第64話 特訓ーケイト&メリルー
「それで?しっかり話し合って決心ついたのか?」
ノリスとクロードが特訓を始め、サウルとエマがリビングに向かい、残るケイトとメリルにイドは再度聞く。
「そ、それは……」
ここまで時間をかけたにも掛からず口篭もるケイトを見て、うまくいかなかったのかとイドとエストは残念に思った。しかし、そうではないとメリルが擁護した。
「ちゃんと皆で沢山話した。でも、私もケイトも貴方達が信用できない。それだけがネックだった。」
「……だった?」
「さっきのクロードとのやり取りを見て、私は少しだけ変わった。
まさかあの人が【魔法の盾】を使えるなんて思ってもみなかった。クロードの反応もそうだけど、もしかして本当に出来るの?」
メリルは純粋な気持ちでイドとエストに質問し返す。
ケイトの迷いとは違い……いや、ケイトも半分以上は思っているのかもしれないが、メリルは教える側であるおっさん達がどうしても信用できなかった。これには当人のおっさんであるイドとエストも仕方が無いと苦笑するしかなかったが、メリルはノリスが【魔法の盾】を使ったことで少し認識を変えた。
恐らく今の言い方からして、メリルは現実主義者だろう。自分の見たものしか信じない。だから、何も言わないおっさんは信用できないもの当然であった。しかし、それをノリスが打ち壊した。
「それはクロードの努力次第だろう。俺らは出来るとは言えん。やるのはアイツであり、お前達だからな。」
「なら、私にも何かを教えてくれるの?」
ノリスが打ち壊したお陰で、メリルは疑念から期待へと瞳の色を変えていた。
「……残念。特に技術は教えられない。」
「何よそれ……結局、貴方達は何をやらせたいのよ!?
『サポートにまわれ』と言われても、どうすれば良いのか分からないじゃない。」
エストの答えにケイトは投げやりに言葉を吐き捨てる。
「ほぅ。少しは決める所は決めたのだな。
そのセリフが出るというならば、あの女を……」
「アンジェよ!待つに決まってるでしょ!!クロードもそのつもりだったわ。」
「……メリルも?」
「うん。確かにクロードの鑑定で色々便利だったけど、私達がここまで来れたのはアンジェの力のお陰でもあったから。」
「そうか。なら丁度良い。
予定通り、模擬戦といこうか。」
「「えっ?」」
「とりあえず、お前らの力を知りたいのでな。最初はお前ら二人だ。相手は俺一人だな。」
「ちょっと!私達を舐めないでよ?」
「少しは話を聞け。模擬戦と言っただろ。ただの確認だ。
当然、こちらで用意した木剣や鏃の無い矢を使ってもらうぞ。」
そうして、イドvsケイト&メリルが開戦した。
十数分程、打ち合った末……
模擬戦の結果は引き分けで終了した。あくまで模擬戦なので、結果はどうでも良かった。
イドは受ける事に集中し、牽制以外の攻撃もせず、手加減しているのがバレバレだった。
彼女達は途中からそれに気づき、その後ムキになり本気を出していたが、ケイトとメリルは終わるまで一度も有効打を与えることが出来なかった。
「……はぁはぁ、どうしてよ?」
「本当に……Eランク?」
息も絶え絶えなケイトとメリルに、汗ひとつかいていないイド。二人がおかしいと思うのも無理はなかった。しかし、実際にはそこまで難しくもなかった。
彼女達は今まで、特にクロードが決意し、アンジェが抜けてから、攻撃の全てを担っていた。
チャンスや隙があったら、強烈な攻撃を叩き込むのを第一にしていた。その意識は早々に変わらない。では、相手へのチャンスや隙が無かったら?
勿論、彼女達も馬鹿では無い。揺さぶりをかけたり、連携もしてきた。だけど、結局二人共が互いに終わらせようと、効果的な一撃を与える事がどうしても抜けきっていなかった。
週末にダンジョンでイド達が練習している連携とは正反対なのだ。イド達はエゴが無いので譲り合い、ケイト達はエゴ丸出しで奪い合っていた。
それでは、相手をするのも楽だ。イドが少し隙を見せるだけで、面白いようにひっかかってくれた。
「その疑問に答えるつもりは無いと言っただろ。
しかし、中々に良い攻撃だった。これから成長していけば、良いパーティになるだろう。」
「「……。」」
イドは模擬戦を終えて純粋に彼女達を高評価したが、本人達には嫌味にしかきこえず、無言で受け取った。
「エスト。どうだ?」
「……うん。多分、大丈夫。」
彼女達の反応などお構いなしにイドはエストへ確認すると、問題無さそうだったので次へ進めた。
「よし。お前ら、少し休憩したらまた模擬戦だ。」
「ええ?まだやるの?」
「もう十分じゃない?」
「本来はお前らが知りたいのだろ?
やれば分かるさ。次は組み合わせを変えるからな。」
暫しの休憩後。
イドvsエスト&メリル。
結果は、五分もしない内にやはり引き分けで終了した。
エストが本気出してイドが慌てて終わらせた訳ではない。
メリルが驚愕して、戦い途中に戸惑い、動きを止めてしまっていたからだ。
「嘘っ!何、コレ。こんなに違うの?」
「メリル。一体、どうしたのよ!?」
「凄い。全然違う。何故?どうして?
こんなにもやりやすいのは初めてかも。」
「えっ!?」
「ふむ。メリル。感想は後だ。エスト、次もすぐに行けるな?」
「……うん。全然大丈夫。
だけど、弓は使えないから、投擲でやるね?ケイトもよろしく。」
「ああ。それで構わない。」
「え?ええ。よ、よろしく。」
次戦はイドvsケイト&エスト。
これもまた同じように五分で引き分けのまま決着がついた。
更に同じようにケイトは模擬戦を止め、零れ出る何かに耐えるように俯き震えていた。だが、耐えきれずに言葉は漏れていた。
「こ、これが……こんな事って……。」
その様子を見て、つい先程ケイトと全く同じ気持ちを持ったメリルは凄くよく分かると何度もうんうん頷いて、その後ケイトに駆け寄り励ましていた。
そんな二人にイドはまとめる。
「流石のお前らも肌で感じてよく分かっただろ?
最初の模擬戦で、エストにはお前らの動きを見て知り、ある程度だが予測して、以降の模擬戦は抜けた者の代わりとしてお前らのサポートにまわってもらった。
あまり時間をかけてないので付け焼き刃だが、お前らの表情を見るに、十分過ぎる結果だったのかもな。流石はエストだ。」
「……まだまだ。これならイドだって出来るはず。」
「フッ。俺では難しいだろうな。つい口が出てしまう。」
「……おっさん特有だね。」
「やめろ!ノリスの悪影響を受けるなよ……。」
「クフッ。でも、ありがと。」
ほんわかとした空気で笑うイドとエスト。
しかし、笑えない状態の彼女達が置き去りになっていた。
「ねぇ?どうやったの?」
「ホントよ!サポートがどういうのか理解出来たけど、結局どうやれば良いのか分からなかったわ。」
「そんなに難しい話では無い。根本的には意識の違いだけだ。
敵と戦う場合に、お前らは敵を倒すのが最優先だと思っている。それは今までがそうだったから仕方が無い。
しかし、その気持ちを完全に捨て、自分の攻撃はただ仲間が攻撃しやすい環境を作る。それだけの為にしっかり考えて敵と対峙するだけだな。
何故そんな無駄な攻撃をするのか?模擬戦のエストの動きを外から見てる時、お前らは思ってただろ?でも一緒に戦って気づいたな。あれは全て仲間の為の攻撃だ。」




