第49話 送り出し
「後はクロード。お前達が相談して決めて行動するんだ。
助言はするが、決めて動くのはお前達だからな。よく考えて話し合えばいい。」
ノリスはまとめつつ、クロード達に話し合いを促す。
助言は主に二つ。
まず一つは組合だ。受付嬢はどうしようもないが、絶対に敵対はしてはいけない。
彼女達がおかしいのではなく、クロード達の構成がおかしいのだから。パーティ結成当初に受付嬢達も色々と修正しようとしていたはずと問いただせば、今まで黙っていた女性は記憶力が良いらしく、確かに言われた記憶があったそうだ。しかし、誰も受付嬢の助言は聞かなかった。結成に浮かれていたのが手に取るように思い浮かんだ。恐らくその時から見捨てられたのだろう。
悲しい過去だが、だからといって絶対に敵対はしてはいけない。寧ろ、組合に認められなければならないからだ。
冒険者を味方に付けて、組合により良いサポートをしてもらう。それが上を目指す為に必要な事だった。
もう一つは冒険者。クロード達に先程絡んできた『肉屋』の詳細を教える。
「クロードは鑑定結果でしか彼らを見定めなかっただろ?あまり強くなかったか?でもそうじゃない。
彼らはこの街で絶大な信頼を得ている。この街の食を支えているからな。敵に回すとどうなるか想像は難しくないだろ?
人を見る目が失われるとはこういう事だ。」
鑑定結果に囚われて、人を強さでしか判断できなくなる。人はそんなものじゃないし、それだけで判断できるほど単純でもない。
『肉屋』は良い例だった。
『肉屋』個人個人はさほど強くはないし、パーティ単位でも普通ぐらいだろう。しかし、この街の食を支え、この街にとって必要不可欠な集団であった。
彼らに嫌われると、宿から追い出され、食堂も使えない、何も買えなくなる……本当にこの街で生きていけなくなる。
そして彼らもまた、その事に誇りを持って日々励んでいた。
「それは、知らなかっ……」
「違うだろ?知ろうとしなかったんじゃないか?
街に永住する冒険者の事など、自分達は先へ進むのが全てで気にもしてなかっただろ。」
「……親しい冒険者、居ないもんね。」
「エスト。追い打ちは可哀想ですよ。」
「「……。」」
ノリス渾身のストレートとエストの死体蹴りで、クロード達は心が折れそうになっていた。だから、フォローも欠かさない。
「だけど逆に言えば、彼らを味方につければ強大な支持を得ると思わないか?
ぶっちゃければ、この街では彼らさえ味方につければ、それだけでこの街全てがお前達に味方するだろう。」
「だけど、どうすれば……?」
「残念だが、教えられん。それはお前達が方法を模索してやる事だ。
俺達の方法では合わない可能性もあるしな。精々頑張れ。
だが、今なら彼らの凄さが分かるだろ?そんな彼らはお前達の事を不安に思って絡む程おせっかいで優しいんだ。ある程度は許してくれるはずだから、ぶち当たって行け!
あとクロード以外は、下品な絡みか?見極める為の絡みか?ぐらいの判別は出来るようになれ。今のままだと『生ゴミ』以下だぞ。」
ノリスはそう言い放ちクロード達の尻を叩く。
ノリスは『生ゴミ』の表情が分からないので、代わりにイドへ彼らの様子を見てもらう。
クロード達は皆、複雑そうだがしっかり自分達を見つめ、どうすれば良いのか考えているようだと、なんとかなりそうな雰囲気になっていたので、話し合いは終わりを迎えた。
終わり際、ノリスはクロードをトイレと称して拉致る。
「ぼ、僕は、別にしたくないですよ?」
「馬鹿野郎。いいから黙ってついて来い!連れションだ。」
クロードを生ゴミ達から引き離し、トイレ前まで引っ張りこんだら、おもむろに袋を渡す。袋の中には結構な額のお金が入っていた。
「こ、これはっ!?」
「色々大変なお前達の事だ。何かをやるにしても先立つ物が無いだろ?
コレを上手く使え。別に全然違うことに使っても一向に構わんが、お前が思う自分達の為に使え。
なぁに気にするな。この家を見て多少気づいているだろ?俺達は金に困っていないからな。」
「どうして、そこまで……」
クロードは震える手で袋を持ち、体も小刻みに震えていた。パーティを組んで今まで同姓から優しくされた事が無かったのかもしれない。「アイツもこんな気持ちだったのだろうか?」とノリスは懐かしく思いながら、クロードを見る。
「お前達の雰囲気から察するにパーティメンバーを変更しないのだろう?追加で入れようとしても、この構成じゃ難しいはずだ。
ならば、お前一人で頑張って全員を守らなければならない。それが如何に大変か、今までもこれからも理解してるだろう?
アイツだって三人で手一杯だったが、それでも国王まで登り詰めたんだ。出来ない事はない。
だけど、そんなお前は四人だ。だから、死ぬ気で頑張れ!これはその為の手向けだ。」
「……えっ?それって……『剣聖』?」
クロードの呟きを無視して、ノリスはクロードの背中をバンバン叩き、激励と共に連れションから解放した。
色んな感情が混ざったままトボトボと歩き、泊まっている宿に帰るクロード達を見送るノリス達。
「彼らを見て、過去が懐かしくなったか?ノリス。
良いんだぞ?あのパーティへ加入しに行っても……」
「馬鹿な事を言うなよ、イド。歳が違い過ぎるし、また鎧着るのが面倒だ。
大体何が悲しくて、昔と似たようなパーティに入らなきゃいけないんだ。
ま、懐かしくなったのは否定しないがな。」
「ノリスも昔はあんな感じだったのですか?」
「いや。この前話しただろ?
俺とアイツは最初、普通のパーティを組んでいたんだ。クロードみたいになったのは途中からだ。」
「……それじゃ、彼らはもっと過酷なんだね?」
「ああ。俺やアイツは最初の頃、色々教えてもらえていたんだ。
まぁ途中から、組合の『生ゴミ』達の豹変ぶりはアイツも苦笑していたからな。
それだけでも全然違うだろ?
だから、少しでも助けになれたらと思ってな。」
「若いのに先を越されるのは寂しいものだからな。」
「ですね。しかも無知のまま消えていくほど悲しいものはありません。」
「……彼らがそうなるとは限らないよ?」
「ああ。エストの言う通りだ。
せっかく色々教えたんだ。ここからグングン成長していくかもしれん。」
「そうだな。二代目『剣聖』が誕生するかもしれん。」
「あ、いや、イド。クロード君は魔法使いだそうですよ。」
「何……だ……と?」
「……クフッ。締まらない。」
「だな。とにかくクロード達の進む道に幸あらんことを祈るだけだ。」
街中に消えていくクロード達の背中を、ノリス達は少しだけ寂しそうに、少しだけ微笑ましそうに、少しだけ暖かい眼差しで見送った。




