第62話 特訓ークロードー
「ノリス。少し脅し過ぎですよ?
エマ君達がドン引きしています。クロード君の決意はそんなに軽いものではないでしょう。」
「……守る相手が居れば、忘れたりしない。大丈夫。」
「そうだな。結局、おっさん臭い説教になってるぞ?まぁノリスなら仕方が無いか。」
「イド!てめぇ、俺は真面目に話してんだぞ。」
クロードを吹き飛ばしてから、忠告するノリスを見て、サウル達は色々とフォローした。イドだけはいつも通りで、これまたいつも通りのじゃれ合いに移行しようとしていた。
「アハハッ。ノリス、イド。そんな時間はありませんよ?
ノリス。こんな惨状では、皆特訓が厳しいものになると思い描いてしまうので、安心させたかったのです。私やエスト、イドもね。」
「……そんなにキツくないでしょ?」
「仕方が無い。ノリスはケイト達の様子など見えてないのだからな。
お前ら、俺らの特訓はそう無茶をさせるものではないから、安心しろ。
クロードもな。そうだろ?ノリス。」
「んあ?ああ。そうなのか。
イドの言う通りだ、クロード。すまんな。最初だけはどうしても痛みを認識させたかったんだ。」
「い、いえ。俺も浮かれ過ぎでしたから。」
クロードは謙遜しつつ、土に塗れた体を払う。
そうして、ノリスはクロードに今後の特訓を教えた。
特訓内容は簡単だ。
ノリスが投げる石ころを盾で防ぐ。それだけ。
とにかくクロードは盾に慣れさせないといけない。投げる速度も大した威力でもない。多少弱い弓矢ぐらいの速度だった。
それでも続けていけば、痛みや疲れは出るが、先程の死にそうな攻撃よりも数倍マシだった。
ノリスの説明を聞いて、クロードは少しだけホッとしており、同じように聞いていたケイト達も胸を撫で下ろしていた。
「ま、当分はその盾と、盾を持つということに慣れることだな。今まで持ってなかったんだ。これだけでも結構大変かもしれんぞ?」
「……頑張ります。」
半分納得しつつ、もう半分は先程よりもかなり楽な特訓内容に疑問を持ちつつクロードは返事をしたので、ノリスは庭の一角に事前に用意しておいた石ころが積み上がった場所へクロードを連れていき、残りの女性陣はイド達に任せて、二人は特訓を開始させた。
「ほら、行くぞー。」
「はい!」
ノリスはひたすらクロードに石ころを投げる。
…………
ほんの数分は何も問題なかった。
どう考えても盾で防ぐクロードよりも石ころを投げるノリスの方が体力的にキツい。しかし、先にへばったのはクロードだった。
「……はぁ、はぁ……くっ!」
「クロード。まだ始まって数分だぞ?
ま、今日は初日だからな。緊張もしていただろうし、少し休憩するか。
とはいえ、休みながらでも一時間はコレをやるからな?どうすれば良いか自分で考えてやれ。」
「はぁはぁ……はい。」
ノリスは別に正確なコントロールで石ころを投げている訳ではない。結構適当にクロードへ投げ込んでいたので、半歩でも体をずらせば避けれる石ころも結構な頻度であった。しかし、クロードは盾で受ける訓練として真面目に受けに行ってしまっていた。
確かに間違いではないが、正解でもない。
石ころを盾で受ける特訓ではあるが、その為の特訓ではない。壁役として盾を持つことに慣れる特訓だ。避けれる攻撃は避けるべきだろう。
それに、全ての石ころに対して正面から受けていた。それでは威力が低いとはいえ、衝撃があるので、疲労も溜まりやすい。斜めに受け流して弾くほうが余っ程楽になる。
クロードは自分で考えて、休憩後に実践する。
しかし、
「キャッ!クロード?石ころをこっちに飛ばさないで。」
「ご、ごめん。ケイト。」
盾で弾いた石ころが、後方で特訓しているケイト達に流れてしまっていた。
ある程度、広さはあるとはいえ、あくまで庭だ。ケイト達も同じ場所で特訓している。
「ノリスさん。もう少し……」
『邪魔にならない場所で特訓しませんか?』クロードはそう言おうとしたのかもしれない。それは違うとノリスは遮った。
「クロード。お前は壁役だろ?ならば、パーティの最前線だ。後ろの仲間を気にしないでどうする?弾いて受け流すのは正解だが、流す場所も考えて行動しろ。」
ノリスは問答無用でドンドン石ころをクロードへ投げる。
「……くっ、はっ!……はぁ、はぁ……」
「ほらほら!後ろばかり気にするな。攻撃は前から来てんだぞ!
もう気づいたと思うがな、コレは痛みや疲労との戦いだけじゃない。頭をフル回転させて、常にどうすれば良いか考えながらやれ!」
クロードが慣れてきたら、ノリスは執拗に頭を狙って受ける盾で視線を遮らせ、その隙に足を狙い撃つ。面白いように当たった。
大した威力ではないが、その痛みにクロードは悶絶する。それでも構わず続け、何度か休憩は挟んだが、クロードは一時間やりきった。
体に蓄積された痛みと疲労、更には周りに気を張り思考し続けた為に精神的にもかなり疲弊し、クロードは庭に倒れ込んでいた。
「よく頑張ったな、クロード。
ま、今日は初日だし、こんなもんだ。
これからもコレを続けるからな。少しずつ慣れていけばいいさ。」
「……。」
最初は簡単そうだと思っていたが、予想以上に色々大変で、返事をする気力もないクロードは視線だけで了承していた。
こうしてクロードの特訓初日は終わった。




