第73話 合同
『肉屋』と親交を深めたノリス達はその後、特に変わらない日常を過ごした。
何かあれば手伝うとは言ったが、ノリス達で手伝える事など早々無い。『肉屋』で対応できることがほとんどだろう。
更に平日は仕事の為、ノリス達はほぼほぼ引き篭っている。ある程度の数を制作し終われば、卸し先の店に行って、物を売り、素材を買ってまた制作。後は食料の買い出しにちょこっと出かけるぐらいだった。
週末の昼頃にダンジョンへ潜り、帰りに【カーシーの串屋】で酒を飲み駄べる。
彼らの日常は、それだけだった。
たまに冒険証の更新で組合にも行く事もあるが、それ以外で特に用事が無かった。
その為、出会った頃にクロード達へ説教しているのだが、ノリス達にも繋がりが深い人達はほとんど居なかった。しかし、街で浮いている存在という訳でもない。
ノリス達は圧倒的なモブ感により街に溶け込んでいた。
平日は同じバンダナを頭に巻き、普通の服を着て、ただのおっさん四人になり、週末はバンダナに加えて同じ普通の武器と防具を纏い、何処にでもいる冒険者パーティになる。
誰がどう見ても、
『ああ。おっさん達が週末に趣味でダンジョンに潜ってるんだろうな。』
と想像し、まさにその通りなので、周りから気にもされなかった。
卸し先に行く時や、買い出しの際や冒険証の更新で『肉屋』の人達とも会う機会はあるが、少し楽しい会話を数分しては別れるを繰り返した。
たまにガンダル達が週末の夕食時にたかりに来るが、本当に数回だけだった。
そんな日々を過ごしていると、クロード達を見かける事もあった。
ノリス達は丁度、食料の買い出しだったので、ただのおっさん化しており、クロード達は気づかなかったが、恐らく『肉屋』以外の冒険者パーティと楽しそうに会話しながら買い物をしていたので、上手くやっていけているようだった。
クロード達はあくまで特訓に付き合っただけであり、もう卒業している。もしかしたら、いつの間にかクロード達がこの街すらも卒業して居なくなる可能性もある。
「もう会う事も無いだろうな。」と思いながら、ノリス達は背景に溶け込んだ。
しかし、時には背景も変化する。
ノリス達は週末いつも通りにダンジョンへ潜ろうとすると、ダンジョンの入口で見知ったグループが待ち伏せていた。
「あっ!ほら、クロード。来たよ。」
クロード達だった。まだアンジェは戻っていないようで四人だけだった。
「おぅ。クロード。久しぶりだな。
こんな時間にこんな場所で待ち合わせか?『肉屋』ならもっと早い時間だろ。別の依頼にしても遅すぎないか?」
「本当に……お久しぶりです。
今日は皆さんを待っていました。」
「俺らをか?何故だ?」
「何故って……特訓が終わってから、全然会わなかったじゃない!」
「まさかこんなにも会う機会が無いとは思わなかった。」
「もう別の街に行ってしまったのかとも思いました。」
イドが疑問を口にすると、ケイト達から非難轟々と言った感じでまくしたてられた。
「……もう僕らと関わる必要もないよ?」
「エストさん!お世話になったのだから、そんな寂しい事言わないで。
同じ街に居るのだから、鉢合わせて挨拶や会話ぐらいはしたかったの!
でも、全然鉢合わせがないから、こうして来たの。」
「それなら家に訪ねて来れば、良かったのではないですか?」
「それも考えましたが、それはそれで恥ずかしいと言いますか……私達はまだまだですから、また特訓が始まりそうで……少し怖いのもあって……」
サウルが提案すると、エマが恥ずかしそうに、最後の方は小声でブツブツと言い訳を述べた。
「フッ。もう教える事など何も無いし、元々教えてすらいないのだがな。
まぁいいか。とにかくこうしてお互いに生きているのだ。今後も頑張ってな。それでは、俺らはダンジョンに行ってくるのでな。」
「……またね。」
イドがまとめて、ノリス達はダンジョンへ行こうとしたら、クロードが止める。
「待ってください!
俺達も一緒に行っては……ダメ……でしょうか?」
クロードの発言は途切れ途切れになった。
その言葉を発する度にノリス達の顔に難色が濃くなっていったからだ。
「え?ダメなの?別に良いじゃない。
そういえば一度も合同でダンジョンに行ってないと、この間話していたのよ。
せめて一度くらいは良いでしょ?」
「うんうん。特訓は終わったけど、実際にオークを倒すところを見せてもいないし、実践を見て何かあったら言って欲しい。」
「私達を見て欲しいですし、皆様も見てみたいです!」
ケイト達から至極真っ当なお願いをされる。
ノリスだけは届かないのでポカンとしていたが、イド達にとって最後のエマのセリフが一番厄介だった。
「ちょっと待て。少し相談する。」
改めてノリス達四人で、クロード達と少し距離をとり、輪になって密談する。
「おい、なんて言ってた?」
「半分は実践を見て欲しいそうだが、もう半分は俺らを見たいそうだ。」
「マジかよ!ヤバくね?」
「……連携、相変わらず全然だよ。」
「アハハッ。土下座でもしておきますか?」
「しかし、理由は真っ当だ。
無下に断るのも難しいかもしれん。」
「毎週末、今日のように待ち伏せされるかもしれませんね。」
「断り続ければ、怪しまれる……か。」
「……それなら今日、恥かいた方が楽。」
「あれだけ偉そうに説教して、特訓までさせたんだぞ?恥で終わると思うか?」
「分からん。だが、そこはクロードに抑えてもらうしかないな。アイツならもしかしたら理解してくれるかもしれん。」
「そうなのか?」
「そういえば、薄々気づいているかもしれない反応でしたね。」
「……断るのは無理そうだから、それしかない。」
「はぁ……これから楽しいダンジョンのはずなんだがな。」
「言うな。今日は諦めるしかなさそうだ。」
ノリス達はガックリと肩を落とし、クロード達と合流する。
クロード達との合同ダンジョン探索が始まろうとしていた。




