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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第82話 泥遊びⅡ

 クロードはアンジェを慰めつつも起きた上半身で状況を確認する。


 クロードの記憶では先程まで『竜爪』のセガル様と戦っていたはずだった。その戦いで敗れ、自分は死んだ。だけどサウルさん達のお陰で生き返った。何も出来なかったはずなのに、何故かアンジェが胸の中に居る。

 いまいち状況が理解できなかった。


 なので、周りを見渡しながら、状況を確認して発見した。


「そういえば、アンジェがココに居るということは……セガル様は?……そうか。イドさんが……。」


 戦いはまだ続いていた。


 クロードの代わりに途中エストが参戦していたが、死んでいたクロードには知りようが無く、今はイドがセガルと激しい戦闘を続けていた。


 その光景は本当に凄まじかった。


 クロードにとっても半分以上見えない突きを何度も放つセガル様と、それを三対の腕と三つの顔を持ったイドさんが難無く受け流していた。

 今の戦いを見て、自分が戦った時のセガル様は、ある程度手加減していたと知る。いや、相応しいかどうか見極めていたのだろう。その期待に応えられなかったにも関わらず、アンジェはココに居る。

 恐らくイドさんが何かしたはずだが、クロードにはどうやったのか想像がつかなかった。


 二人の戦いを鳥肌を立てて見つめていると、その疑問の答えを脇にいたケイトが教えてくれた。


「本当に凄い戦いよね。

クロード。イドさんね……本当は『清流』のブルース様だったのよ!」


「……やっぱり……そうか。

アンジェはイドさ……ブルース様に言われて来たのか。」


「うぅ……ぐずっ……うん。「セガル師匠は俺に任せろ」って送り出してくれた。」


「『やっぱり』?クロード。知ってたのですか?」


「狡い!知ってたのなら教えて欲しかった。

そしたら特訓中にブルース様から色々教えてもらえたのに……。」


 クロードの返答をエマが目ざとく聞き返し、メリルは駄々をこねた。メリルの駄々に追従するように頷くケイト達をクロードは苦笑しながらも首を振った。


「ごめん。だけど俺もブルース様だとは知らなかったよ。『四神獣』の誰かだとは思っていたけどね。

でも、教わるのは無理だと思うよ。そうですよね?サウルさん、エストさん。

あの人はイドさんだ。イドさんだったから、俺達の特訓に付き合ってくれたんだ。

ブルース様だったら……ケイト、メリル。二人共、アンジェと何も変わらなくなってしまう。」


「ハハッ。クロード君は本当に手がかからなくて楽ですね。」


「……うん。正解。」


「俺も、アンジェと同じでしたから……。」


「クロード?それは、どういう意……」


 サウル達に返すクロードの答えの意味が分からず、ケイトは直ぐに質問しようとしたが、女性の声の届かない男が強引に割り込んできた。


「クロード。もう大丈夫か?」


「ノリスさん。本当にありがとうございました。」


「よせ。俺は特に何もしてない。礼ならサウルやエスト、今も戦っているイドに言え。」


「ええ、そうですね。

ですが、皆の声が聞こえる前に、ノリスさんから叱られたような気がしました。そのお陰で俺は奮起して、皆の声のところまで急いで向かっていたんです。」


「そりゃ気のせいだ。」


「……相変わらずのツンデレ。」


「アハハッ。エスト。バラしちゃ悪いですよ。」


 そっぽを向いて即否定するノリスに、エストはボヤき、サウルが追撃する。その三人をクロードは微笑んで見ていたら、ケイトが膨れ出した。


「ちょっと、ちょっと!?

クロード。無視しないで!アンジェと同じって、どういう意味よ?」


「ああ。アンジェはあのセガル様から色々教わったんだ。その教えは何よりも大切になってしまう。当たり前の事なんだ。誰もが知っている『竜爪』のセガル様だからね。

ケイトだってブルース様から何かを教えてもらったら、頑なにその教えに従うかもしれない。あの『清流』のブルース様だよ?

