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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第56話 交渉

 サウルに止められてイドとノリスのじゃれ合いは終わりを迎えた。その後、クロードに一つだけ依頼をして、ノリス達とクロード達の再会を祝した食事会も終わりを迎えた。


 翌日の夕方。クロード達がノリス達の家まで訪ねてきた。


 いつでも良いとは言ったが、なるべく早く調整してきたようだ。それでも夕方になったのだから、『肉屋』の仕事もあったのかもしれない。


 ノリス達がクロードに依頼したのは、『肉屋』の代表と話し合いの場を作ってもらうことだ。今のところ、クロード達は『肉屋』に様々な教育をさせている最中だ。

 ノリス達は『肉屋』と敵対するつもりがサラサラ無いのだから、クロード達を横からかっさらう形で奪う訳にはいかない。

 クロード達が『肉屋』から貰った休日を使うと、今度はクロード達の休みが無くなってしまう。クロードは「それでも構いません!」とやる気十分だったが、『肉屋』は休日を計算しながら教育しているだろうし、ノリス達もそこまで鬼ではない。

 だから、お互いに話し合って調整する必要があった。


 ノリス達はクロード達に付き添って、まずはあの時絡んでいた冒険者のジャンと再会した。ジャンはクロード達の教育取り纏め役を担っていた。会って早々、若干ノリス達へ小言を言われたが、ガンダルが言っていたように盛大に笑いながらだったので、お互いにそこまで悪い感情は持っていなかった。

 そして、今度はジャンが先頭で『肉屋』の代表が居る場所まで案内された。


 この街の代表的な組織のトップだ。それなりに豪華な屋敷に住んでおり、それなりの壮年な男性だった。


 そして、ノリス達がクロード達の教育……特に戦闘面での指南について、『肉屋』の面々と話し合いが始まった。


 ノリス達は少しは揉めるかな?と思っていたのだが、あれよあれよとサクサク決まっていった。あり得ない程、『肉屋』の面々がノリス達に好意的だった。


「本当に良いのか?ほぼほぼ俺達の希望通り……というか、それ以上なんだが?」


「構いません。寧ろ、その言葉が出てくるのであれば、貴方達は彼らの戦闘をまだ見ていないのですね?」


「今のクロ坊達は……酷ぇなんてもんじゃねぇな。

勿論、クロ坊が決めた事は俺らも気持ち的には賛成だ。そうしねぇと自分の女を守れねぇからな。

が、やりたい事は理解できても、流石の俺らでも同じヤツは居なかった。だから手伝うに手伝えねぇんだ。

簡単な練習が出来れば、まだどうにかなったかもしれんが……いかんせん、この街だ。」


「それもそうですね。この街のダンジョンは【オーク】でしたね。魔物と戦うにしても、練習を飛ばしていきなり生死を賭けた本番になるのですね。」


「そういうこった。俺らは俺らの仕事があるからな。

クロ坊達を引き連れて『初心者の街』へ行くこともできねぇ。ぶっちゃけ、困っていたんだ。」


「だが、それにしたって俺達に時間をまわし過ぎじゃないのか?」


「今まで二か月近く付きっ切りで振り回してきました。もうそろそろ少しずつ頻度を下げて、自分達の意志で進ませる良いタイミングだったのですよ。

それに、『強さ』が全てではない冒険者ですが、魔物と戦う以上どうしても『強さ』が必要になってきます。

体制を変えたことにより失った力をまずは取り戻してもらわないと、他の教育にも支障をきたしますからね。」


「なるほど。とにかくこの街に居る為には、【オーク】を倒せないと話にならないという訳か。」


「そういうこった。だが、本当に教えられるのか?

また俺に丸投げは勘弁してくれよ?グハハッ。」


「確実とは必ずしも言えんがな。教えることは出来ても、それが成就するとは限らんだろ?

無論、俺らもやれるだけの事はする。が、実践するのはクロード達だ。」


「それもそうですね。ですが、貴方達は誰も魔法使いではないですよね?」


「……うん。でも、今まで色んな場所を渡り歩いてきた。」


「長年流れの冒険者を今までやってきました。そういう意味では経験ありますので安心してください。」


「そうですか……いえ、そうですね。では是非彼らをよろしくお願いします。」


「そう改まって言う程の事でもない。逆に今までお願いしていた身だ。」


「グハハッ。ちげぇねぇな!アンタ達、頼んだぜ?何かあったらいつでも言ってくれ!」


「ああ。まだまだ先だが、模擬戦の相手を依頼するかもしれない。頼りにしてるから、その時はよろしく。」


 ノリス達と『肉屋』は円満に交渉が終わった。その場では一言も喋らなかったクロード達とも別れ、ノリス達は家に帰る。



 とにかくノリスはこれからクロードを鍛えなければならなくなった。しかも『肉屋』からほぼ丸投げに近い為、かなり頻繁に、密接に、過ごすことになる。それの相談もあるし、ノリスも気になった事があった。


 家に帰って早々ノリスはイド達へ聞く。


「なぁ?やたら『肉屋』との交渉中に話していたが、俺がクロードを鍛えるんだろ?

何故、あそこまで会話に入ってくる必要があったんだ?」


 クロードに自分が教える為、一人だけでノリスは交渉するつもりだった。しかし、会話中にガツガツとイドやサウル、エストまで入ってきて少し混乱していた。


「フッ。そうか。お前だからこそ、分からんのだろうな。」


「ノリスが『玄武』の時のように、クロードも……なんて事は流石に無理だと、ノリスも理解してますよね?」


「……クロードを鍛える。それだけじゃ足りない。クロード達を鍛えないと。」


 イド、サウル、エストは微笑ましく笑いながら、ノリスを見る。

 『玄武』でのノリスは、どれ程一人でパーティを支えていたのか?まさに防御の要だったのだろう……と、疑問を投げかけるノリスを見て思った。

 だが、ノリスと同じようにクロードが成れるとはイド達は微塵も思えなかった。イド達ですら、昔のメンバーから支えられていた自覚はあるのだ。

 だから、クロード達が強くなるには、ノリスのように一人で支えるのではなく、クロードを助け、支えるメンバーがどうしても必要だった。


「いや……しかし……それだと……」


「気にするな。乗りかかった船だ。提案したのは俺だしな。」


「……僕らは四人。彼らも今は四人。丁度いい。」


「ですね。壁役を教える訳でもないですから、私達はノリスよりも気が楽ですよ?」


「すまん。いや、ありがとう。」

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