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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第45話 揉め事Ⅱ

 揉め事を起こしていたグループ内で、それを止めようと必死に周りへ助けを求めた女性の顔面を思いっ切り殴り、吹き飛ばすノリス。


 それは、吹っ飛んだ女性の仲間である若い冒険者達にとっても、絡んでいた中年冒険者達にとっても、無視できる事ではなかった。


「エマ!!」


 吹っ飛んでいった女性の名前を叫んで、若い冒険者達が女性の元まで駆け寄った。サウルの回復魔法のお陰で、特に怪我らしい場所は見当たらなかったが、女性は気を失っており、吹っ飛んだ影響で服が汚れてしまっていた。


 若い冒険者達は仲間の女性が無事だと分かったら、今度はノリス達に向かって激怒しだした。


「貴様ら!よくもエマをっ!」


 それに合わせて、中年冒険者達もノリス達に詰め寄る。


「おいおいおいおい!?おめぇら!何、横からしゃしゃり出てきやがるんだ?」


 一瞬にして、ノリス達がフルボッコに糾弾された。仕方が無いので、若い冒険者達にはサウルとエストが、中年冒険者達にはイドとノリスがそれぞれ対応して落ち着かせる。



「まぁまぁ落ち着きましょうか。

私の回復が間に合ったので、気を失ってるだけですよ。」


「……服も洗えば大丈夫。」


「ふざけないで!何処が大丈夫なのですか!?」


「おや?今さっきぶつかってきただの、ぶつけられただのと揉め事になっていたじゃないですか?

今度は私達が標的なのですか?」


「……あの人達と一緒。」


「全然違う!アレはあっちが悪いのよ。そして、今度は貴方達が悪いわ!」


「それもそうかもしれませんね。では、申し訳ないです。」


「……うん。ごめんね。じゃあ、ばいばい。」


 サウルとエストは適当にあしらうように軽く頭を下げて謝って、イド達の元へ向かおうとした。当然の如く若い冒険者達には火に油で、更にヒートアップし二人に詰め寄った。



 一方、中年冒険者達はというと、若い冒険者達とはうってかわって落ち着いていた。


「すまんな。横槍を入れるつもりは無かったんだ。まさか人だったとは思わないだろ?」


 ノリスは男性しか居ない中年冒険者達に向かって丁寧に頭を下げる。


「おめぇ……一体、何を言ってんだ?」


「悪いな。コイツは女性が生ゴミにしか見えてないのだ。

……それにしても、そのエンブレムを付けているということは、アンタ達も『肉屋』なのか?」


 ノリスをフォローしながら、イドは中年冒険者達が、防具の目立たない場所に【肉の突き刺さった剣】のエンブレムを発見して問う。


「お?その呼び方を使うということは、俺らの仲間と交流でもあるのか?」


「ああ。『肉屋』のガンダルとはダンジョンで良く鉢合わせするからな。色々とお世話になっている。」


 『肉屋』は通称。正式名は『オーク討伐隊』。

 いくつものパーティが合同で同じ目的を持った一つの複合組織でもある。

 通常、魔物を倒すと魔石しか手に入らないところを、倒す前に解体しつつ素材を入手する方法もあり、『オーク討伐隊』は主にオークの肉を収集し、食堂やお店に売り捌く集団だった。なので、知っている人からは『肉屋』と呼ばれている。

 ノリス達が潜る週末にはガンダルという男性がリーダーの『肉屋』パーティが担当しているようで毎回鉢合わせしており、今ノリス達と対面している中年達は違う曜日の担当らしく初対面ではあった。


「ほぅ。ガンダルの奴とか。

そうか!その装備……お前らが『週末』か!?」


 中年達も、横の繋がりはあるのだろう。ガンダルの潜る日を思い出し、ガンダルから多少話も聞いているようで、すぐにノリス達のパーティ名を言ってきた。


「ああ。そうだ。本当にすまんな。でしゃばるつもりはまったく無かったのだ。まさかこの街で、こんな風になるとは誰も思わないだろ?」


「ブハハッ。確かにな。

アレには俺らもビックリしたぜ。絡んで正解だった。

しかし、どうする?もう俺らよりもお前らの方に矛先が向かっちまったんだが……?」


「うちの仲間が起こしたんだ。それもこっちで引き取るさ。」


「イド!?正気か?生ゴミばかりだぞ?」


「元はと言えばノリスのせいだぞ?ま、俺らも止められなかったんだ。こうなってしまったからには手伝ってやるさ。」


「おいおい。大丈夫か?

元々俺らが始めたんだ。別に無理しなくてもいいぞ?」


「いや。俺らもまだココへ来て日が浅いのでな。アンタ達とは良い関係で居たい。

迷惑をかけた詫びだ。これでこれからの時間を楽しんでくれ。」


 イドは中年達の食事や酒代程度のお金を投げ渡し、後はこっちで対応すると請け負った。


「ブハハッ。やはり経験者は違うな。すんなり話が進むから楽だ!

ダメだったら、いつでも言ってくれ。俺らならどんな日でも代わりは出来るからな。」


「ああ。ガンダルにも宜しく言っといてくれ。」


 中年達は手をヒラヒラと振り、イド達に別れをつげて、路地の先へ消えていった。

 そんな中年達をイドとノリスは見送っていると、背後のヒートアップが更に激しくなっていた。


「貴様ら!何故、アイツらを勝手に帰しているのよ!?」


「うるせぇなぁ。不協和音を響かせんな、『生ゴミ』がっ!

おぉ?ってことはイド、コレも人なのか?」


 あまりにもキャンキャン騒ぐのでノリスは振り返って、暴言を吐き捨てる。しかし、【喋る生ゴミ】だと気づいて、先程の失態を犯さないようにイドに確認していた。


「なっ!?」


「フッ。そうだな。ギリギリで人だ、ノリス。

お前らもあまり騒ぐな。少しは落ち着け。

コイツは女だからとか手加減など一切しない。言葉通り、そもそも人とすら認識していないからな。」


「絡んできた人達も去った事ですし、もう終わりで良いのではないですか?」


「……うん。おしまい。」


 サウルとエストもイドと合流して、揉め事を終息しようとさせ、


「そうだな。『生ゴミ』はどうでも良いが、そこの兄ちゃん。さっさと話し合って終わらせようぜ。」


 ノリスも同意しながら、若い冒険者パーティのただ一人の男性に声をかけながら近寄る。


「……うぉえっ!」


 しかし、男性はノリスが近付くと嗚咽して蹲り、吐き気を催していた。


「お、おい!?どうした?何もやってねぇぞ?元々体が弱いのか?」


 ノリスは心配そうに駆け寄り、先程までキャンキャン騒いでいた女性も一転して、男性の元まで行く。おかげでノリスが吐きそうになっていたが、ギリギリのところで耐えきった。


「クロード!大丈夫なの?」


「うぅ……」


「ちょっと!しっかりしてよ!?」


「……ろ、老婆……が……」


 ノリスの目の前で気の強そうな女性二人に介護されるクロードと呼ばれた男性は、ノリスを見ながら【老婆】と呟いた。その言葉を聞いたノリスはすぐに理解した。


「ははぁ~ん。お前、俺を見たな?

サウル、エスト。すまないが終わりはまだだ。コイツらとゆっくり話さないとダメになった。」

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