第8話 いざ、ダンジョン
冒険者組合を出て、ノリス達三人共、エストがフラッと消えた事に気付いていたので、合流する迄ゆっくりダンジョンへ向かう。数分もしない内にエストがスゥーッと現れて戻ってきた。
「……ただいま。」
「おかえり、エスト。どうでしたか?」
「サウル、エスト。話は後だ。あまりエッジ達を待たせるとマズイからな。」
サウルとエストが話し始めようとしていたので、イドが止めて、まずはダンジョンに入ってからにしようと提案し、それに全員が頷いて、急いでダンジョン前のエッジ達の元へ向かった。
その後、無事にエッジ達の許可を貰い、ようやくノリス達はダンジョンに入る事が出来た。
この街のダンジョンは石の壁や石畳といった、まさに王道のダンジョンといった内部で迷路のように入り組んでいる。とは言え、全五階層しか無いし、何度も制覇されている為、全貌も判明している。
ノリス達は制覇しに来ている訳では無いので、ゴブリンを探しつつ、先へ行くルートを逸れたり道草を食いつつ、ブラついた。
第一階層から第三階層までは罠すらも無いので、ほんの少しの緊張感を持ちながら歩きつつ、先程出来なかった会話をノリス達は始めた。
「それで、エスト。どうだった?」
「……やっぱり『豪雨』のアレ、悪口だったみたい。」
「ふん。まぁそうだろうな。」
「だから言っただろ?生ゴミは、生ゴミなんだ。」
『豪雨』のニックネームとやらを、彼ら自身が自慢し始めた時、ノリス達はアレクの微妙な顔付きを見逃さなかった。
それだけなら問題無いのだが、アレクの表情は何かを決心してしまいそうな程真剣味が強かった。ノリス達にとって……いや、ノリスにとって、アレクは居てくれないと困るのだ。勿論サウルやエストも好印象なので、辞められたら寂しくなる。イドですら、気軽に話せる組合員が減るのは惜しいと思っていた。
あの顔付きをされて、その後の様子は誰だって想像がついた。なので、エストが代表して様子見しに行ってもらったのだった。
「……でも、大丈夫。……次の更新までは辞めないって言った。」
「ほぅ。あいつは中々に根気がある男だったか。」
「良かったですね!ノリス。」
「ああ。エストもありがとな。」
「……僕も、アレクは居て欲しい。」
「まぁアレだな。今後、余裕があれば用事は無いが、今日みたいに潜る前に組合寄ってアレクに会いに行くか?」
「イド。それは良いですね!是非、行きましょう。」
「まぁな。だが、その前にイド。アレとやらを見せてくれるんだろ?」
ブラつきながら、会話していると前方から、ギャアギャアと騒がしい声と共に気配が濃くなった。どうやらこの先にゴブリンが居るようだったので、にやけながらノリスはイドを頼る。
「ぐっ……。」
「……大丈夫。イド、アレをやろう。」
狼狽えるイドへひっそりと隣に移動したエストは、イドにしか聞こえない声でボソボソと話した。イドも最初は驚いていたが、エストの提案に乗ったようで、しっかりと頷いていた。
「なるほどな。良いだろう、エスト。」
「……うん。僕が先行する。」
「分かった。お前に合わせるぞ。
ノリス、サウル。目を見開いて、良く見ておくんだな。」
イドとエストは先頭に出て、ゴブリンを迎え撃つようだった。ノリスとサウルは一歩下がり、彼らの様子を見る位置につく。
数秒程待つと、二匹のゴブリンがこちらに来ているのが見えるようになり、ゴブリンもノリス達に気付き一段とギャアギャア声を荒げて、向かってきた。
二匹のゴブリンは手に持つこん棒を振り上げながら走ってきて、先頭のエストへ叩きつけるつもりのようだった。
エストはしゃがみながら剣を抜き、二匹のゴブリンのあと数歩駈け寄ったら叩きつけるタイミングでゴブリンの前に飛ぶ。急に距離感を狂わされたゴブリンは戸惑い、その隙をついて、エストはこん棒を振り上げていた二匹のゴブリンの腕を刈り斬る。そのままゴブリンの真ん中をエストは分け入って通り過ぎる。丸腰で腕は無いがバンザイする形で二匹のゴブリンだけが取り残された。
「……イド!」
「ああ!ここまでお膳立てされるとむずがゆいな。」
ゴブリンの前に残ったイドが剣を抜きつつ横一線に薙ぎ払う。
真っ二つにされた二匹のゴブリンは絶命すると次第に透明になっていき、最後には二つの小さな魔石だけが残った。