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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第78話 修羅場

 イドがセガルの元へ歩くのを見ながら、サウルとノリスはクロード達の元へ行く。


「ノリス。こういう時は貴方が真っ先に行くのかと思っていましたよ。」


 教えたクロードが倒れ、イド程では無いが顔見知りのセガルが相手。どちらも女性ではないが、温厚と聞き及んでいるノリスとは言え、こんな状況で、こうもノリスが大人しいとはサウルは思わなかった。


「んあ?相手はセガルだ。なら、イドに任せるのが一番良い。そういうサウルだって似たようなもんだろ?」


「ハハッ。そうですね。」


 これからクロードを救う。遠目から見てもクロードを蘇生しなければならない。それは神の奇跡を自分で起こすようなものだ。

 それなのに、ノリスと同じようにサウルも落ち着いていた。


「俺達は禁句や『生ゴミ』と関わらない普段は感情の起伏があまり無いからな。

そういう役目だっただろ?ま、そのままだとアレだから、感情を豊かに見せるようにもなってるだけだな。サウルだってそうだろ?

お前もエストとじゃれ合った方が良いぞ?訓練にもなるし、からかってスッキリもするからな。」


「アハハッ。イドとのじゃれ合いはそういう意味もあったのですね。」


 ノリス達は今まで壁役として長年活躍してきた。

 仲間を守り続け、敵の攻撃に耐え続ける。ただひたすらにソレを続けてきた。

 仲間が危機に陥っても冷静に、敵が煽ったり、卑怯な策を講じても動じない心を持たなければならなかった。


 あの頃のノリスは盾になろうとしていたのだ。無機物だ。人じゃない。その結果、感情が無くなっていく。だが、そうなるとノリスの言うアレ……本当に人じゃなく、ただの人形になってしまい、周りから奇異がられる為、普段は感情があるように見せている。


 ノリスだけではない。イド、サウル、エスト、全員がそうだった。壁役は、本当の意味でパーティの壁だ。その壁が感情で動くものなら、パーティが瓦解することだってある。


 サウルも理解していたが、イドとのじゃれ合いにまで意味があるとは思わず、しかし絶対に後者……からかって遊んでるだけだと思い笑う。


 なので、サウルとノリスは普段通りの雰囲気で、地獄に向かった。



「うぅ……クロード……いやあぁぁぁ!クロード!うわぁぁぁぅん……。」


「エマ!お願い。もう一度、クロードに回復魔法を……次は成功するかもしれない。

ねぇ、エマ。もう一度だけ……もう一度だけで良いから!」


「ダメです、メリル。ぐすっ……これ以上は……もう……。

ぐすっ……でも、クロードがガンダルさんに頼んでいました。……私は無理でも、あの人なら……」


 まさに地獄。いや、修羅場。


 倒れるクロードの傍でケイトは泣き喚き、メリルはエマに魔法を何度もせがむ。一緒に泣いていたがエマだけはギリギリ希望を残して耐えていた。


 その希望がいつも通りの空気を纏い、やってくる。


「アハッ。エマ君。良く諦めなかったですね。

それでこそ、私が人肌脱いだ甲斐があります。」


「サウルさん!どうか!どうか!クロードをっ!」


「ええ。分かっています。

私はその為に来ました。クロード君を蘇生しますから安心してください。

ですが、ケイト君、メリル君。君達にも手伝ってもらいます。

だから泣き止んで落ち着いてください。良いですね?」


 サウルはエマを安心させるように、更にはケイトとメリルにも希望を灯し、優しく語る。まだぐずるがお陰で少しずつ三人は落ち着いていった。



「この馬鹿野郎が。盾が壊れちゃ意味が無いだろ?」


 地獄の中で希望を見出した雰囲気の中、それをぶち壊すかのように、ただ淡々と冷徹にノリスは倒れ伏すクロードに言葉を投げつける。

 ノリスだけは見えている世界が違う。たとえサウルが来てケイト達三人が明るくなったとしても、『生ゴミ』が腐敗臭を撒き散らす地獄であることに変わらなかった。


「なっ!?どうしてそんな事をっ!!」


「酷いっ!」


「ノリス。言い過ぎで……」


 ケイトやエマがノリスを非難するように叫ぶが、ノリスには届かない。仕方がないので、サウルが代わりに注意しようとしたが、


「ま、お前は守りたい者を守ったんだ。良く頑張った。本当に良く頑張っていたもんな。

だけど、まだだ。まだ満足するなよ?まだ守り抜いてないだろ!

