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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第7話 週末のステータス

 気を取り直してアレクは更新作業を進めて、サクッと四人分の新しい冒険証が出来た。


 『ノリス』 Eランク

 三十七歳 剣士 (鍛冶師)


 『イド』 Eランク

 三十九歳 剣士 (細工師)


 『サウル』 Eランク

 三十一歳 剣士 (農工師)


 『エスト』 Eランク

 三十一歳 剣士 (錬金、調合術師)



 小さい木札に書かれた情報はこの程度だ。


 今までは疑問に思わなかった。だけど先程の話を聞いて、こうして見てみるとやはりおかしいとアレクは確信した。


 剣士四人のパーティは確かに珍しいが、居ない事は無い。ただし、魔法が使えなかったり、遠距離攻撃手段が無かったりと汎用性が低いので、高ランクになる事はほとんど無い。だからノリス達がEランクであるのも不自然では無かった。寧ろ自然過ぎて不自然な程だ。

 多少お節介な組合員が居たら、もっとバランスの良いメンバーを紹介したりするのかもしれない。

 だけど、括弧内の第二(サブ)職業がバランス良過ぎだった。メインが全員剣士というアンバランスなのに、尚更その異常さが際立っていた。


 『なるほどな。それで全員が同じ装備なのか。』と、パッと見ただけで理解してしまう。

 ノリスが打った剣を腰に下げ、イドが作った皮の防具を着込み、恐らくサウルとエストが作った回復薬を持って、ダンジョンに挑んでいるのだろうと、誰もが思うし、現実にそうなのだと彼らの見た目が語っていた。


 都合良すぎないか?


 彼らの見た目や情報は、どこからどう見ても、何かが足りない。暫く考えてアレクは気づく。


『……そうか!冒険者らしくないんだ。』


 冒険者は自己主張が激しい。装備品もだし、どんな魔物を倒したか?なんて自慢はいくらでもする。

 強い者が上に登る、完全に実力主義だからこそ、その力を周囲に見せつけなければならなかった。


 ノリス達にはそれが皆無だった。

 趣味だし、週末しか活動しないとは言え、全員が何の特徴も無い一般的な装備を同じように着て、全員がこれといって特殊でも何でもない普通の剣士なんて……「自分達は脇役です!」とアピールしているようにしか見えなかった。



 冒険証が出来上がると、アレクの思考など気にもせず、ノリス達は更新費用を払って、冒険証を受け取り、すぐにでもダンジョンへ向かうようだった。手を挙げてノリス達を見送る。


 『豪雨』のメンバーもノリス達を送り出そうと、最後の挨拶をしていた。


「頑張れよ!『週末』の。ノリス達はアレだと知ったが、イドは普通なんだろ?機会があればコレを誘ってやろうか?」


「いや、すまんな。お嬢ちゃん達とは歳が離れすぎてな。コイツら程では無いが、欲が薄くなってきたのだ。」


「はっ!まだまだ現役だろ?そっちも頑張らないと一気に老けるぞ?

俺なんて、最近お嬢ちゃん達から専用の名前で呼ばれるようになるほど、仲良くなったぞ?」


「専用の名前?なんですか、それ?」


「本名じゃないがな。お嬢ちゃん達が俺の為に付けてくれたんだ。

【イシス】だ。今後はこっちを名乗ろうかと本気で悩んでいるな。」


「俺は【マドック】だ。」


「【レイ】。……レイさんと呼ばれるのも悪くないぞ?」


 豪雨は鼻の下を伸ばしながら、自慢げに受付嬢から呼ばれるニックネームを紹介した。

 ノリス達はドン引きしながら、ダンジョンへ向かって行った。



 アレクはしみじみ思う。


 ここで過ごしていたら、俺もいつかノリスのようになってしまうのではないか?


 『豪雨』の者達はそのニックネームの本当の意味を知らない。俺は知ってしまった。知りたくなかった。



 【イシス】は石臼(イシウス)

 頭のフケが酷く、いつも周りへ大量に落としまくる様が石臼を挽いているとの由来から呼ばれていた。

 『豪雨』のリーダーでもあり、値段交渉時に値引きや経費引き落とし等で、「もっと引いてくれよ?」とか「引きすぎじゃね?」とかゴネてきたら、受付嬢達は心の中で「今、挽いてる!」と思っているらしい。おかげで『豪雨』の交渉はちっとも成功しない。


 【マドック】は、本人の容姿があまり関係ないパターンだ。

 以前、ある一人の受付嬢と目が合った時、マドックは似合わないウインクをしてきたそうだ。おかげでその受付嬢は腕にサブイボが出まくり、その腕がマッドフロッグ(毒蛙の魔物)の背中のイボに似ていた事から『マドックの呪い』と一時期、受付嬢の間で大流行して、その流れでマドックと呼ばれている。


 【レイ】は、レイス。要するに幽霊だ。

 居ても存在がどうでも良いのか?半透明な程の希薄な存在感なのか?俺にもよく分からないが、如何にしてレイを消滅させられるか?その方法を考察するのが今、流行っている。


 確かにこんな環境に身を置いていたら、ノリスみたいになってもおかしくないな。

 金は良いから惜しいが、あのノリスの異常っぷりを見ると、ああはなりたくないと心底思った。


 後で組合長と話し合ってみるかと、アレクが考えていると、目の前のカウンターにいつの間にか一人の男性が立っていた。


 エストだった。


「うぉっ!?なんだ、エストか……。ノリス達は行っただろ?ダンジョン行かなくて良いのか?」


「……アレク。」


「なんだ?」


「……辞めないでね?」


 アレクはドキッとした。


 まさか思考が読めるなんて事は無いよな?

 だけど、バレバレなのかもな。ノリスがそうだったように、イドやサウルやこのエストも何かしら酷い経験があるのだろう。だから、今の俺の状況も理解しつつ、それでも俺が必要だと言ってくれているのだろう。

 俺は受付嬢じゃないし、相手が可愛い女性でもないけれど、こうして誰かから必要とされているのも悪くないなとアレクは想い、ふいに笑みが零れていた。


「大丈夫だ。アンタ達の次の更新までは、もう少しだけ頑張るさ。」


「……分かった。またね!」


 少しだけ嬉しそうな顔をしたエストは、その周囲にモヤがかかったと思った瞬間にスゥーッと消えていた。

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