

 セガルの暴走でもあるが、ブルースが思う自分を倒す唯一の方法でもあったからだ。


 避ければ簡単に対処できる。しかし、それは出来ない。

 恐らくセガルも気づいて、生き返ったばかりのクロードを狙うだろう。支えてもらわなけれは起き上がれない程に動けないなら標的として最適だ。なので避ける選択肢はとれない。

 だからブルースは【破龍穿槍】を受け流さなくてはならない。いや、火球のような攻撃では無く、云わばレーザーのような攻撃なので、受け流し続けなければならなかった。

 出来ればブルースの勝ち。出来なければセガルの勝ち。至極単純だった。


『まぁそれも雌雄を決するには丁度良いかもしれんな。』


 とブルースはそんな事を思いながら、致命的な弱点をセガルに聞く。その弱点は今までブルースが稼いでいた時間だった。


「おい。溜まるまで俺は何をすれば良い?」


 仕方が無いので、待ってあげようかとも思っていたが、セガルは更に暴走した。


「弟子達よ!少しの間、時間を稼げ!

『清流』のブルースとて恐れる事は無い。こいつは攻撃がからっきしだからな!」


 セガルの命令で、最初は少し戸惑っていた弟子達だが、続く言葉で今まで一度も攻撃していないのを思い出し、奮起して、ブルースの前に立ちはだかった。


 「面倒だな。」とブルースは思っていたら、『肉屋』まで参戦してきそうな雰囲気になり更に面倒な事になりそうだった。

 しかし、『肉屋』が参戦することは無かった。


 代わりにたった一人。


 この場の雰囲気に相応しくない、呑気な空気を纏って、頼もしい?仲間が歩いてきた。

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