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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第6話 男と生ゴミ

「なんだ?アンタ、女性嫌いなのか?」


 『豪雨』の一人が、心配そうにノリスを気遣うも、ノリスの返答は辛辣だった。


「『女性』?なんだその言葉?

この世に存在する性別は、『男』と『生ゴミ』だけだ。」


「お、おぃ。アンタ……正気か?」


「うん?マトモに決まってるだろ。

普通なら生ゴミの腐敗臭に吐き気を抑える方が難しいじゃねぇか?

いやぁ、本当にアレクが居てくれて良かった!俺達がこの街に決めたのはアレクも要因の一つだな。」


 心配した『豪雨』の男など気にもせず、ノリスはキラキラとした目でアレクを見る。アレクは猛烈な悪寒に襲われ、尻の辺りがむず痒くなった。


「確かにノリス程じゃないですが、私もアレクさんが居て良かったですね!」


「……アレク、辞めないでね?」


 更にはサウルとエストからも同じ目をされた。


 アレクはおぞましいモテ期が到来したと心底組合員になった事を後悔した。


 『豪雨』の心配した男とは別の男が少しイラついた様子で椅子から立ち上がる。恐らく妻帯者なのだろう。自分の愛する人を馬鹿にされたと思ったらしくノリス達に掴みかかろうとしていた。

 それを、慌ててイドが間に入って止めつつ、アレクにも誤解を解く。


「待て!落ち着け!別に全女性がそう……とは言ってるが、ノリスにそんなつもりはサラサラ無いんだ。

あと、アレク!こいつらは女嫌いだが、逆に男好きでは無いから安心しろ。」


「なんだと?どういう事だ?」


「俺は違うが、こいつらはそもそも性欲が無いんだ。ノリスは特に女の女部分が生理的に受け付けなくなった。サウルとエストは性別関係なく人が苦手なんだ。」


 サウルとエストのように人嫌いは多いから、全員がすんなり納得したが、ノリスの説明がいまいち理解できなかった。その為イドから、ノリスの事だけは詳細を問い詰めた。


 ただそこで突っ立っているだけなら何も問題無いらしい。だけど、女性らしい仕草とか、女性を感じる動きが、とにかくノリスはダメで、すぐに気持ち悪くなるのだそうだ。

 確かに、それならば受付嬢は天敵になるだろうとアレク達は思った。上目遣いでお願いしたり、胸を強調させて冒険者に色目を使うのは、組合内では日常なのだ。


「なんで、そんな風になったんだ?」


 『豪雨』の疑問も当然だった。イドは優しく説明を続けた。


「ノリスの昔のパーティがな……もう一人男が居て、そいつを他のパーティメンバーの三人の女が取り合っていたのだ。所謂ハーレムパーティだな。年がら年中、それこそノリスの目の前で繰り広げられていたのだ。」


「うへぇ……俺ならその男を殺してるな。」


「いや、俺だったらすぐに脱退するぜ。」


「そうしたいだろ?でも出来ない事情があったんだ。それで、ノリスはこうなったのだ。

俺は度々一緒になる事があったが、アレは本当に酷かった。」


 しみじみと過去を思い出して言うイド。ココに居る全ての男達がノリスに同情していた。


「なんだ?イド。お前も似たようなもんだろ?

それにアイツが生ゴミと戯れていただけだ。そこまで酷い話でもない。」


 しかし、当のノリスはケロッとしている。それがまた悲しさを増長させた。


「な?こうなるんだ。」


「……すまん。アンタ達も大変だったんだな。」


「俺らもいい歳だからな。」



 少ししんみりとした空気が漂ったが、アレクは別の事が気になった。


 ノリス達は全員がEランクの冒険者である。要するに駆け出しに毛が生えた程度なのだ。

 彼ら四人の仲の良さから、結構な時間は過ぎているはずだった。

 だが、先程のイドの発言は腑に落ちない。ノリスの昔のパーティ?しかも、脱退できない事情があったという事は、そこでも結構な時間を過ごしていたはずだった。

 今のメンバーは現在の実績をほぼ積み重ねない冒険方法に納得していそうだが、それを他の者も思うのだろうか?ハーレムパーティだったと言うし、絶対に無さそうだとアレクは思った。

 ノリスやイドの年齢をアレクは知っている。冒険証に書いてあるし、その年齢通りの見た目もしていたから、嘘ではないはずだ。


 歳をとってから、例えば子供が独り立ちしてやることが無くなった中年が、遅咲きの冒険者になるのは割と良くあった。この街にも何組かそういうパーティは居る。ノリス達もそうかと思っていたが、長い経験があるようだった。


 それなのに、Eランク?有り得ない。


 先程とは違う意味でアレクは何かを垣間見た気がして悪寒に襲われた。


 ふと、ノリス達を身辺調査した結果を組合長に報告した後、組合長が翌日ノリス達を直接見に行って、スキップしながら上機嫌で帰ってきた時を思い出した。組合長からの報告時にアレクへボソッと忠告してきた。


『あの人達は全く問題無い。ワシが保証しても良い。じゃから、調査はこれで終わり。良いな?あまり彼らを怒らせないように!深入りも禁物じゃ。』


 あの時の組合長の発言の意味はよく分からなかったが、こういう事かと、今更ながらにアレクは思った。



 アレクは一人思考の海に沈んで、更新手続きも全く進んでいなかったが、イド達や『豪雨』もまだまだ会話に花を咲かせていた。


「……男勝りな女も、結局ダメだったな。どうしても女が出る場合があるからな。

唯一大丈夫だったのが、仮面のようにピクリとも顔を変えず、一切笑わず、声すらも感情を無くして喋り、隙を全く見せない……そんな女が確か居たな。」


「あぁ。そういえば居たような気もするな。」


 イドが突拍子も無い事を言い、ノリスも同意していたので、盛り上がっていた。


「本当ですか?それは私も知りませんでした。エスト、知ってる?」


「……知らない。奇跡が起きた?」


 更に、イドは爆弾を落とす。これには思考の海に沈んでいたアレクも驚き、現実に引き戻された。


「しかも、なんと!組合の受付嬢だったのだ!」


「馬鹿な!?そんな対応する受付嬢なんて、どこの場所にも居ないだろ!」


「ふかしこいてんじゃねぇぞ?」


 『豪雨』の男達も嘘だと騒ぎ立てる。しかし、イドは鼻で笑って真実を語る。


「フッ。奇跡とかそんなに難しい話じゃない。至って簡単な結果だ。

初対面でノリスに抱きついてきて、ノリスのゲロを盛大に頭から被ったんだ。

それ以降、そんな対応になり、結果的にノリスから人として扱ってもらえたのだ。笑えるだろ?」


「あぁ……なるほど。」


「それは……その女も災難だな。」


 全員が不思議な程にストンと納得出来た。

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