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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第70話 門出

 クロード達の連携も深まり、本人達ですらもう特訓は終わりだろうと思い始めた頃……ノリス達は唐突にクロードを拉致した。


「え?皆さん?ど、どうしたんですか!?」


「うるせぇ!黙って剥かれろ。」


「……防具が出来た。」


 四人係で裸同然にされるクロード。拉致ったとはいえ、ケイト達は普通についてきていたので、彼女達の目の前でおっさんに脱がされるのを恥ずかしがり焦るクロードに、エストは理由を呟く。

 当然のように、ケイト達も慌てて止めようとしたが、エストの理由を聞いて納得し、今度はその光景を楽しむようにニヤニヤとじっくりねぶるように鑑賞し始めた。



 数十分後。


 新しい防具を身に纏うクロードが、ノリスやケイト達七人の前に誕生した。



 全体的には軽装で、遊びがある少しゆったりとした出で立ち。防具というよりは服といった方がいい。しかし、ゆったりとした中は、しっかりと防具がついたインナーを着ており、特に足回りは鎧に近いものを履いていた。そのせいで外見は袴のようになってた。

 逆に上半身は多少ゴツいインナーを着ているだけで、上から普通の服を着ている。


 最大の特徴はマントだった。

 魔法使いが好むような全身を覆うものではなく、肘ぐらいまでしかないケープマントが風に揺られて、踊っていた。

 盾を扱う時に邪魔にならないように、しかし服装と相まってどこからどう見ても魔法使いであると思わせるような外見だった。


「ほぅ。中々良いのではないか?」


「……うん。似合ってる。」


「ま、こんなもんだろ。」


「ですね。」


 ノリス達はクロードの晴れ姿を見て満足そうに頷く。ケイト達も満面の笑みだった。ただ一人、当人だけが困惑していた。


「あ、あの……こ、これは……一体?」


「んあ?見れば分かるだろ。お前の防具だ。」


「いえ、そういう事ではなくて……」


「安心しろ。素材は安物だから、大した物ではない。だから、防具として優れている訳ではない。」


「今後、その防具を基本にして少しずつクロード君が更新していくのですよ。」


「……あくまで僕らの考えだから、気に入らなかったらガラリと変えても良いよ。」


「皆さんの考え……ですか。壁役だから、もっと重装備になるかと思っていたのですが、……これでは以前と……いえ、だからそういう事では……!」


 クロードはノリス達の考えに疑問を持ちつつも、しかし根本に立ち返る。盾も作ってもらえて、特訓もつけてくれた。これ以上何かを貰う訳にはいかないと、謙遜していた。

 だが、そんな事などお構い無しにノリス達はクロードの言葉を遮る。


「クロード。お前は魔法使いであるべきだ。」


「そうだな。だからこそ、見た目にはこだわったのだ。理由はお嬢ちゃん達なら気づいているだろ?」


 クロードの晴れ姿を満足そうに見惚れているケイト達へイドが聞くと、やはり気づいているようでスラスラと答えた。


「それは私達が居るから、クロードが狙われるのよね?」


「しかも魔法使いだから……そんなクロードが前に出れば必然。」


「今までの模擬戦でも貴方達はひたすらクロードを狙っていた。

対オーク想定だけど、多分人間でも同じ動きになるからよね?寧ろ対人間の方が露骨かもしれないわね。魔物は少し不安だわ。」


「それも大丈夫なはずです。クロードが魔力を込めれば、それだけで魔物は寄ってきますから。

魔物は魔力に敏感ですし、人でも範囲攻撃魔法がくるかもしれないと思わせれば、十分引き付けられるはずです。」


 ケイト、メリル、エマは十分な程理解していた。


「……と、言う訳。魔法使いだけど壁役。普通なら異常なのを逆手にとった方法。」


「壁役は仲間を守るのが第一だが、敵から守るには、敵を引き付けないとダメなんだ。

その点、クロード。お前は存在だけでも、前に出るだけで十分なんだ。」


「その為のこの見た目なのですよ。」


「な、なるほど。」


 誰も、盾を持ってるとはいえ、見た目が完全に魔法使いのクロードが壁役をするとは思わない。

 前に出る動きすらも、ただの馬鹿だと思うだろう。侮ってくれるなら、それこそ大歓迎だ。


 しかも、魔法の盾はパーティの範囲内なら、どこからでもどの場所にも出せる。

 クロードが壁役として、しっかり機能すれば、他の彼女達へ攻撃しようにも、クロードの発現させる魔法の盾が邪魔になる。結局、クロードを倒すのが一番だと思い、攻撃を引きつける結果になる。


