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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第81話 泥遊び

 クロードが生き返った。


 生き返ったばかりなので、体を上手く動かせず、地面に横たわったままであった……というよりケイト達が倒れ込んだままクロードを抱きしめて身動きが取れないようだった。

 しかも、あまりの嬉しさにメリルが抜け駆けをしてクロードにキスしたのをきっかけに、ケイトやエマまで参戦してイチャつきだした。アンジェだけは流石に空気を読んでいた。


「……こんな場所で凄い。何も言わなければ、どこまでもいきそう?」


「アハハッ。ノリスの気持ちが良く分かる光景ですね。」


「んあ?あぁ。『泥遊び』か。慣れれば、どってことないぞ?混ざるのは死んでもごめんだがな。」


 蘇生の為、近くに居たエストとサウルの事などお構いなしに嬉しさを爆発させてしまっているケイト達。そんなエスト達の感想に少し離れていたノリスは、チラっとクロードを見て、以前に散々見慣れた光景を『泥遊び』と称して、すぐにイド達の警戒に戻った。


「うぷっ……むぐぅ……ちょっ!み、皆。少し落ち着いてくれ!」


 ケイト達からキスの嵐が襲来していたが、横からエスト達の声が聞こえて、ようやくクロードは焦りだした。状況がさっぱり分からなかったようだが、イチャついて良い雰囲気ではないことだけは理解したようだ。


「……ようやく話せそうだね。」


「エスト。まだまだだな。俺の経験から後五分はかかるだろう。」


「ハハッ。真面目に戦っているイドが可哀想になりますね。

今はそんな余裕も無いですし、仕方がありません。私がなんとかします。

エマ君!そろそろ辞めないと、お勉強……」


「ひぃ!ご、ごめんなさい!サウルさん。」


 サウルが『お勉強』と言うだけ、エマは魔力切れで体は動かせなかったが声だけピシッとして、イチャつくのをすぐに辞めた。


「ケイト君とメリル君も参加してみますか?」


「うっ!サウルさん……エマから聞いてたアレ……ですか?」


 にっこり微笑んでサウルはケイトとメリルにも投げかけると、エマからお勉強内容を聞いていたらしく、二人ともすぐに顔を真っ青にして、クロードとイチャつくのを辞めた。


「さて、これでちゃんと話せますね。

クロード君。調子はどうですか?体におかしな異常は感じませんか?」


 ケイト達が少し体をずらして、ようやく横たわるクロードの顔が見えるようになったので、サウルは覗き込みながら蘇生状態の確認をとった。


「サウルさん。俺は……一体?調子は……悪くないはずなのですが、全体的に力があまり入りません。」


「悪くないなら大丈夫そうですね。力が入らないのは仕方がありません。そういうものです。

では次に、クロード君は何処まで覚えていますか?思い出してみてください。」


「…………、あっ!俺はセガル様と戦って……、槍の軌道を読み違えた……けど、あれ?」


 クロードは暫く思いふけり、セガルの三連突きが腹に突き刺さったのを思い出し、手で自分の腹を触ったが、穴が空いておらず少し混乱していた。


「記憶障害も無さそうですね。

エマ君。よく頑張りました。クロード君の蘇生は無事成功です。

念のため、暫くは安静にしていた方が良いでしょう。」


「はい。サウルさんこそ、本当にありがとうございました。」


 エマの感謝にケイトやメリルも続く。ただ一人気まずいアンジェはクロードにバレないよう、声をあげず、何度もサウルに感謝の黙礼を繰り返していた。

 ただ、アンジェが倒れ込んでいるのはクロードの体だ。流石に四人ものしかかっていたら第一声の発言通り重いだろうし、力が入らないとはいえ四人居ることぐらい直ぐに気づく。なので、アンジェの気遣いはクロードにバレバレだった。

 更にサウルは「蘇生」と言った。ここでようやくクロードは自分がどうなったのかを正確に知った。


「……そうか。俺は死んだのか。

それを、サウルさんが……サウルさん、ありがとうございます。」


「いえいえ。私は半分手伝っただけですよ?

何度か経験がありますから、クロード君にも聴こえていませんでしたか?」


「はい。ぼんやりとですが……。

……エマ。君の歌が聴こえたよ。ケイトやメリルの声も。

それに……アンジェ。君の悲痛な叫びもね。」


 クロードはケイト達の影に隠れているアンジェを体にのしかかる重みで判別して声をかける。

 クロードが声をかけたので、ケイト達は道を開けるように、体を退ける。一時はクロードを救う為に協力した彼女達だが、まだ完全にアンジェを許していないようで、その顔が、その瞳が、気持ちを表していた。


「クロード……ごめんなさい。こんなつもりじゃ……」


 ケイト達が目を光らせたせいで、アンジェの言葉は段々小さくなっていった。

 倒れたままでは何も出来ないと思ったのか、クロードは強引に体を起こす……が上手く力が入らず、ケイトとメリルに両脇から支えられ、ゆっくりと上半身だけ起こした。


「ケイト、メリル。ありがとう。

アンジェ。良いんだ。俺は気にしない。

こうしてアンジェが戻ってきてくれた。それが何より嬉しいんだ。君が出て行ってから、ずっとそれだけが願いだった。

アンジェ。ありがとう。そして、おかえり。」


 クロードは優しくアンジェを受け入れる。

 力が入らず震える腕を持ち上げて、今まで居なかった存在を掴もうと必死に手を伸ばし、だけども壊れないように優しくアンジェの頬に触れる。

 戦い、そして敗れ、倒れたクロードの手はあまり綺麗ではなかったので、アンジェの頬を少し汚してしまったが、クロードの手ごと洗い流すかのように上から綺麗なものがとめどなく流れてきた。


「うぅ……うぁぁー、クロードぉぉぉ!ごめんなざぁいぃぃ。だだいまぁぁー。」


 アンジェは号泣して、そのままの勢いでクロードを抱えるケイトやメリル、更にクロードの体にもたれ掛かっていたエマごと、一緒くたに抱きついて縋り、クロードの胸の中で泣いた。


 サウル達が最初に会った時、一番気の強そうな印象だったアンジェ。

 それは長く付き合っていたケイト達も同じ印象だったようで、取り乱し弱々しく号泣するアンジェを見て驚き、クロードが二つ返事で許したのを呆れて苦笑しつつも、クロードと一緒にアンジェを受け入れていた。


「もぅ。クロード。もう少しアンジェに何か言っても良かったのに……貴方、死んだのよ?」


「わかる。でも、クロードなら許すとも思ってた。」


「フフッ。そうですね。でも、全員無事ですから本当に良かったです!」


 ケイト達は膨れたり笑ったりと大忙しだった。


 それでも、クロードに慰められるアンジェを受け入れ、クロードと一緒に抱きしめ返していた。

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