第50話 その後
クロード達を見送った後、ノリス達はいつもの日常に戻った。
普段の平日はそれぞれの仕事をこなしているし、週末のダンジョンも趣味としての時間帯にしか潜らないから、クロード達と鉢合わせする機会が無い。
クロード達へ冒険者と親しくなれと言ったが、この街の冒険者達であって、まだ日が浅いノリス達ではない。それぐらいは理解できる思考は持ち合わせていたようで、その日以降クロード達が家を訪ねてくることもなかった。
ノリスや他のイド達も多少気になってはいたが、彼らの人生は彼らのものだ。色々と口は出したが、決めて行動するのは彼ら自身である。だから、なるべく話題にも出さず、いつも通りの連携強化の話ばかりしていた。
そうして一ヵ月程経った週末、ひょんなところからクロード達の話が聞けた。
「よお!『週末』。今日も相変わらずのようだな。」
夕方に差し掛かる時間帯。ノリス達がいつも通り昼過ぎからダンジョンに潜って、オークを探索、殲滅しながらブラついていると、前方から声がかけられた。
「おっ!ガンダルじゃねぇか。今から戻りか?」
「ああ。今日のノルマは達成したからな。鮮度は重要だが、俺達の体力ももっと重要だ。」
急いで戻ってきたであろうガンダルは同じパーティメンバーを労り、ノリス達と会話する為に少し休憩をはさむようだった。
「そうそう。ジャンから聞いて……いや、曜日が違うからそもそも会ってねぇだろうな。」
「うん?ジャン?」
「あー。あんな場では流石に自己紹介はしてねぇか。若いのに絡んでいた俺達の仲間だ。」
「おお。確かにアレ以来、会ってないな。何かあったのか?」
「あの日から数日後だったかな?若いのがジャンのところまで行って、「色々教えて欲しい。」と頼み込んできたらしいぞ。」
「ほぅ。アイツらも決心したのか。」
「ブハハッ。やはりアンタ達の入れ知恵か。ジャンが嘆いていたぞ?『結局、俺らに丸投げかよっ!?』ってな。」
「それもそうか。今度、会いに行ってお礼を持って行くか。」
「ブハハッ。気にすんな!ジャンも笑いながら言っていたんだ。
ああいうのは俺達の範疇だ。ジャンもアンタ達じゃ厳しい事ぐらい分かっていたさ。
それに若いのはしっかり報酬も用意していたからな。何の問題もねぇ。ブハハッ。覚束ない交渉で、そこから教える事になったらしいぞ?
まぁ、その報酬の出処は聞かないでおいてやるよ。」
「フフッ。ありがとうございます。では、そうなっているのならば、彼らは……」
「ああ。今はうちで預かっている。今更になるが、一から勉強だな。」
「……学べるなら、遅いとか無い。」
「ちげえねぇ!俺達が受け持つ日もあるかもしれん。そん時は会うだろうから、よろしくな!
よし!お前達、休憩も十分だろう?肉の鮮度が落ちる前に急ぐぞ!」
一通り会話に満足したガンダルは、休憩を切り上げて仲間と立ち上がらせ、ノリス達に手を振り挨拶してから、急いでダンジョン出口まで走り去っていった。
「良かったですね?ノリス。」
「んあ?別に良いとか悪いとか無いぞ?
これからのクロード達はクロード達のものだ。」
「……ノリスもツンデレ。」
「フッ。そうだな。
しかし、こう結果を見ると、受付嬢のやり方もある意味で正しいのかもな。」
自分達では制御できそうにない者達が居たら、代わりにやってくれそうな人に任せる。 その点では『肉屋』が居るこの街へクロード達を来させたのは正解だったかもしれない。先ほどのガンダルの話しぶりを聞いても、本当に親身になって教えているようだった。
「まだ大成するとは限りませんから、結果というには早いかもしれませんね。」
「だな。これからだよ。」
「……僕らの連携と一緒。」
「ああ。そうだな。俺らも負けてられんな。」
そうして、ノリス達はまったく進歩のない連携訓練をオークに対して再開しだした。
「馬鹿ノリス!そこは吹っ飛ばしたら俺の攻撃が届かんだろ!」
「嘘だろ?お前達、攻撃しそうな感じが全くなかったぞ?」
「エスト!私の攻撃で隙を……あっ!」
「……倒しちゃった。」
相変わらずのグダグダだった……。
「アハハッ。これではクロード君達が大成する方が早そうですね。」
「……負けそう?」
「そもそも体もそうだが、頭が劣化しつつあるからな。
何事も柔軟にできる年齢ではなくなってきたな。」
「俺達も頑固おやじと言われる世代になりつつあるもんな。」
「そうですね。クロード君達への言い方がおっさんの説教みたいでしたからね。」
「……女の子達、若干うんざりしてたよ。」
「俺じゃないだろ?大半はイドだ。」
「馬鹿言うな!?ノリスが一番喋っていただろ!お前のことだ。」
ダンジョンの中なのに、飲み屋と変わらないテンションのままノリス達は楽しそうに駄弁りながら探索していた。