同じなんだ……俺もそうだったから、良く分かる。

……憧れの存在だったんだ。その人から色々言われたし、援助もしてくれたんだ。

だから何がなんでも変わらなきゃ……絶対に期待に応えなきゃいけない!と思ったんだ。

アンジェと対立しようとも、その人から言われた事が全てだったんだ。」


 クロードはケイト達を見ながら語るが、途中からノリスを真っ直ぐ見つめていた。その視線と内容を聞いたノリスは気づく。


「クロード。お前は……俺を……。」


「はい。……でも、貴方はノリスさんでした。

アンジェが出て行った時に、俺もアンジェと同じだったとようやく理解しました。せっかくノリスさんがノリスさんだったのに……すみません。

そして、貴方はその後も特訓中もずっとノリスさんだった。イドさん達もそうだった。

だから俺達は何にも縛られず、自分達で考えて自分達の為の戦い方を覚えた。

それにアンジェの縛りも解き放ってまでくれて、本当にありがとうございます。」


「セガルの縛りは俺じゃない、イドだ。

だが、そうだな。お前はお前だ。何度も言ったが、お前は俺にはなれない。俺の知ってるアイツにも似ているようで違うからな。

これからもお前の道はお前自身で切り開いていかなければならない。その道は俺達の道では無い。だから俺達はお前の希望に付き合っただけだ。

しかし、そうか……お前の希望を、もしかしたら俺が歪めてしまったか?」


「いいえ。例えそうだったとしても、この道は俺が選びました。

それにこの道を進む覚悟は出来てます。だからノリスさんが気にする事は何もありません。俺は道が出来た事に感謝しかありませんから。」


 クロードは真っ直ぐノリスを見つめて何度も感謝していた。

 ノリスの正体を知らないケイト達は若干取り残されていたが、イドと同格なのだろうという雰囲気は伝わりクロードとノリスの会話を黙って聞いていた。

 ノリスはクロードの今後を激励しようとしたが、警戒していたイドとセガルの戦いが急変した。


「そうか。これからも頑張……なっ!?マジかよ?あの馬鹿……正気か!?」


「ノリスさん?」


 ノリスの戸惑う声にクロード達もザワつく。ノリスの見る視線の先は二人の『青龍』同士の戦いであり、クロードやサウル達にも何がどう戸惑うのか分からなかった。


 ただ二人の戦いが激しい攻防ではなくなって、セガル様が距離をとり、咆哮しながら力を溜め込んでいるようで、それをブルース様がじっくりと待つ様子だった。


 ノリス以外では約一名、セガルのする事を知る者が驚き、呟く。


「セガル師匠……そんな……」


「アンジェ?セガル様は何をしようとしているんだ?」


 クロードの質問にアンジェは唖然としたまま返事は無く、代わりにノリスが答えた。


「ロマ……いや、確か【破龍穿槍】だったか?

槍の矛先に極限まで力を溜めて、穿ち放つ奴の遠距離攻撃方法だ。

おいおい?あんなのをココで撃ったら、射線上に甚大な被害が出るだろ。

それを溜めてる間は、一体どうするつもりなん……そうか。弟子達に時間を稼がせるのか……あの馬鹿が。」


 ノリスは説明しながらも、セガルに呆れていた。ノリスの説明通りにセガルの後方に居た弟子達が、わらわらと前に出て、イドと対峙するようだった。


 セガルとイドの戦いは二人で完結していたので、周りの『肉屋』も観客に徹していたが、セガルの弟子達が参戦するのは話が違うとばかりに『肉屋』の冒険者達も武器を抜き、イドを援護しようと前に出る動きをし始めていた。

 その中にはジャンやガンダルの姿もあったので、ノリスは急いで二人に呼びかける。


「ジャン!ガンダル!待ってくれ。

ここはイド……ブルースに、『清流』に、任せれば良い!」


「ノリス!?だけどよぅ。」


「そうかもしれんが、これはちょっと違うんじゃねぇか?」


「ったく、仕方が無いな。……そうだ!

クロード。丁度良い。頑張ったお前に俺から贈り物をやろう。そこで良く見ておけ。だが、分かってるとは思うが俺は俺、お前はお前だ。良いな?

ジャン。ガンダル。すまんが皆を下がらせてくれ。ブルースと付き合いの長い俺が代わりに出る!

言い難いが、皆ではブルースの邪魔になるかもしれん。」


「ノリスさん!?」


「ノリス!?」


「チッ。分かったよ。だが負けるなよ?」


「ああ。任せろ。」


「……ノリス。僕も行くよ。」


 ノリスがイドの元へ行こうとすると、隣にフワッとエストが現れ、同行すると言った。ノリスはエストに向かって首を振り断る。


「エスト。セガルの狙いがイドとは限らん。

その時、クロード達を守る者が欲しいんだ。サウルも消耗してるはずだしな。お前にはココの守りを頼む。」


「……確かに。分かった。ノリス、頑張ってね。」


 エストは納得し、サウルやクロード達を守る位置まで下がる。

 エストの激励に手を挙げて応え、もう一人の元【英雄】が舞台に上がった。

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