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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第79話 共鳴

「「えっ!?」」


 ケイト達はイドの声を聞き、その内容に驚いた。今まで怪しさ全開だったので、何か隠している事は気づいていたが、まさか『青龍』の一人だったとは誰も思っていなかった。


 特にケイトとメリルは特訓に付き合ってもらった仲だ。そのイドが実は『清流』のブルースだったと知り、この状況では不謹慎だが、少しだけ嬉しさが湧きあがっていた。

 まだアンジェが居た頃、アンジェが師匠であるセガルを度々自慢するのが羨ましかった。そんなアンジェと同じように自慢出来る。嬉しくない訳がなかった。


 しかし、ブルースの言葉によって、サウル達の傍に駆け寄る者が見えた。ケイト達にとって、今一番会いたくない者だった。


 クロードがこうなった原因を作った張本人……アンジェ。


「クロード……」


 アンジェはクロードが倒れ、サウル達が取り囲む前までは来たが、自分のせいでこうなってしまったと思ったのか、サウル達の距離までは来ず、少し離れて立ち止まった。


「アンジェ!それ以上、クロードに近寄らないで!」


「この裏切り者。」


「どうして!?

私達がどれ程、どんな気持ちでアンジェを待っていたのか……それを、こんな……」


 ケイト、メリル、エマは、アンジェを拒絶した。

 拒絶されたアンジェもビクッと体を縮こまらせて、それ以上何も言えなくなっていた。

 ケイト達は更にヒートアップしてアンジェを非難するが、耐えきれない者が一人居た。


「うるせぇ!不快な音を出すんじゃねぇ!

だから『生ゴミ』は嫌いなんだ。エスト。ちょっと掃除してくれねぇか?

俺達は今、クロードを救う為に居るんだろ?無駄に音を出す『生ゴミ』は要らなくねぇか?」


 ノリスは耐えていたのだ。

 サウルから細胞を削られる痛みよりも、ケイト達が隣に居る状況で、更にアンジェが来たのにも耐えていた。

 全てはクロードを救う為……それだけの為に、今は我慢だと『生ゴミ』が近くに居ようが必死で頑張っていた。


「……うん。僕もそう思う。

ケイト、メリル、エマ。喧嘩なら他所でやって。

それでクロードが助からなかったとしても、それは君達のせいだから、仕方が無いね。」


 ノリスに同意し、同じように冷徹な言葉を発するエスト。ケイト達は一瞬で大人しくなった。


「……アンジェ。君もこっちへ来て。クロードは血が足りない。君にも手伝ってもらうよ?」


「ならば!私の血を全部……クロードに!お願いします!」


 エストは説明しながらアンジェを呼ぶと、アンジェは駆け寄って悲痛な願いを叫ぶ。


「アハハッ。こんな時に笑わせないでください。アンジェ君は馬鹿ですか?

ブルースに言われた貴方のしたい事は死ぬ事だったのですか?違いますよね?

