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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第46話 老婆だらけの晩餐会

 ノリス達は矢と回復薬を卸し先に持っていくのを急遽止めて、若い冒険者達を家まで持ち帰ることにした。


 ノリスは、いやイド達も出来れば他の場所にしたいのだが、まだノリス達も日が浅く、この街中でめぼしい場所を知らなかった。


 冒険者組合まで行けば、それなりの談話室を借りれたりするのだが、そこには冒険者も居れば、ノリスの天敵である受付嬢も大勢居る。更に付け加えるなら、ハーレムパーティと一緒に組合へ行きたくなかった。


 これから話す内容はあまり人に聞かれない方が良いので、そこら辺の食堂も厳しい。仕方無しに自分達の家に連れ込む事にした。


 若い冒険者……特に女性達は、ノリス達の家に行くのを猛反対していたが、


「俺達は別に何処だって構わないぞ?ココでだって良い。ただお前がやった事を赤裸々に話すだけだからな。」


 とあまりの騒がしさにノリスが吐き捨てると、男性が女性達を必死に説得して、渋々ついてきた。


 おっさん四人のむさ苦しい冒険者パーティなので、ボロボロの家でも想像していたのか?若い冒険者達はノリス達の家に着くと、驚きと共に多少の警戒心が薄れていた。


 普通に良い家だからだ。

 ノリスが作業する為の火事場やイドとエストの作業場のスペースがあり、庭というかサウルの畑まで付いている。四人の個別の寝室が二階にあったり、食事の為のキッチンやリビングも一階にゆったりとある。

 借家といえど、Eランクの冒険者パーティが住む家では無かった。当然、イドとノリスの極一部の資産から出して借りていた。


 ノリス達は別にボロボロの家でもまったく問題が無いのだが、普段の仕事や生活に必要な火事場や作業場、畑まで付けるとどうしてもこのぐらいの家になってしまう。それに溜め込んだお金を少しでも消費しないと使い切れそうになかったので、毎回家だけは豪華だった。


 警戒心から好奇心に変化し、キョロキョロと家の中を見回す若い冒険者達をリビングのソファーに座らせ、ノリス達は食事用テーブルの椅子に座る。


「さて、そこのアンタ……」


「……クロードです。」


 ノリスはようやく本題とばかりに男性へ話しかけると、そのつもりは無かったのだが、律儀に自己紹介されてしまう。


「そうか。でだ、アンタは鑑定系の【魔眼】持ちだろ?それで俺を見たな。」


「……はい。」


「なるほどな。それで老婆か。

ノリス、お前はアレにしているのか。趣味が悪過ぎるぞ。」


 イドは納得したようで、ノリスに嫌味を言うも、他のメンツには分からなかった。


「……イド。アレとは何?」


「ああ。昔あった伝説の晩餐会の事だ。

四十人程の老婆がスケスケの衣装を見に纏い集まった地獄の会だな。

アレのせいで、ノリスの『女性』が『生ゴミ』へ変わる決め手になったな。」


「アハハッ!それはヤバそうですね。それをクロード君は覗いたのですか、ご愁傷様ですね。

でもノリスで良かったじゃないですか?」


「……サウルだったら発狂してる。」


「ああ。サウルは解剖にしてるのか。俺は王道だぞ?エストは……俺と同じか。」


 イドの説明にサウルとエストは思い思いに話すので、若干クロード達が置いてけぼりをくらっていた。


「と、まぁこんな感じでだな。鑑定眼は簡単に対処出来る。

人を鑑定すると、その者の情報が色々表示されるのだろう?それは厳密に言うと、その者の人生を読み取って処理され、情報になっているんだ。

だから処理される前の記憶をこちらが見せたいものとして前面に押し出して開示していると、お前のように俺の体験を読み取ってしまうんだ。」


 波乱万丈な人生を歩んだ結果、運がマイナス三十と表示されたとして、その数値は一つ一つの出来事を読み取った結果である。

 例えば、試験に失敗した……婚約者に逃げられた……その経験があってこそ、マイナス三十という数値になる。

 自分で決めている訳では無い。鑑定した奴が、その能力によって表示されるのだから。


 『人を鑑定する』とは、『人の人生を盗み見る』のだ。


 楽しい事や幸せな事だけなはずがない。

 見る者にトラウマを植え付ける出来事を経験している可能性も考慮しなければならない。


「俺が経験した事をそっくりそのまま見せているから、鑑定偽装しているのでは無いぞ?

だから、見る側はそれを超えなければ、見たい物は見えん。俺を見るなら、まずコレを見てくれ!って見せているからな。

ちなみに、お前自身は鑑定偽装してないか?鑑定する奴は大体、一番最初にやりたがるみたいだな。アレはムダだからな。」


「……えっ?」


「ノリスの言う通り、鑑定眼と一言で言っても多種多様にありますからね。

【満腹度】鑑定や、【性癖】鑑定など、少し調べれば沢山でてきますよ。その鑑定に見られて、自分で偽装した物が表示されたら、一発で偽装しているとバレますね。」


「……見たい情報を見る。だけど、見え方は人それぞれらしい。だからキミが見ている表示方法はキミだけのもの。」


「そうだな。代表的なのは数値だが、項目は人によってバラバラらしいな。更にはオーラとして表示されたり、ゲージ的なのが出るのもあるらしい。」


 その人が見たい物を見たいように見せる。だから、それら全てに対応出来ないと偽装にならなかった。

 男性は知らなかったとばかりに沈黙し、顔を俯かせていた。


「……。」


「本来、魔眼持ちは事前に色々教わってるはずなんだがな。余程性能が良くて、おおっぴらに言えなかったか。」


「ですが、パーティメンバーには相談……その様子では、彼女達にも伝えてないのですね。」


 サウルが仲間内で相談出来ればと他の女性達を見ると、ドン引きしていた。女性達も知らぬうちに自分の人生を盗み見られていたはずだと思ったのだろう。勿論その可能性は高いのだが、一応フォローは忘れない。


「……でも、コレがあったから、キミ達はココに居る。」


「そうだな。魔物や物に対しては有効に使えるのだ。お前らだって、その恩恵にあやかって来たのだろう?」


 エストとイドのフォローにより、女性達は誰もがハッとなり、何かに気づいて落ち着きを取り戻した。心当たりが過分にあるのだろう。


 ノリス達は、この若い冒険者達がその力で駆け上がってきたのが一目で分かるほど、実力や見た目に対して経験が足りてなかった。


「今までは問題無かったのかもしれんが、今後は特にその力を人に使うな。

もう少し先に行けば、大抵の冒険者達から対応されるぞ。」


 それはイドが言っていた王道を利用しだすからだ。


 冒険者は、ある程度強くなると色んな対策が必要になってくる。その中でも鑑定系の魔眼持ち対策は、結構重要な一つだった。

 覗き見られて弱みを握られ、利用される事なんて……何処にでも転がっている。特に強くなればなるほど、利用したい者も増え、頻発するからだ。


 だから、黒く素早くカサカサと動く、人々から大変嫌われている虫が大量に出るダンジョンへ行き、風呂で浸かるように虫と戯れる。そうして、老婆だらけの晩餐会ではなく、虫だらけの晩餐会を見せるようになるのが、王道と言われていた。


 ノリスが説明し、イドが「見ておくか?」とクロードに確認すると、首をブンブン横に振りながら断固拒否していた。


「と、まぁそれもあるのだが、一番の理由はお前がその力ばかり頼っていると、本来の人を見る目が失われるからだ。既にその傾向が出ているようだしな。」

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