第61話 特訓
オークと確認し、盾の性能もチェック出来、その次の日にはクロードの盾も完成した。
更に翌日。
ようやく特訓開始となり、朝からクロード達はキリッとした表情で家に来た。
しかし、クロードの装備は今まで通り魔法使い風だった。さっそく前回のオークのように拉致して、恥ずかしがるクロードなどお構い無しに、体格が似ているエストの予備の服や皮鎧を着せる。
「お前なぁ。これから盾の特訓だぞ?全身覆うローブなんて邪魔なだけだぞ?」
「でも……俺は今まで、これしか……」
「ああ。そうか、そうだったな。」
「……なら、それはあげる。」
「特訓終わりの防具も考えないといけませんね。
魔法使いの風貌は、ある程度残しておきたいですし。」
「そうだな。まだ先になるだろうから、ひとまず保留だな。」
「えっ?」
「まぁ気にすんな。それよりも、ホレ。待望のお前の盾だ。」
何故かクロードの防具も新しく作成する方向になっており、クロードは混乱していたが、ノリスからポンと出来上がった盾を渡されると、クロードの思考と意識が全部盾に移っていた。
「や、やっぱり少し重いですね……。」
「これからの特訓にも使うから、それなりに頑丈にしないと耐えられん。
とはいえ、これでも軽い方だぞ。ギリギリ壁役でも使えるぐらいだから、最軽量ではないがな。だが、最初はこれぐらいの重さが絶対だ。」
「最初は?後で軽くしても良いのですか?」
「そりゃそうだろ。お前のメインは【魔法の盾】だ。普通の盾を完全に使いこなす必要も無い。その時間も無さそうだしな。
だが、【魔法の盾】では重さが分からんだろ。
良いか?その盾の重さは命だ。
お前の命を守り、お前の守りたい者の命の重さなんだ。忘れずに噛み締めておけよ。」
「っ!……はい!」
やる気を再充填したクロードの返事を聞き、今がチャンスとノリスは思い、即座に訓練場と化した庭に引っ張っていく。他の者達もとりあえずとゾロゾロ着いてきた。
「クロード。【魔法の盾】を発動しろ。
今持ってる盾の少し手前に同じぐらいの【魔法の盾】を創る感じでだ。」
「はい!」
ノリスの指示にクロードは元気に返事をして、魔力を込め、詠唱をし、【魔法の盾】を発動させた。
「…………、【魔法の盾】!うわっ!?全然違う!」
「まだ始めたばかりだから詠唱は必要だろうが、制御はかなり楽だろ?そのうち慣れてくれば、色々短縮出来るし、応用もきくはずだ。
とりあえず、俺達との特訓で、『シールド』と言えば、これぐらい発動するようにとは思ってるがな。」
ノリスは説明しながら、『シールド』と言った際に、クロードが創った盾と同じ大きさや形の【魔法の盾】を発動させる。
「嘘っ!?」
中年の剣士が実際にクロードへどうやって教えるのか?やはり全然信用されていなかったらしく、ケイト達はまさかノリスが【魔法の盾】を使えるとは思ってもみなかったようで、驚愕の表情で固まっていた。
「さて、クロード。そのまま発動してろよ?」
「……はい。」
発動耐久時間の確認とでもクロードは思ったのか、特に疑問もなく素直にノリスの指示に従う。
しかし、ノリスはクロードの元へ素早く踏み込み、懐のマジックバッグからオークが持つような棍棒を取り出しながら、クロードの創った【魔法の盾】に棍棒を横なぎに叩きつけた。
激しい衝突音とあわせて、クロードやケイト達は突然のノリスの行動にビックリしていたが、【魔法の盾】はしっかり効果を発揮して、ノリスの攻撃を跳ね返し、二度ビックリしていた。
「ほぅ。強度も上がっているのか?」
「魔法はイメージが大切ですからね。
本人のやる気があり、実際に触れて、重さを感じて、構築すれば当然ですね。」
「……なんだか、すぐに特訓が終わりそう?」
イド達が、ノリスの攻撃を防いだ【魔法の盾】を見ながら思い思いに会話していた。しかし、エストが聞き捨てならない事を言ったので、ノリスは否定する。
「まだまだだな。寧ろ、ここからが長いぞ?
クロード。先程の俺の攻撃は、オークの攻撃に近いはずだ。だから、お前の【魔法の盾】は十分にオークの攻撃を防げるだろう。
では、次だ!
【魔法の盾】の発動を切って、持ってる盾を構えろ。構えは自由でいい。踏ん張れる体制でな。」
ノリスの説明で、誰もが次にやる事を予想できた。
クロードはゴクリと唾を飲み込み、なるべく耐えれるように盾を構えて片足を引き、踏ん張る体制で立つ。
更に見守る側のサウルはいつでも回復できるように意識を向けていた。
「行くぞ!」
もう一度、ノリスは踏み込んで、クロードが持つ盾に棍棒で横なぎを叩き込んだ。
盾に使われた金属音を含んだ衝突音と共に、クロードも声をあげる。
「……ぐっ!うぅっ……ぐあっ!」
ノリスの攻撃に耐えきれず、クロードの体が浮き上がり、後ろにふき飛ばされてゴロゴロと転がった。
サウルがすぐに回復する為、指をならそうとするのをノリスが止めた。
確実に腕を怪我していたが、クロードは死んでいなかった。転がった影響で所々土に塗れているが、意識はあり、怪我の痛みに悶絶していた。
「クロード。痛いか?これでも一度目と同じ力しか込めてないからな。
それが今のお前の力だ。オークの攻撃ですら、まともに受ければこうなる。だが、盾のお陰で死んでない。お前を守ったんだ。」
ノリスはサウルに視線を送り、サウルも応えてクロードを回復させる。痛みがなくなり落ち着いたクロードにノリスは再度語る。
「クロード。お前がお前を、仲間を、守ると決めた。それには痛みが必ずある。
壁役は誰もが痛みに向き合うんだ。その痛みを乗り越えないと守れないからな。だから、痛みは絶対に忘れるな。
特にお前の場合は、【魔法の盾】が主体だからな。衝撃も無いし、慣れてしまえば無傷で守れてしまうかもしれん。
もし、そう思いあがってしまったら、行きつく先は分かるだろ?」
『いつか取り返しのつかない悲劇になる。』
クロード自身、いまさっきノリスの攻撃を【魔法の盾】で跳ね返した時、衝撃もなく、音だけだったので、大した攻撃じゃないと思った。
でも、実際に受けてみて、それは間違いだと思い知った。
ノリスの言いたい事は、まさに死にそうになるほどクロードには理解出来た。




