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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第67話 特訓ークロード&エマー

 次の特訓日。クロード達が来てから、特訓内容の変更を伝えると、エマは飛び跳ねて喜んだ。余程サウルのお勉強はキツかったようだ。


「エマ君。あまりにも浮かれ過ぎて、全く出来ていなかったら……分かりますよね?」


 顔は笑っているけれど、セリフが怖いサウルの言い方にエマは着地と同時に背筋を伸ばしていた。



 イド・エスト組は変わらず模擬戦をする横で、ノリス・サウル組が特訓を開始した。

 予定通り、ノリスとサウルの二人がかりで石ころを投げつけ、クロードが盾で防ぎ、その後ろでエマがクロードを癒す。


「エマ!俺は右腕で盾を持っているから、あまり左側に寄らないでくれ!」


「……あっ!クロード。ごめんっ。」


 クロードは特訓が始まって、ケイトやメリルと戦い方の話し合いを良くするようになってメキメキ成長していた。

 彼女達がこう動いて欲しいと言えば言う程に、クロード自身も彼女達を守る為にはどう動いて欲しいのか考えるようになっており、その結果こうして指示するようにもなっていた。


 しかし、石ころを投げる役が二人になったので、今までよりも攻撃が苛烈になった。


「ぐっ!エマ。一度回復をくれないか?特に右腕を重点的に頼む!……エマ?エマ!」


「……えっ?あっ、はい!わかりました。」


 多少テンポのずれが起こっていたが、エマはクロードに回復魔法をかけた。


「これは……凄いよ!これなら何度でも耐えれる。ありがとう!」


 クロードはエマの回復魔法の精度に驚き、衝撃と盾自体の重さでの疲労が一気になくなった腕でドンドンと石ころを捌いていった。 

 石ころを捌きながらの為、エマの方を振り向くことはなかったが、声に喜色が混ざっているのは後ろにいたエマにも届いていたようで、エマはとても嬉しそうに笑っていた。



 しかし、投げ役のノリス達は、受けるクロード達とは雰囲気が逆だった。


 特にサウルがヤバかった。禁句を言っていないのに、誰かが言ったんじゃないかとノリスが思う程キレそうな顔をしていた。


 勿論、原因はエマだ。回復だけは教えた通りに真面目にこなしていたのでキレはしなかったが、クロードとのタイミングが全てワンテンポ遅れていた。その理由も当然のように、ノリスもサウルも気づいていた。


 クロード達は今まで壁役が居なかった。

 なので、今までのエマは戦闘中、自分の立ち位置を考えながら回復行動をしていたはずだった。今の特訓内容なら本来、出来ない訳がなかった。

 それなのに今、まったくと言っていいほど出来ていない。

 何故か?というと、クロードが壁役をしていたからだった。クロードに守ってもらいたいと最初に本心を聞いた時に言っていたエマが今、本当に守ってもらえていると心から感じていたのだ。


 要するに好きなクロードから守られて惚れ直し、守るクロードの後ろ姿に見とれて、トリップしていた。


 あまりにも馬鹿らしい理由で、サウルはキレそうになっており、特訓を中止して再びお勉強地獄に連れ戻そうかとも思っていたが、それをノリスが止めた。


「ノリス?これは流石に続ける意味が無くないですか?」


「いや、俺に考えがある。

まぁそうなるだろうなと思ってたんだ。以前、俺のパーティでは度々あったからな。

だが、丁度良いんだ。サウル、耳を貸せ。クロードに聞こえないようにな。」


 ノリスは石ころを投げながら隣に居るサウルへこっそり計画を話すと、サウルはキレ気味な表情がすっかり無くなり、ニヤリと笑った。


「アハッ。良いですね。乗りましょう。」


 そうして、ノリスとサウルは悪だくみを開始した。



 まずは投げる威力を上げて、クロードを下がらせた。当然、クロードが下がれば後ろに居るエマも下がっていく。その後、投げる威力を下げて、今度は当たる箇所をクロードの下半身辺りになるように狙い投げる。


 クロードを下がらせたので距離があるし、投げる威力も下げたので多少山なりになってしまうが、実はそれが罠だった。なるべくバレないように多少上半身にも当たる軌道を散りばめながら投げる。


 盾を上げ下げするのは何気に疲労が蓄積するし、足辺りに当たり機動力が削がれる事を嫌ったクロードは、山なりな石ころを前に出て受ける事になった。

 ノリス達が続けて投げていくと、盾で受けながらドンドン前に進んできた。クロードだけが……。


 十分な距離になったら、ノリスは突然、石ころではなく何故か今日から近くにあった大きな岩を持ち上げる。


 ノリスが大岩を持ち上げた瞬間、それをしっかり見ていたクロードはふいに気づく。


『大岩?ノリスさんはそれをどうするつもりなのか?

まさか……ハメられた!?エマ!くっ、俺のすぐ後ろに……居ない!?

俺は、ノリスさん達にまんまと釣り出されてたのか!』


 まさにそんな思考を瞬時に巡らせていたと、クロードの表情から簡単に読み取れた。

 そして、ノリスは大岩をクロードの頭上を越え、どう足掻いても届かないよう山なりに、しかしエマに丁度当たるように放り投げる。


「エマ!避けろーー!!」


 サウルが石ころを投げる頻度を高めて妨害していたが、クロードはダメージを負うのも気にせず目一杯ジャンプして大岩を遮ろうと盾を掴む右腕を上に伸ばす。それすらもノリスは計算に入れていた為、クロードの試みは届かない。あとはエマが気づいて避けてくれれば良い。そう思ってクロードはエマに思いっきり叫んだ。

 そうなるように仕組んだ為、エマはクロードと一直線上でノリスが見えなかった。更にはクロードが飛んでしまったので、投げられた大岩の軌道を隠し、発見するのが遅れた。もっと言えば、いきなりクロードが大声で叫んだため、ビックリして体が硬直してしまっていた。


 エマが気づいた時にはジャンプしたクロードの上から大きな岩が自分に向かって落ちてくる光景だった。『あっ。これ、当たる。』エマはそう思い、まるで走馬灯のように、さぞかしゆっくり落ちてくる大岩を見つめる事しか出来ていなかった。そしてテンパるクロードも、エマに直撃するまでの光景がゆっくりだったに違いない。


 ノリスは大いに期待した。


 クロードが一皮剥けて成長するのを……。


 お前は仲間を守り抜くんじゃなかったのか?守る為のお前の盾は手に持つソレだけなのか?違うだろ。お前の盾はもう一つあるじゃないか!

 詠唱?そんな余裕は無いぞ?だが、もう盾を使うのは慣れただろ!もう出来るはずだ。いや、出来なければエマは守れないぞ!

 さぁ!強引でも良いから、とっとやれっ!!


「出ろぉぉぉ!【魔法の盾】(マジックシールド)!!」


 クロードも同じ思考に至ったのだろう。なりふり構わず【魔法の盾】(マジックシールド)とだけ叫んだ。




 エマに当たるはずだった大岩は、クロードが発動した【魔法の盾】(マジックシールド)によってギリギリ防いだ。

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