第55話 決意
ノリスとイドが毛恥ずかしい話を繰り広げていると、再びサウルに呼ばれ?た。
「ノリス、イド!ちょっとこっちへ……面白い話が聞けますよ?
あ、いえ。やっぱりクロード君をそちらへ行かせます。ほら、クロード君。行ってらっしゃい。」
やたらニヤニヤしたサウルと、同じ顔をしたエストがノリス達を見ながら、クロードを送り出していた。
クロードはサウルの無茶振りを否定もせず、気恥ずかしい感じでノリスの傍まで来た。イドが席をずらし、真ん中にクロードを座らせて話を聞く。
「どうしたんだ?クロード。
サウル達の感じだと、さっきのイドの話でもなさそうだが?」
「そんな空気だな。
だが、クロード。さっきは驚かせて悪かった。」
「いえ。皆さんにも色々あったんだと知ることが出来ましたから。」
「すまんな。そう言ってもらえると助かる。
それで?話とはなんだ?」
「先程、イドさんが怒り出す直前の会話の詳細なのですが、サウルさん達に話したら是非ノリスさん達にも聞かせた方が良いと言われました。」
「うん?イド、クロード。どんな内容なんだ?」
「ああ。そういえば言っていたな。お前がアンジェとやらに責められた時の事か。
確か……体制を変えたとか何とか……。」
「そうです!そこです。
俺はあの日からノリスさんに言われた事をずっと考えてました。彼女達を俺が守らなきゃならない……でも、今のままだと厳しいのは自分でも目に見えました。
だから、名実共に彼女達を守ろうと思ったんです。」
「ほぅ。名実共に……か。
……なるほどな。良く決断したものだ。」
「イド。一体どういう事なんだ?俺にはサッパリだそ。」
「それはお前だけ自己紹介してないからな。
大体、お嬢ちゃん達の紹介を受けても聞く気は無いだろ?」
「ハハッ。ノリスさん。
俺達のパーティ構成は、槍使い、剣士、弓使い、僧侶、そして俺が魔法使いです。
槍使いのアンジェは、再び修行へ行っていますが、彼女が居た時から相談はしていたんです。」
「ふむふむ……って、クロード!?お前、まさか?」
「本当に……なんでそんなに簡単に答えが分かるのですか?
イドさんもそうですが、サウルさんやエストさんも、これだけを聞いて直ぐに気づきました。
アンジェ達や『肉屋』さん達に相談した時は、とても説明が大変だったのに……。」
クロードは、自分達のパーティ構成を聞き、その上で「名実共に彼女達を守る」と言っただけで気づくノリス達を見て、苦笑いしか出なかった。
クロード達のパーティ構成は、先程クロードが言ったように、槍使い、剣士、弓使い、僧侶、魔法使いの五人。ノリス達のような壁役が居なかった。そこで、クロードが名実共に彼女達を守ると言う。
答えは魔法使いのクロードが壁役になると宣言した事だった。当然、元壁役だったからこそノリス達はすぐに気づいた。こんな簡単な事を他の者達が気づかなかったのは、そもそも魔法使いが壁役をするという発想が出てこなかったからだった。
「元々は攻撃魔法をメインにしていましたが、防御魔法で補助もしていました。
だから、出来ない事は無いと思ったんです。」
「【魔法の盾】か。だが、アレは中々制御が難しいだろ?」
「いや。そうでもないぞ?
俺も昔はたまに使っていたが、コツと経験でどうとでもなるな。使いどころだけは難しいがな。」
「そうなのか?……そうか。それでサウルとエストはクロードをこちらに寄越したのか。」
「うん?イド、何を言っているんだ?」
「ノリス。そのコツとやらをクロードへ教えてやれ!」
「なっ!?正気か?」
「教える事を躊躇する気持ちも分からなくないが、元はと言えばお前がクロードを焚き付けたのだぞ?その責任ぐらいは取るべきだろ。
クロード。確か、最初はダメダメだったと言っていたな。どうせ今も大して変わっていないだろ?」
「……ええ。恥ずかしながら、その通りです。
あの『肉屋』さんの中にも魔法使いで壁役をやっている人は居ませんでしたから……寧ろアンジェ程酷く言われませんでしたが、やんわりと止められました。」
数多くの冒険者が在籍し、一つの組織として纏まっている『肉屋』ですら、壁役の魔法使いは居なかった。数多くの冒険者が在籍しているからこそ、普通の壁役が何人も居たからだ。魔法使いが壁役をしなければいけない状況になる訳がなかった。
だから、『肉屋』ではクロードの手伝いは出来なかった。
「でも、俺は彼女達を守りたい!
例え今より困難な道であっても……ノリスさんに言われた……死ぬ気で挑んでみたいんです!」
「ほれ、ノリス。クロードはこう言ってるぞ?
この決意に応えないでどうする?」
「……。」
「お願いします!ノリスさん。」
「……ったく。分かった、分かったよ!
イドもそんな目で俺を見るな。クソッタレめ。
クロード。本当に良いんだな?困難な道のりどころじゃないぞ?」
「まぁそう脅すこともないだろ。
確かに厳しい道のりかもしれんが、出来ない訳では無い。
クロード。お前の年頃なら『四神獣』を知っているだろ?」
「……はい。それは当然です。」
「その『四神獣』だがな。全てに壁役は居たのだが、元々の役目として壁役だったのは、『玄武』の『巨壁』だけだ。他の者達は皆、クロードのように無理矢理、壁役を担っていた。
だから、お前も絶対に出来ない事は無い。どうだ?出来そうだろ?」
「……イド。それは、もしかして励ましているのか?」
「『四神獣』の方々と比べられても流石に……困ってしまいます。」
「だよな。クロードの言い分は最もだ。
ま、それぐらい頑張れば、なんとでもなると言いたかったのだろうが、ちょっと締まらんな。
イドだから仕方がないか。」
「この馬鹿ノリス!俺をオチに使うのはお前ぐらいだぞ?」
「イドだって、俺をよく使うじゃねぇか!」
そして、いつもの流れに突入した。
「あ、あのぅ……お二人共……そ、そこまでにしませんか?
サ、サウルさん!すみません!ちょっと!」
「どうしたんだい?クロード君。
アハハッ。イド、ノリス。その様子なら受けたのでしょう?
こんな場所でじゃれ合ってないで、これからの話をしたらどうですか?」
結局サウルに苦言を呈され、イドもノリスも全然締まらなかった。