 魔物でさえも、エマが言うように最前線で魔力を込めだしたら、当然狙われる。人よりも思考が単純だからこそ、クロードにひきつけられるだろう。


「そう考えると、何だか凄く効り……いえ、凄く理にかなっているように感じるわね。イドさん、ごめんなさい。」


 ケイトは深く考えながら喋った為、ついイドの禁句を口走りそうになり、慌てて言葉を選び直し、最後はイドに謝った。謝ったお陰なのか、当のイドは怒り出すでもなく、鼻で笑った。


「フッ。ケイト。気にするな。

お前が感じた事は、お前らが全員で協力し合った結果だからだ。何もおかしな事ではない。

……俺はな、『効率』と言う言葉が嫌いだが、全てを否定している訳ではない……確かに『効率』は存在するのだ。

だがな、『効率』は人に押し付けるものでは無いのだ。

「効率が悪いから絶対にするな。」「効率が良いから絶対にすべきだ。」なんてのは、言う奴の都合でしかない。

今のお前らなら分かるだろう?

当初お前らは色んな人から言われたはずだ。だが、こうして一つの道を選び、色んな試行錯誤をし、全員で纏まり、全員で支え合って進んで、今はとても良い雰囲気だろ。俺らでさえお前らを見て思う程だな。

だからな。『効率』なんてものは、人により違うし、複数人集まれば更に変貌するのだ。

遠回りしてるからどうだと言うのだ?当人にとってはそれが近道かもしれないだろ。遠回りした経験が役立つ日が来るかもしれない。遠回りしているとは思っていないかもしれない。それを一切考慮せず、『効率』という言葉で切り捨てるのか?そんなのは、クソ食らえだ。本人が色々考えて決めたのなら、それが一番良いに決まってるだろ?

知ってるか?『効率』を追い求め、周りにまで『効率』を押し付けて、自分が思う最高『効率』の状況に至るとな……一番『非効率』な存在が自分自身になるのだ。

周りには「効率が良い」と言って同じ時間に動くよう求め、自分には「効率が悪くなる」と言って好きに寝る。馬鹿みたいだろ?だが、そんな奴は……」


 ケイトが禁句を口走り、鼻で笑ったはずなのに、イドの言葉は留まることを知らず、ある意味で激怒しているのと変わらない恐怖にクロード達は襲われた。


「イド!おい、イド!戻ってこい!

こんなところで愚痴っても仕方ないだろ。後で聞いてやるから、とりあえず落ち着け!」


 サウルとエストも苦笑し、ノリスが呼び戻して、ようやくイドは落ち着いた。


「ああ。皆、すまんな。

そういえば、クロードの防具を渡した後だったな。」


「ったく。イドのせいで、全然締まらなくなっちまったじゃねぇか。

クロード。俺達が作った防具を渡したんだ。今後はコレを着れば良い。気に入らなければ他のでも良いがな。」


「いいえ。俺は何も不満はありません。

寧ろこんなにしてもらっても何も返せない……それが何より恥ずかしい。」


「気にすんな。俺達が好きでやった事だ。

だが、何かを返したいのなら、今後の活躍で返せ。」


「……。」


 ノリスの返しにクロードは答えが詰まる。

 防具を貰った。その防具で特訓するのではない。今後の活躍に使えとノリスは言っているのだ。要するに……だからこそ、クロードはちゃんと返事が出来なかった。

 そんな思い詰めたクロードを励ますように、戻ったイドがケイト達へ気軽に振る。


「フッ。そうだな。お嬢ちゃん達も、もう大丈夫だろ?」


「ええ!後は私達で。本当にありがとう!」


「勿論。頑張る!」


「はいです!サウルさんに怒られないよう励みます。」


「アハハッ。エマ君も頑張ってくださいね。

クロード君。新しい防具を着たのです。新しい門出ですね。後は君達次第ですよ。」


「……特訓お疲れ様。皆よく頑張った。でもこれから。更に頑張ってね!」


「……皆さん。本当に、……ありがとう……ございました。」


 皆がそれぞれ応え、今までの健闘を讃え、これからの激励をする。

 クロードは堪えきれず、俯き、震えながらも、精一杯ノリス達へ感謝した。


「おいおい。大丈夫か?

エストも言っただろ。これからが本番だ!

クロード。頑張れよ。」


 ノリスはクロードの肩を叩き、イド達はケイト達と握手を交わし、特訓は終わりを迎えた。

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