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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第58話 特訓準備Ⅱ

 確認が終われば、全員でリビングへ戻り、クロードは盾の作成が見たいらしく、ノリスと一緒に作業場に向かって行った。ケイト達もついて行こうとしたが、イドが止める。


「お嬢ちゃん達にもやる事はちゃんとあるから、少し待て。やる事というよりは聞くべき事だな。」


「な、何よ?」


 そのつもりは無さそうだが、周りはおっさん三人の中に、女性のみが残された。しかもこれから教えてもらう立場である。

 『いかがわしい事でも要求されるのでは?』とケイトのように多少、警戒するのは当然であった。自分達を少しでも守る為、『肉屋』からもそういった教育は受けているのだろう。


 しかし、続くイドの言葉で三人共、キョトンとした。


「クロードの決めた事について、お嬢ちゃん達はどう考えているのだ?」


「「……。」」


「ここにクロードは居ない。俺らは告げ口もしないと約束しよう。だから、本心で話して欲しいのだ。」


「確かアンジェ君は反対でしたね。だから、ココには居ない。なら、君達は賛成?本当にそうでしょうか?」


 サウルがイドの話を補足しつつ、ケイト達の本心を探る。

 すると、クロード達の中で一番大人しいエマが恐る恐る手を挙げて応えた。


「わ、私は……クロードを応援したいです!

どの道、私は護ってもらわないと役に立てません。なら、クロードに護られて、クロードを癒したい。」


 答えは早かったがちゃんと考えていたのだろう。しっかりとした意見も添えられてエマは想いを口にしたので、サウルは満足しながら頷いて、エマの気持ちを歓迎した。


「エマ君はそう言うと思っていましたよ。私が手伝うので頑張りましょうね?」


「はい!」


「では、エマ君も盾を持たせる予定ですから、ノリスとクロード君の後を追い、作業場へ向かいましょうか。」


「えっ!?」


 エマもサウルに励まされやる気十分といった感じで返事をしたら、一気に谷底へ落とされた。

 一瞬にして顔を青ざめさせながら、しどろもどろになるエマを見て、笑うサウル。


「アハハッ。壁役をさせる訳では無いので安心してください。

良いですか?これからクロード君は壁役になろうとしています。一般的な壁役では無いので、大変ですし、攻撃を受ける回数も多いでしょう。」


「……はい。」


「だから、エマ君は今まで以上に多く回復させる必要があります。魔力、大丈夫ですか?」


「……いいえ。」


 悔しそうに本音を言うエマを、サウルは優しく諭す。


「だから、クロード君が痛む箇所を正確に把握する為に盾を持って知るのです。少ない魔力で適切に回復させて、回数を稼ぐのです。

言い換えれば、【クロード君と同じ痛みを背負い、その痛みを癒す。】のですよ。」


「そ、そういう事なら!私、頑張ります!」


「良い返事ですね。では、行きましょうか。」


 やる気が復活したエマを連れて、サウルはノリスとクロードの居る作業場へ向かった。



「さて、残る二人はどうだ?」


「……エマの意見に流されないでね?」


 残ったケイトとメリルにイドとエストは再度聞く。


「私は……」


 口篭るケイト。反対したアンジェとも仲が良さそうだったし、本心では今も揺れ悩んでいた。

 その間にメリルが答えた。


「出来る、出来ないなら……出来ないと思ってる。

でも、もし出来るのなら私は楽になる。ずっと壁役居なくて大変だったから。だから無理でも挑戦してみる価値はある。」


「なるほどな。弓使いなら確かにそうだな。」


「……ケイトはどう?」


「うぅ……わからない。……ねぇ、これは本当に必要な事?」


 弱々しく言葉を紡ぐケイト。

 クロードを応援したい気持ちもあるだろうし、抜けたアンジェの気持ちも十分過ぎる程理解できていた。

 ココに居るのは、アンジェのように戻る場所が無かったのもあったし、クロードへの想いが勝ったのだろう。だけど、全面的にクロードの決定を支持する程でも無かった。

 仲の良かったアンジェを裏切ってしまうのではないか?という気持ちも迷いに拍車をかけた。


「当然、必要な事だ。

まぁ、今ここで決める必要は無いが、早めに決める為にクロード達が終わった後にでも、皆でしっかり話し合え。

先に結論を言うと、クロードの壁役だがな。

クロードだけ変わっても絶対に成功しない。お前らが全員でクロードを支えて、初めて形になるからだ。」


「……冒険者パーティなら当たり前。」


「そうだな、エスト。

クロードがお前らを守りたい……女冥利に尽きる想いだな。悪い感情は持っていないだろ?

だが、お前らもクロードを支えなきゃならん。その為には覚悟を決める必要がある。」


「それは……そうだけど……。」


「それとアンジェについても、しっかり考えておけ。あの女は本当に戻ってくるのか?」


「も、戻ってくるわよ!!」


「ならば、その居場所を作って待つとかしなければならんだろ?

クロードは今まで攻撃寄りだったはずだ。それが壁役になる。更にアンジェも去った。恐らくだが、現状の戦闘は、お前ら二人だけで攻撃を担っているだろ?かなり大変なはずだ。

だが、もしクロードが上手く成長してしまった場合、壁役が機能するからメリルが言うようにお前らも楽になるだろう。その頃、アンジェの居場所は残っていると思うか?想像してみろ。

だからな、ケイト。

お前がアンジェを想うならば、クロードのサポートにまわれ。戻ってくるアンジェに全ての攻撃を託せ。セガルの弟子ならば、その方が上手くいくだろう。

あくまで俺の思った考えだがな。そういう方向性の話をもっとパーティでしろ!」


「……。」


「まぁ、今のところ攻撃を託す相手が居ないがな。

だから動きを変えてしまうと、魔物が倒せなくなるので、あまり変えさせるつもりは無い。」


「どっちなのよ!?余計混乱するじゃない!」


「これは気持ちの問題だ。

先を踏まえて、全員で考え、話し合って意志を固めろ!と言っているのだ。

アンジェを想うなら、分かるだろ?お前だけじゃないぞ?全員でだ。それこそがパーティだ。」


「……分かったわよ。」


 渋々だが、ケイトはイドの説明に納得して返事をした。

 ケイトの中で答えはまだ出ていないかもしれない。だけど、ケイトの中だけで決める事でもない。

 アンジェを待つのならば、全員で待った方が良い。待たないのなら、全員で先に進まなければならない。

 それをちゃんと話し合って決めておく必要がある事だけは理解したようだった。

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