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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第57話 特訓準備

 翌日。


 本日は朝から、クロード達がノリス達の家までやってきた。


 昨日、『肉屋』と調整を終えて、今日からノリス達が指導する。

 クロードはやる気に満ち溢れた顔付きで、この間とは真逆の雰囲気でリビングのソファーに座る。だが、それはクロードただ一人であり、他の三人の女性達は不安そうな表情を浮かべて、若干の疑念が篭った眼差しでノリス達を見ていた。


 『本当に大丈夫なのか?』


 彼女達の心配は誰もが思う事だった。逆に言えば、何も心配していないクロードが異常だった。

 ノリス達は正体をバラしていないので、ただの中年なEランクの冒険者達だ。恐らく『肉屋』である程度の情報を聞いたはずなので、全員【剣士】である事も知っているだろう。

 そんな者達が、魔法使いのクロードを指導する。


 怪しさ満点。

 冒険者じゃなくても、とても信じられる訳がなかった。


 ノリス達も当然彼女達の気持ちに気づいている。

 だけども、彼女達は表情にこそ溢れているが、家に入ってきてから何も言わなかった。

 異常なクロードに説得でもされたかもしれないが、彼女達も冒険者として今後生きて行く為には藁にもすがる思いで変わらないとダメだと思ってココへ来ていた。だから、何も言わない。


 正体をバラして彼女達を安心させることも出来るが、ノリス達は言わないつもりだ。

 不安を胸に先へ進むのは、何も今回限りじゃない。昨日の『肉屋』も、これから自分達で考えさせて行動させると言っていた。今後も生きて行く上で、安心して進む道なんてほとんど無いのだから、少しでも慣れた方が良い。


 昨晩ノリス達は、あの後も彼らの指導方法を色々と話し合って決めていた。



「さて、クロード。今日から始める訳だが、そう緊張しなくても良い。

今日はただの確認だけだからな。その後には俺達もやる事があるんだ。」


「はい!」


 先立ってノリスが口を開くと、期待いっぱいのクロードは元気に返事した。


「お嬢ちゃん達は俺らが対応する。

ノリスではどうにもならんからな。ノリスがクロードに教えている間、暇だろうから相手になろう。」


「……ケイト、メリル。よろしくね。」


「「……よろしくお願いします。」」


 イドとエストは、剣士のケイトと弓使いのメリルへ声を掛けていた。


「エマ君は私とです。

クロード君とノリスの手伝いが多くなりますが、安心してください。何かあれば私に言えばいいですから。」


「……はい。」


 サウルは僧侶のエマへ優しく語りかける。

 クロードの壁役特訓中に、エマは回復要員として必要不可欠ではあった。しかし、クロードを教えるのは、出会いの時に自分を吹き飛ばしたノリスである。

 ノリスもさることながら、エマもノリスに対して苦手意識が拭いきれないだろうと、サウルが間に入る事で解消させるつもりだった。


「ま、とりあえずはクロード。

お前の【魔法の盾】(マジックシールド)を俺達に見せてくれ。話はそれからだからな。」


 ノリスはクロードを引き連れて、サウルの畑がある庭へと出る。それにイドや他の者達も着いて行った。


 庭にある畑には、昨日の夜にサウルがある程度片付けていた為、何も植わってなかった。

 週の内、結構な頻度クロード達を教えるとなると、日々の仕事が厳しくなる。それに、教える場所が無かったので、庭を訓練場所にしようとノリス達は決めたからだ。

 なので、クロードの【魔法の盾】(マジックシールド)を確認した後、ノリス達のやるべき事は、庭を訓練場所へ整地するのと、今までの卸し先への連絡などがあった。


 庭へ全員が出て、クロードだけ少し距離をとり、【魔法の盾】(マジックシールド)を発動させる。


「クロード。無理に張り切るなよ?

