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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第60話 確認

 ノリス達もやる事が多々あり、クロード達も時間が必要だろうと数日は休みにした。


 とはいえ、「何か手伝いたい!」とクロード達は度々家に訪ねて来ていた。

 クロードとエマは都度、作成途中の盾の調整をしたり、ケイトやメリルも来て、サウルとエストが主体でこなす庭の整地作業を一緒に手伝っていた。



 そんな日が二日程経った夜。


 整地作業をしながら、何やら話し合っていたらしいサウルとエストが、ノリス達四人だけの夕食時に唐突にノリスへ依頼してきた。


「ノリス。クロード君と同じ強度の盾を私達にも作ってくれませんか?」


「……性能が同じなら、形は何でも良い。」


「んあ?急にどうした?」


「ほぅ。なるほど。確かに必要かもしれんな。

ノリス。俺らの分も作ってしまおう。」


「イド!?お前もか?」


 すぐに理由を察したイドもサウルの提案に賛同し、分からなかったのはノリスだけだった。


「ノリス。クロード君を壁役として育てる為には、攻撃を盾で受けさせる必要がありますよね?」


「ああ。とにかく盾に慣れさせる為には、そのつもりだな。」


「……その力具合が僕らは微妙。」


「クロードだけじゃない。ケイトやメリル、エマにも特訓させるとなると、俺らもソレが必要となってくる。しかし、どのくらいかが分からないのだ。」


「それもそうだな。ま、性能だけなら直ぐに作れるだろう。

だが、どのくらいとか基準を考えたら……お前ら、まさか?」


「ええ。そのまさかです。私達は盾を持って一度ダンジョンに潜ろうと思っています。」


 ようやくサウル達の真意に気づき、その通りだとサウルは言った。


 ノリスだけは元々盾使いだが、イド達は違う。

 使えないこともないのだが、イドは無手で受け流し、サウルは回復で受けきり、エストは身体能力で避けていたので、普段からほとんど使っていなかった。

 だから、特訓の相手をしようにもどのくらいの攻撃をしたらいいのか分からなかった。

 そして、ノリスの言う基準とは、クロード達がとりあえず生きていけるレベルだ。この街で言うならば当然オークの攻撃が基準になる。

 過去にも、『週末』として活動してきたイド達三人は、盾でオークの攻撃を受けた事がほぼ無かった。だから、その力具合を事前に知って、特訓に役立てるつもりのようだった。


「本気か!?週末に潜るつもりじゃないのだろう?」


 『肉屋』と交渉した、週末にダンジョンへ潜りたかったのは、あくまでノリス達の生活の癒しだ。その日を他人の為に使う気などノリスは全く考えていないし、イド達もそのつもりだろう。


 だから、サウルの発言は、週末以外でダンジョンに潜るとノリスは断定し、それでは『週末のひととき』として、パーティを組んだ思想とぶつかるのではないかと危惧した。


「……仕事じゃない。趣味でもない。ただの確認。」


「エストの言う通りだ。

ノリスは問題ないかもしれんが、俺らは違う。

今のままなら、俺らは俺らだ。正確にオークの力を知らないと手加減も出来んから、お嬢ちゃん達がついてこれん。」


「そうか……確かに言われてみればそうだな。

よし!そうと決まれば、サクッと作っちまうか!」


「……うん。僕らも手伝う。」


「ええ。とにかく確認がしたいだけですから。」


「クロードに渡す盾の性能確認にもなるしな。丁度良いのだよ。」


 そうして、その後クロードへ贈る予定の同性能の盾を、見た目は考慮せずに一晩でいくつも完成させて、翌日の昼過ぎにクロード達が来なかったのをいいことに、出来上がった盾を持ってノリス達はこっそりダンジョンへ潜った。


 ダンジョンを少しだけ探索し、棍棒を持った丁度良いオークを見つけて拉致。


 そのオークに攻撃させて、誰かが盾で正面から受けきる。その後、他の者達はオークと同じように盾で受けた者へ攻撃し、オークとの力具合を教えてもらい知る。更にはオークの攻撃を盾で受ける衝撃も知る為に、受ける者が交代する。


 外から見たら、いや拉致られたオークすらも、意味不明な光景だった。


 魔物であるはずのオークは誰からも攻撃されず、更には仲間であるはずの冒険者パーティが仲間割れのようにリンチされているのだ。しかも度々交代しているから、混乱しない方がおかしい。


 たまに見かける他の冒険者達から、止められそうになったり、説明しても変な顔されたり、更には「一匹のオークに操られているのでは?」と、手伝ってくれていたオークを他の冒険者達が攻撃しようとして、慌ててノリス達がオークを守ったりと、混沌は加速した。


 しまいには……


「おい?ノリス!何が問題無いだ!?

お前が一番酷いぞ?今の攻撃ではクロードが死ぬぞ?もっと加減しろ。」


「馬鹿言うな。このぐらいだろ?

分かった!コイツが疲れているからだ!おい!もっと元気だせよ。」


『ブ、ブヒィ……』


「回復してあげますから、もう少し付き合って下さいね?」


「……頑張れ!」


 オークを励ますノリス達。まさに異様な光景だった。


 数時間後、ようやくノリス達全員がオークの力量を把握し、自分達も加減出来るようになった。

 長々と付き合ってくれたオークに感謝し、倒さずに解放した。最初に拉致った頃よりも何故か歴戦感が増したオークは、それでもノリス達を恐怖し、逃げるように去って行った。



 その後、ダンジョンの第一階層にやたら攻撃が上手いオークが出現すると少しだけ冒険者組合で噂になったが、力のある冒険者が出張り、あっさりと命を散らし、原因を追究するまでには至らなかった。

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