ましてや、アンジェ君を犠牲にクロード君を救って、本当にクロード君が喜ぶとでも思っているのですか?」


「……誰も死なせない。その為に君達が少しずつ協力して、皆で助かる。それが冒険者パーティだよ。」


「ま、ともかくまずはクロードを救ってからだな。話は後でいくらでも出来るだろ?」


 サウルはアンジェの覚悟を笑い、エストはフォローし、ノリスが前を向かせる。

 ケイト達やアンジェはハッとなり、四人が固まってクロードを見つめた。


 よくやく傷の修復が終わってサウルはノリスに感謝した。


「ノリス。ありがとうございます。クロード君の損傷箇所はもう大丈夫でしょう。」


「ふぅ。大分持っていったな。また鍛え直すとするかな。ついでに血もやろうか?」


「……僕のを分けるから多分大丈夫。

時間稼ぎくらいしか出来なかったし、少しは手伝いたい。」


「そうか。なら、俺はあっちの様子でも見ておくか。」


 ノリスは少しだけ離れてイドとセガルのやり取りを見ることにした。

 どちらも誰もが知っている二人であり、ノリスも度々一緒に冒険した……よく知っている『青龍』の二人だ。

 特にセガルが遠距離攻撃方法を持っているのを知っている為、もしもの時はサウルやクロード達を守らなければならないと思い、警戒しながら見守った。


「……ケイト、メリル、アンジェ。腕を出して、少しチクッとした後、血を吸い出すから。血が抜けてふらつくかもだけど、耐えてね。」


 エストの説明を聞き、三人は決意を込めて腕を出す。すると、エストの指が触手のように伸びた。細く、長く、しかも先端は針のようにも変形して、三人の腕に突き刺さる。

 エストの伸びる指から、血を吸われる感覚を三人は感じ、ふらつく体を支え合った。


 エストは更に反対の手から指を一本だけ伸ばし、クロードの心臓に突き立てる。


「……サウル。こっちの準備は出来たよ。」


 エストの準備が完了し、声をかけるとサウルはマジックバッグから一つの強心薬を出して、自分で飲む。そのままクロードの心臓に刺さったエストと指を掴み、血液が適合するように魔法をかけながら、もう一つ魔法陣を展開する。


「ありがとう。エスト。

では、いきます……【共鳴(レゾナンス)】!」



 【共鳴(レゾナンス)】……サウルが好んで使う魔法の一つ。


 サウルと対象者を同一とし、感覚や肉体を共有させる魔法。

 サウルはその膨大な魔力と驚異的な回復能力で、斬撃系の攻撃はほぼ意味を成さない。なので、敵対する者達は大体打撃系に切り替えたり、回復が追いつかないように肉体を壊し続けようとする。そのどれもがサウルの手の届く範囲の攻撃になる。そんな時に好んで使うのが、この【共鳴(レゾナンス)】だった。


 サウルの心臓を素手で掴もうとした者に使って、相手にも心臓を握り潰される感覚を味合わせるのだ。

 面白い程簡単に相手が死んでいった。


 誰もサウルのように解剖慣れしている者は居ない。例え百人の人を殺した暗殺者でさえ、一度の死の痛みで大体死ぬ。何度も死を経験する者は少ない。



 そして今、クロードを相手にサウルは【共鳴(レゾナンス)】を使った。



 相手は死者だ。死者であるクロードの感覚や肉体に引っ張られないよう、逆に生者である自身の感覚や肉体に、クロードの体を引き摺りこむ。


 自身の心臓が止まりそうになりながらも、強心薬の力も借りて、逆にサウルはクロードの心臓を動かす。血流が始まれば、クロードに合わせた血液をエストがドンドン送る。その他、呼吸関係や消化関係も次々と強引にサウルが動かしていく。


「ゴボッ……」


 クロードの口から血が吹き零れた。


「「クロード!!」」


 それをクロードが生き返ったのかと思い、ケイト達は嬉しい悲鳴をあげる。


「ゴホッゴホッ……まだです!」


 咳込みながら、サウルは即否定した。


「……クロードの肺に血が混ざってたのを、サウルが無理矢理動かして出しただけ。まだクロードは死んでる。」


 咳込み話しづらそうなサウルの代わりにエストが説明した。


 暫くして、ようやく落ち着いたサウルが、クロードの体を把握しながら、エストの輸血を止めて、心臓に突き刺した指をぬかせる。


「はぁ……はぁ……エスト。ありがとう。もう血も大丈夫です。

それにしても、何度やっても死者との綱引きは手間ですね。」


 エストは三人に刺していた指も抜いて、どちらも普段の手に戻し、サウルを労う。


「……『手間』で終わるサウルは凄い。普通なら共倒れ。」


「アハハッ。ありがとう、エスト。

さて、エマ君。お待ちかねです。最後はエマ君に頑張ってもらいます!」


 クロードを蘇生させる為の最後のピース。



 それは、エマに託された。

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