いつも通りのヤツで良い。俺達はそれが見たいんでな。」


「はい!分かりました!」


 ノリスが注意しても、誰がどう見てもやる気十分で、張り切って魔力を溜めているクロード。

 『こりゃあまり参考にならんかもな。』とノリス達は苦笑しながら、クロードを生暖かく見つめる。


「……力よ集い形を為せ。我を護る強固な盾よ……」


【魔法の盾】(マジックシールド)!」


 クロードは詠唱をし、溜めた魔力を使って【魔法の盾】(マジックシールド)を発動させた。

 クロードの前方にかなり大きく半透明だが、綺麗な紋様が彫り込まれたアイロン型の頑丈そうな盾が形成された。


「おまっ!?クロード?

何故、ヒーターシールドにした?しかも凝りすぎだろ!」


「えっ?ヒーター??」


「ああ。ラウンドやタワー……いや、丸とか四角で良かったんだぞ?その形を形成する方が大変だろ?」


「いえ……俺の中で盾といったら、これしかイメージが無くて……。」


「フッ。(なるほどな。その紋様……どうりで素直だと不思議に思っていたが、そういう事か。)

ノリス!いいじゃないか?本人がそう言っているのだ。イメージしやすい物が一番なんだろ?」


 イドはクロードの魔法の盾に何かを感じて、前半部分のみ小声で呟き、クロードの肩を持ってノリスへ説得を試みた。


「それは……そうだが。」


「それにタワーシールドやカイトシールドだと、クロードに扱いきれんだろ?これで良かったのだよ。」


「それもそうか。」


「あの……やっぱりコレでは使い物にならないですか?」


 イドに説得されて、ノリスは渋々納得している様を見て、クロードは不安そうに訪ねた。


 壁役になると決めても、今まで補助的にしか使ってこなかった。だから、使うにしても詠唱が必要だった。慣れていけば、詠唱破棄できそうな気はしたが、今のままでは当分先だとクロード自身も感じていた。

 だから、コレでは使い物にならない。決心したクロード本人も悔しい思いでいっぱいで、零れ落ちる程だった。


 魔物は……いや、人も、詠唱など待ってくれない。後ろで安全に詠唱するのではなく、前面に立って攻撃を防ぐ為の【魔法の盾】(マジックシールド)だ。

 今まで誰もが反対し、クロード自身も解決策が見つからず途方に暮れていたのだ。

 ノリス達も同じように考えているだろうと、クロードが思ってしまうのも仕方がなかった。


 しかし、ノリスはまったく別の事を考えていた。


「んあ?【魔法の盾】(マジックシールド)ならこんなものだろ?

強度は……少し魔力を込めすぎだな。もっと減らして良いぞ?だから張り切るなと言ったんだ。紋様まで彫り込む必要もなかったんだぞ?」


 クロードの発動した【魔法の盾】(マジックシールド)を触りながら、ノリスはアドバイスした。


「でも……詠唱しないと……」


「そんなもんは、すぐ解決するから気にすんな。

今日の確認は、お前の作る盾のイメージを見たかっただけだからな。」


「えっ?それはどういう……?」


【魔法の盾】(マジックシールド)は、その名の通り魔力で創り出す盾だ。

まぁ大抵は魔法使いが使用するから、今のクロードのように、必然的に無から創造して発動させる場合が多い。だから、制御が大変で詠唱しないとダメだったりするんだ。普段、そこまで使用する魔法でも無いしな。

先に解決方法を簡単に言えば、実際の盾を持てば良いだけなんだ。

それをある程度使いこなせるようになれば、すぐに詠唱破棄など出来るだろう。自身の手に持ち、馴染みのある盾を複製するだけだからな。」


「じゃ、じゃあ……もしかして?」


「ああ。今のは、その為のデザイン確認だった。これからお前の発動した盾をイドと二人で実際に作る。

大きさだけは、お前の体格に合わせて小さくするがな。その後、出来た実物の盾で色々訓練だ。」


 ノリスはクロードに今後の方向性を示す。


 魔法使いだったクロードが、盾を持って訓練するのは、ほぼほぼ肉体を鍛えるようなものなので、あまり楽しい時間では無いだろう。

 だけど、何故かクロードは嬉しそうに喜んで、瞳を輝かせていた。

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