盾が壊れたら直せば良いだけだ。クロード。それを教えてやる。なぁ、サウル。」


 ノリスはケイト達の事など気にせずに、淡々とクロードに賛辞を贈っていた。


 クロードの特訓に付き合ったのはノリスだ。感情が薄れても、何も無い訳ではない。だから、セガルの相手よりも、クロードを助けるのが一番だと思い、サウルと一緒に来た。


「ええ。その通りですね。」


 サウルはノリスの思いを知り、注意を止めて、励ますように頷く。ケイト達も何かを感じたのか押し黙っていた。



 サウルは指を鳴らし、クロードをすっぽり包むように小型の効果を変えた【聖陣】を展開した。殺菌消毒とクロードの損傷具合をより正確に知る為だった。なので、人にとっては特に害なく、サウルも【聖陣】をすり抜けてクロードを触っていた。


「やはり肉体の欠損が酷いですね……血液も足りない……予想通りで嫌になりますね。」


 サウルはクロードの体を調べながらブツブツと愚痴を零す。

 特にクロードの腹に空いた三つの穴は貫通し、肉や骨、内蔵までをも壊し、貫通した衝撃の余波を受けた背中側は更に酷かった。


「これでは余分なところから継ぎ足すのも難しいですね。

ノリス。貴方の有り余る筋肉や細胞を分けてくれませんか?」


「おうよ!持ってけ泥棒。」


「アハハッ。良いですね。では、頂戴します。」


 サウルは、一番ガタイが良いノリスを頼ると、即答し、何故か服を脱いで筋肉を強調するようにポージングしだした。

 ムキムキのノリスの腹に手を当て、もう一方の手をクロードの腹に置く。


 サウルはノリスの細胞を少しずつ貰い、それを元にクロードの腹を治していく。特に内蔵はミスが許されないので、ゆっくりだが、正確に修復していく。


「……ノリス、サウル。ごめん。間に合わなかった。」


 サウルがクロードの穴を塞いでいると、エストが合流した。


「エストか。気にすんな。

エストが無理なら、俺だって無理だな。」


 ノリスはサウルから自分の肉や骨、細胞が削られているのだが、長年壁役をしてきたのだ。この程度の痛みには慣れっ子であった。何ともないかのようにエストを出迎えた。


「……イドにも同じ事言われた。

サウル。イドが手伝って欲しいって聞いて来た。」


「エスト。ありがとう。

昔、何度かやった事をお願いして良いかな?」


 クロードの腹を治しながら、サウルはエストに頼む。サウル一人でも出来ない事は無いが、その後もやる事は山積みだ。以前エストと一緒に居る時、何度か協力してくれていたので、エストを頼った。

 エストも慣れた様子で、サウルの簡潔な頼み方だけで理解した。


「……輸血だね。でも血液の型を判別する時間や人手が厳しいかもしれない。」


「忌々しいですが、今回それは神に頼ります。そこは心配しなくて良いですよ。」


「……分かった。なら、あとは量だね。

ケイト、メリル。よく聞いてね?

クロードは血を流しすぎた。だから血が足りない。そこで君達の血を分けて欲しいんだ。」


「勿論、使って!」


「ええ!私ので良ければ!」


「あっ!わ、私も!」


 メリル、ケイト、更にはエマも是非と言った感じで即答した。しかし、サウルはエマを外す。


「エマ君はダメです。君の出番はまだ後です。その時に頑張ってもらわないといけませんからね。」


「わ、分かりました……。」


 エマが渋々納得していると、


「……れる?『竜爪』のセガルが怖い?問題無い!

後は俺が!『清流』のブルースに任せろ!分かったな?良いから行けっ!」


 イドの大声がサウル達の元まで、轟き響いてきた。

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