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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第54話 逆鱗

 本人は大丈夫だと言うが、とてもじゃないが大丈夫な顔をしていなかった。

 これはどう考えてもダメな時だとサウルは思い、少し離れたカウンター席で酒を楽しんでいる慣れた者を呼ぶ。


「ノ、ノリス!ごめんなさい。ちょっと来てくれませんか!?」


「んあ?どうした、サウル?

って、イド!?その顔、ヤバくね?何をそんなに怒ってるんだ?

ははぁ~ん。クロード達に禁句でも言われたのか?ったく。ちゃんと事前に伝えておけよ。」


 長年付き合いがあるせいか、ノリスだけはイドが激怒していても普段通りで軽く対応しだした。


「ノリス。俺は大丈夫だ!」


「その顔で大丈夫とか……酒の飲み過ぎか?

店主!鏡無いか?って剣で良いか。ホレ、自分の顔を見てみろよ。」


 おもむろにノリスは鞘を持って、少しだけ剣を抜き、イドに自身の顔が見えるように反射させて向けた。


「な?全然大丈夫じゃないだろ?

イドも退場だ。こっちへ来い。

サウル、エスト。クロード達と後の話はよろしくな!」


 自分の顔を見たからなのか?普段通り接するノリスと会話したからなのか?イドは少し落ち着きを取り戻しつつも、まだブツブツとノリスに文句を言いながら、ノリスの隣のカウンター席へ連れていかれた。



「すみません。イドは『効率』と言う言葉が大嫌いなんです。」


 イドに聞かれないように声を落としたサウルはクロード達へ説明する。


「……ちょっと面倒だけど、コレさえ言わなければ、僕らは大丈夫だから。」


 エストは、イドやサウル、更には自分の禁句を紙に書いて、クロード達へこっそりと見せる。


「確かに面倒臭いかもしれません。ですが私達も長く生きてきたから、全員が相応の傷を持っています。出来れば配慮してもらえると助かります。」


「そ、それはもちろん。

だけど、コレを言うとサウルさんやエストさんも、イドさんのようになるのですか?」


 クロードは頷きつつも、二人に聞いた。落ち着いているサウルとエストが、先程のイドのようになるとはとても思えなかった。


「……正直、さっきのイドの方が何倍もマシ。」


「アハハッ。確かにそうですね。ノリスやイドが可愛く思えますよ。」


 軽く笑うサウル達。だけども、その笑いの奥で何かしら感じ取ったクロード達は無言で何度も頷き、サウル達の忠告を守った。


 そうして、サウルとエスト、クロード達は再び楽しく会話に花を咲かせた。




 一方、ノリスとイドは……。


 イドがまだグチグチと言い訳をカマして、ノリスに慰められていた。


「俺はそこまで怒ってないぞ!?」


「はいはい。そうですねー。」


「この馬鹿ノリス。俺の話をしっかり聞け!

大体、クロード達からは直接言われてないからな?それに言われるだろうな、という予想もあったのだ。」


「うん?どういう事だ?」


「この場に居ないアンジェとかいう女が居ただろ?その女が前に言っていたじゃないか!」


「……誰だ?そいつが何か喋ったのか?」


「ああ。お前はそういうヤツだったな。聞いた俺が馬鹿だった。

この場に居ない女が一人だけ居てな。その女はセガルの弟子なのだ。

槍の技もそうだが、意思も受け継いだのだろう。」


「おお!セガルか。懐かしい名前が出てきたな。

それにしても、弟子なんて……あいつは道場でも開いているのか?」


「知らん。興味も無いが、そうらしい。」


「なるほど。そりゃダメだな。それならある程度予想はつくか。」


「ああ。だから、そこまで怒ってはいない。」


「違うな。確かにクロード達には怒ってないだろうが、セガルに対してはマジで怒ってるだろ?

『弟子にまで思想を押し付けて……』なんて思ったんじゃないのか?」


「ぐっ……。」


「ほらな。やっぱりダメじゃねぇか!

俺が引っ張り込んで良かったな。後でクロード達へ謝っておけよ?」


「……ああ。そうだな。」


「ったく。しょうがねぇな。

もう少し我慢というものを身につけたらどうだ?」


「お前だけにはそのセリフを言われたくない。」


「冗談だろ?俺は最近吐いてないぞ?ちゃんと我慢してる証拠だろ!」


「それを我慢してると言って良いのか俺にはもう分からん。今まで散々、俺が受け流してきたんだぞ?」


「それは助かってるさ。その分、こうしてイドがキレたら俺が付き合ってあげてるだろ?」


「……まぁな。」


「しっかし、セガルかぁ……。

こうなったのなら、あの頃と変わってないんだろうな。」


「ああ。そのようだ。」


「どうする?なんか会いそうな予感じゃね?」


「ああ。俺も思った。最悪、俺が対応するさ。

どの道、ノリスじゃ気づかれもしないだろうしな。」


「それもそうか。当時、鎧を脱いでる状態の俺を知ってるのは極僅かだもんな。」


「フッ。流石『生きた鎧』だな。たまにだが、ノリスが羨ましく思う。」


「『生きた鎧』とかマジで凹むから言うなよ。

だけど、そう思うならイドは髭ぐらい生やしたらどうだ?」


「髭は無理だな。ノリスも生やしてみろよ。それでこう言われるんだぞ?

『髭はフサフサなのに……頭は?』ってな。

言われなくとも目で語られるだろう。」


「それヤバいな!殺人動機になるぞ!?」


「だろ?だから髭は無しだ。」


「ああ。分かった。すまんな。もう言わないさ。」


 イドとノリスの悲しい会話は続いていった。

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