第80話 復活
「わ、私ですか?は、はい!頑張ります。」
エマは戸惑いながらも今まで何もしていない自身を奮い立たせ、応える。
「はい。エマ君には歌ってもらいますからね。
教会に居たのなら歌えますよね?
蘇生魔法。いえ、蘇生儀式と言うべきですかね。
【復活】ですよ。」
しかし、サウルの説明にエマのやる気は一気に萎んだ。
「む、無理です!あ、あれは二、三十人集まって魔力のほとんどを捧げながら歌い願うものです。
私一人では到底出来ません!それに……あれは……」
「失敗するかもしれませんか?大丈夫。その心配は無いでしょう。」
エマの懸念をサウルは払拭する。
蘇生儀式。【復活】
エマの説明通り、回復系職業の者が何十人と集まって、ほぼ全ての魔力を捧げながら、歌い祈る儀式魔法。
更にエマの懸念通り、どれだけ人数を揃えても、失敗する事があるのだ。それは寿命や天命で死んだ者は生き返らないとサウルは考えていた。神がここまでと思った者を、神へ蘇生してと願っても、生き返りはしないだろう。
この場合、クロードはそれに当てはまらないので大丈夫だとサウルは確信していた。更にはクロードに好意を寄せているエマが心から願い歌う。神ならば、必ず応えるはずだとも思った。
「エマ君。聞いてますか?エマ君……エマッ!!」
「は、はい!」
「無理!無理!」と嘆き慌てるエマを優しく諭そうとしたが、そもそも聞こえてなかったようで、サウルはキツく呼ぶと、エマは特訓の頃のように背筋をピンと伸ばして返事をした。
「無理ではありません。
【復活】は、無から蘇生させたり、腐敗した死者や骨を使うからあの人数の魔力が必要になり大変なのです。
良いですか?今のクロードは肉体的には私が無理矢理動かせていますが、生きています。後は、心……精神の帰還のみなのです。だからエマ君だけでも出来るでしょう。
勿論、足りない魔力は手伝いますから。」
「エマ!頑張って!」
「サウルさん。私の魔力も使えないのでしょうか?」
「あっ!ケイト、狡い。私も!」
「わ、私も!」
ケイト、メリル、アンジェは健気にも支援を申し出た。
「分かりました。皆さん、クロードの体に触れて下さい。エマ君もです。
良いですか?では、もう一度!【共鳴】。」
サウルはケイト達にクロードを触らせて、再度【共鳴】を使う。それは全員の感覚を共有させる為に、エマが歌う際にケイト達の魔力も捧げれるように使った。
「こ、これは……。」
「そんな!?」
「クロード!!」
「あぁ……本当に……ごめんなさい。」
ケイト達は感覚を共有して正確に理解した。
クロードの肉体はしっかりと生きているにも関わらず、何かがぽっかりと足りてなかった。
それがサウルの説明した心……精神だと納得し、本当に死んだ事実を嘆き、涙を再び流し、ある者は謝罪した。
「ケイト君、メリル君、アンジェ君は歌えませんが、神に祈ってください。
今知った足りない部分を神に戻してもらうように精一杯、心の底から願うのです。
後はエマ君。貴方の役目です。
大丈夫。私も手伝いますから、必ず成功させます。」
「は、はい。分かりました!」
エマは再び決意を込め、涙を振り払い、クロードを想い、精一杯【復活】を歌いはじめた。
魔力を全て捧げふらつくが、ケイト達三人が支え、ケイト達も魔力を捧げながら祈る。 四人全員が支え合い、クロードに触れて、クロードを取り戻そうと必死で歌い、祈る。
サウルは方法こそ嫌いだが、この【復活】の歌は好きだった。
集団で歌う様はまさに圧倒的で、震える程感動したこともあった。
今はエマ一人だが、とても綺麗で透き通る声を震わせ、その願いの篭った旋律にサウルやエスト、他の周りの者達の耳を奪う。
『やはり何度聴いても良いものですね。なるほど。こういう事ですか。』
まさに聴けば、願いを叶えたくなる……今のサウルの気持ちは、神が感じている事だと確信しながら、エマの独唱を楽しんだ。
確かに、サウルは神を呪い、この蘇生儀式すらもあまり好きでは無い。イドが聞いたら怒るが、効率が悪いとよく思っていた。
精神の帰還は、サウルではどうしようもないので、過去も結局、【復活】を毎回使うのだが、それ以外の生きた肉体を用意するならば、今回のようにサウル一人でも出来る。わざわざ何十人も集めて、大量の魔力を捧げさせる必要は無い。
だが、この歌を聴く度に納得する。
恐らく神は、大量の魔力を必要としているのではなく、その為に大勢集まって、この素晴らしい歌を皆で歌って欲しいのだろう。
サウルでさえ感動を覚えた集団での歌は、神にとっても素晴らしいものであるはずだと思い至る。
『例え、世界で一番貴方を呪っている私がこの場に居ようとも、歌い手がたった一人だとしても、エマ君の素晴らしい歌声を聴いて、彼女達の健気な願いを聞いて、応えない神など居ないですよね?
いえ、貴方にとっては、私ですら可愛い存在かもしれませんね。』
想像通りなら、なんとも人間臭い神だとサウルは苦笑しつつ、クロードの体を維持しつつ、エマ達の足りない分の魔力を神に捧げた。
変化は劇的だった。
クロードの体から光が零れ、溢れ出してきた。
それと同時に、サウルや感覚を共有しているケイト達にはぽっかりと空いた穴に少しずつ何かが満たされていくのを感じた。
それを感じて、エマの歌声やケイト達の祈りはより一層力が篭った。
エマの【復活】の歌が終わる頃には、クロードの何かは完全に満たされていた。
歌い終わり、魔力を使い果たし、ほぼケイト達に体を預け、もたれ掛かるエマと、同じように魔力がギリギリで支え合うケイト達。
四人は支え合いながらも、サウルの【共鳴】の為に皆、クロードの体に触れていた。
その触れた手にピクリと反応が返ってきた。
「「クロード!!」」
ギリギリで支え合っていた為、ほぼ四人全員がクロードの体に倒れ込む。
体が動いた後は、次第に顔も動き始め、ついには目覚めて声を発した。
「ぐっ……お、重い……。」
クロードの発した第一声にケイト達は言葉を失った。
「アハハッ。感動の再会のはずが、締まらないですね。
そういう部分まで師匠ゆずりにならなくてもいいですよ?」
「……クフッ。アレはダメな師匠。真似しちゃダメ。」
「おい。サウル、エスト。それはもしかして俺の事か?多少離れていても聞こえているからな?」
サウルとエストがクロードを笑う。しかし、内容的には教えていたノリスを笑った。
警戒して離れたとは言え、すぐ傍に居るノリスに丸聞こえであり、すぐにツッコミが返ってきた。
ケイト達にようやく笑顔が戻ってきた。クロードの帰還と共に。




