第44話 揉め事
街に居れば、揉め事の一つや二つは日常茶飯事だ。
特にダンジョンがある街では、その分冒険者も多いので荒事は頻発している。
なので、たまたまノリス達が揃って外出した日にその場で揉め事が起こっていたとしても、面倒なのだが大して珍しい事でも、運の悪い日という事でもない。適当な日に街中をぶらりと歩き回れば、簡単に揉めている風景を発見できる程の日常だった。
その揉め事のほとんどが冒険者が関係していた。冒険者vsお店や、冒険者vs一般人などなど……問題を起こすのは大体冒険者であり、冒険者に対して悪いイメージが付き纏ってしまいそうな程だったが、そうは一切なっていなかった。
ダンジョンがある街であれば、金を使う者は冒険者がほとんどだからだ。確かに素行は悪いかもしれないが、街にとって、さらにはその街に住む人にとって、冒険者は良いお客様なのであった。
ダンジョンがあるから冒険者が集い、その冒険者達がお店で金を使い、街の住人の懐具合も潤っていく。だから「乱暴な冒険者が嫌いならば、ダンジョンの無い街に行け!」とまで言われる程でもあった。
そして、ノリス達が遭遇した揉め事は、これまた良くある冒険者同士の揉め事だった。
一方はノリス達のような中年男性が四人の冒険者パーティ。見た目と雰囲気から察するにノリス達と似たような、この街を長く拠点としている冒険者達だった。対する相手は、まだ若く冒険者になりたてのような五人組のパーティ。
ほんの少し彼らのやりとりを聞いただけで、どちらが悪いかすぐに判明する。中年男性達が若い冒険者達にいちゃもんを仕掛けて、それに若い冒険者達が反発していた。
周りの人々は誰も止めなかった。
それも仕方が無い。若い冒険者パーティは男性一人、女性四人の所謂ハーレムパーティだった。
周りの人々は誰もが若い冒険者パーティを一目見て、「そりゃ絡まれるわな。」と当然のように思い、素知らぬ顔で見て見ぬ振りをする。どう考えても面倒にしかならないので、関わり合いを持とうともしない。
中年の冒険者達がニヤニヤしながら彼らを煽り、若い冒険者達の内、気の強そうな戦士風な二人の女性が歯向かい、それを必死に一人の男性が止めて、残り二人の女性はおろおろとしていた。
ノリス達も『あるある!あるある!』と適当に思いながら、素通りしようとした。
確かにここまではどの街でも良く見かける光景で、元ハーレムパーティ出身のノリスにとっては非常に懐かしく何度も経験した事でもあった。
しかし、その後はノリス達にとって運が悪かった。
おろおろとしていた女性のうち一人が、何を思ったのか?周りに助けを求めだした。当然助けてくれる人など居ないのだが、声だけでは足りないと思ったのか、周囲の人々に近寄って懇願までしだした。
そこまではまだマシだったが、最悪な事に丁度冒険者な見た目をしたノリス達を見つけて駆け寄り、更にはピンポイントでノリスの腕を掴み、助けを求めてしまった。
「お願いします!助けてください!!」
イド、サウル、エストはあまりの予想外な急展開に呆然としてしまい、彼女の接触を防げなかった。
回復もしくは支援系統だと思われるローブを着た、若く可愛らしい女性に腕を掴まれお願いされる。十人の男性が居れば九人は、鼻の下を延ばし照れながらも無下な対応ができない雰囲気が十分にあった。
しかし、触れた相手はあのノリスだ。
「うぉっ!汚ねぇ!!」
ノリスは激昂し、掴まれた腕を強引に振りほどき、更にはその振り上げた腕で、助けを求めた女性の顔面に思いっ切り裏拳を叩き込む。「ブフッ!」ととても可愛らしい女性が出してはダメな声を出して吹っ飛んでいった。慌ててサウルが指を鳴らし、吹っ飛んでいった女性に対して回復魔法をかけた。
「ノリス!?やり過ぎです!私が居なかったら彼女は死んでいますからね?」
「うん?あぁ、すまん。人だったのか。」
ノリスはサウルに一応謝っていたが、まったく反省の色が見えず、吹っ飛んだ女性などお構いなしに掴まれた腕を綺麗な布で念入りに拭いており、サウル達は苦笑するしかなかった。
「……毎度の事だけど、いつ見ても驚愕。イド、今までどうやって回避してたの?」
人の半数は女性であり、そんな女性への対応が今のような感じのノリスに、エストは毎回驚きを隠せない。本当にどうやって普段を過ごせていたのか?疑問しか浮かばなかった。
以前、ノリスが賊に言っていたように、対人戦はノリスよりもイド、サウル、エストの方が凶悪であり、更にはイドやエストにもサウルのようにトリガーとなる禁句や禁止行為がある。
だが、その地雷さえ踏まなければ三人は比較的大人しかった。
しかし、ノリスだけは違う。
世界の半分に対しては誰よりも温厚なのに、残りの半分に対しては常にトリガーが発動している状態なのだ。
ノリスは賊に『他の三人の方がヤバイ』と言ったが、エストにとっては『ノリスの方がヤバイ』と常々思っていた。
「エストに会う頃までの事か。もう分かるだろ?当然、俺が全てを受け流していたさ。」
しみじみと、更には少し疲れを伴うため息を出しながらイドは応える。
いっそのこと、ノリスに全身鎧を着てもらった方が楽なのではないか?と三人は考えてしまうのだが、それならば自分達のトリガーについては何もしないままには出来ない。
ノリスには我慢を強いて自分達は我慢できないでは不公平であり、更にどうしても我慢できない、許せないからトリガーになっているのである。
寧ろその意味では全身鎧を着るという対応策があるだけノリスの方がマシなのであった。
だからイドもサウルもエストも、ノリスに何も言えなかった。
なるべく女性に接触しないようにさせれば、誰よりも温厚なのだ。更には生ゴミと認識するため、ノリスから近寄ろうとは絶対にしない。イド達がほんの少しだけ日々の注意を払えば特に問題がないで済んでいた。
当然、今回の揉め事では大問題になったのだが。




