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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第71話 特訓後

 クロード達の特訓が終わった。


 ノリス達はようやく普段通りの生活へと戻ることになった。若干の寂しさを感じながら、さりとて特訓時の生活をずっと続けたいかと聞かれれば全員が「NO」と答える程に、平穏が恋しかった。


「しかし、アレだな。いつもの日常に戻ろうにも二か月以上、クロード達に付きっきりだったからな。

俺らや、サウル達のも卸し先をまた見つける営業から始めないとな。」


 イドはうんざりしながら今後の予定を考え、愚痴を零す。


 クロード達の特訓はイドの言う通り、二か月以上も掛かった。まだ完璧とは言い難いが、二か月と少しでクロード達の戦い方の道筋ができた事が本来素晴らしい成果ともいえるのだが、イド達が卸していたお店にとっては知ったこっちゃない。「長期間お休みします」と言われ、「では復帰したら、またお願いします。」なんて超良心的なお店は少ない。信用もガタ落ちだ。断られる可能性もそうだが、下手をすれば周りのお店に噂が流れて、どの店からも断られるかもしれなかった。

 半分以上ダメもとで以前卸していたお店にそれぞれ行ってみた。


 奇跡が起こった。いや、神が舞い降りていた。


 『肉屋』という……この街ではまさに神だった。


 ノリス達がクロード達を特訓させる為、日々の仕事を休止せざるを得なくなり、お店に連絡した直後、『肉屋』の代表がわざわざ店まで出向き、ノリス達をフォローしてくれていたそうだ。

 冒険者にとって、『肉屋』はこの街で生きていく為に良好な関係になっておくべき存在であると同時に、この街の者達にとっても居なくてはならない存在でもあった。

なので、『肉屋』から頼まれれば、どの店も嫌とは言えない。それどころか、『肉屋』の頼みを聞くのだ。どの店も喜んで受け入れるだろう。

 そして、そんな『肉屋』も驕らず日々励んでいる。普通なら威張り散らかす者が居てもおかしくない。だが、『肉屋』からそんな話を一切聞かない。管理と教育が徹底されているのだろう。

 ノリス達への協力とはいえ、ノリス達は余所者のEランク冒険者パーティだ。それなのに、わざわざ代表が店まで出向いている。本当に素晴らしい組織だった。


 お店からその話を聞かされ、以前よりも好意的に受け入れられ、更には卸し値も勉強してもらえて、ノリス達全員が若干引くぐらい高待遇にまでなっていた。断るのもせっかく対応してくれた『肉屋』に悪いし、日々の仕事のためにも卸し先は必要不可欠なのでノリス達は引き続きお願いした。


「まさか、ここまでされているとはな。

至れり尽くせり過ぎて、もう彼らに足を向けて寝れんな。」


 イドがノリス達へ促せば、同じ気持ちだったようで全員で苦笑し合った。



 そんな『肉屋』を尊敬しながらも日々の日常を取り戻そうと、仕事に取り掛かり始めた日……クロード達が特訓を卒業して三日程経った頃だった。


 『肉屋』の代表とジャンが、ノリス達の家まで駆け込んできた。


「なんだ?なんだ?一体どうした?

まさか!?クロード達に何かあったのか?」


 応対したノリスが代表とジャンに聞くと、二人は少し呆れながらも応えた。


「いえ、まぁ……何かあったのか?と言われれば、貴方達にとっては何も無いかもしれません。ですが、我々にとっては問題大アリです。

寧ろ、何があったのか?聞きたいのはこちらの方ですよ。」


 代表は意味の分からない事を言った。それを補足するように、ジャンが続いた。


「クロ坊達の事だ。

お前ら、一体何をした?こんな短い期間で、どうやってあそこまで育てた?

あれは異常だ。その構成も、成長も、まともじゃねぇだろ?」


「あぁ。なるほど。良い意味だったのか。

ビックリしたじゃねぇか。育てて、すぐダメでしたでは、俺達が見た意味が無いからな。」


「良過ぎだぜ?

お前ら結局、模擬戦の相手を頼まねぇしよぅ。

一昨日、クロ坊が……」


 ジャンが続けて喋り出すので、ノリスは止める。


「待て待て。こんな所で立ったまま話させる訳にはいかんだろ。茶も用意するから、上がってくれ。他の者も呼ぶから、少し待ってくれ。」


「ハハッ。そう畏まらなくても……あぁ、もしや卸し先に行かれましたかな?多少の恩が売れてなりよりですね。」


「だな。以前はボラれていた事が知れて、嬉し泣きしてたところだ。」


「グハハッ。それでも他の街よりは良心的なはずだぜ。何せ俺らが居るからな。」


「流石だよ。アンタ達には敵わないな。」



 ノリスは二人と駄べりながら、リビングにあげて、イド達を呼ぶ、ついでに茶なども手際良く準備して、二人や自分達の分をテーブルに並べた。


「来客は『肉屋』だったのか。それで、ノリス。何故、俺らまで呼んだのだ?」


「ああ、イド。どうやら、良い意味でクロード達がやらかしたらしい。」


「グハハッ。おいおい。違ぇだろ?

お前らがどうやって教育したのか?って聞いてんだ。まぁクロ坊達がやらかしたのには違いねぇんだがな。」


「一昨日、クロード君達が、唐突に卒業出来たと報告して来まして、慌てて昨日、確認の為にウチの所属しているバーティと模擬戦をさせてみました。

……初めは夢かと思いましたよ。」


「おや?週末は貴方達がクロード君を教育していませんでしたか?そこで見る機会はあったと思いましたが?」


「貴方達が戦い方を教えているのに、週に一度だけ横からとやかく言われたくは、クロード君達も貴方達も良い気分ではないでしょう?

我々も冒険者です。冒険者同士の付き合いは大事ですから、こうして常日頃から誠意を心掛けています。やはりこういう事があるから、それは正しいと証明されますね。

だから、今までの週末には戦闘の無い事ばかりを教えていました。

お陰で昨日は見学した全員が驚いていましたね。ハハッ。」


「……気の使い方が異常。もっと威張って良いんだよ?」


「アハハッ。ですね。これでは誰も敵わないじゃないですか。」


「サウル。それは俺もさっき言ったさ。」


「フッ。なるほどな。

それで、どうやったのか?俺らに訪ねてきたのか。クロード達は何も言わなかったのか?」


「いいえ、しっかり聞きましたが、信じられませんでした。本当に彼らが言った事しかしていないのですか?」


「クロ坊達の模擬戦の相手がな。模擬戦終わりに以前の五人居た頃のクロ坊達よりも強いかもしれないって言うんだぜ?

有り得ねぇだろ!」


「……??別に変じゃないよ?」


「ですね。」


「だな。」


「まぁな。」


 ジャンは人数が減った今のクロード達の方が強いのを不思議がったが、ノリス達にとっては普通であり、エストが首を傾げ、それに全員が続いた。

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