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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
43/104

第43話 進展無し

 街に少しずつ溶け込んで、ようやくノリス達の生活が軌道に乗りつつある日々。

 『週末のひととき』として、週末にダンジョンへ向かい【オーク】と戯れる日々でもあった。


 そんな中、この街へ来る目的でもあった連携の強化は、実は以前とさほど変わっていなかった。


 ノリス達はたとえ壁役だったとしても、元Sランクの冒険者である。単身でオークを圧倒する事はそれぞれが問題なく出来るのだが、連携して倒すのは中々に厳しかった。寧ろ、壁役だったからこそ、今までとの意識の違いから難しいものになっていた。


 ノリス達は今まで壁役として活躍してきた。敵の攻撃を引き受けて、味方の攻撃を待つ。牽制程度の攻撃はするし、瀕死の敵にトドメを刺す事もあるのだが、攻撃よりも守備のエキスパートだ。

 勿論、それぞれがSランクまで登り詰めていたので、攻撃を担っていた仲間の動きは十分知っている。だから頭ではどんな動きをすれば良いのか理解しているつもりなのだが、長年染み付いた体の動きや意識はそうそう変わるものではなかった。


 例えるならば、サッカーで守備のエキスパートが攻撃の最前列に加わるも、中々シュートを打たない感じが近いだろう。すぐそこにゴールがあるのにボールを取られまいとキープしたり、比較的安全な味方へパスしたり……そこはシュートだろ!と、もどかしくなる場面でも打たない。そんな感じだった。


 それがオークとの戦闘でも度々起こっていた。

 要するに誰もオークを攻撃しない……お互いに様子を伺い、お見合いみたいな時間が無駄に出来たりしていた。



 攻撃を担う者達は誰もがエゴを持っている。


 出来るだけ万全な状態で、自分の一撃で終わらせてやろうと考えるのが普通だ。その為に隙を作ったり、壁役を利用したり、少しでも敵に多くのダメージを与えるために力を篭める。


 一瞬の隙を見逃さず。敵の攻撃など知ったことか。自分の攻撃力こそが全て。


 その攻撃で敵を倒せるのだから、それこそが攻撃を担う者達の正義だった。



 そんなエゴをノリス達は誰一人持っていなかった。

 今まで壁役だったのだから、持っていないのが当然でもあった。


 自分の攻撃よりも、まずは敵の攻撃を待ってしまう。何よりも先に……ノリスとサウルは受けようとし、イドとエストは避けようとする。ノリス達は、壁役だったからこそ、敵の攻撃を最初にどうにかするかを考えてしまっていた。

 根本的な部分から攻撃役と違っていた。


 何度も言うが、ノリス達とて馬鹿ではない。頭では理解している。だけど「あっ!今、攻撃のチャンスだな。」と思っても、つい考えてしまう。その時点で既に遅い。一般的な攻撃役なら、考える前に体が動いている。


 ただし、イドとエストが最初に連携したゴブリンの時のように、攻撃する順番やトドメを刺す役を決めてしまえば、問題なく出来た。この街に来て、それは相手がゴブリンだったからだとノリス達は知った。弱い敵だから少しの攻撃で倒してしまう。耐久力のあるオークではより攻撃を繋げないと倒せない。だから、順番を決めるのが難しかった。

 それを連携と言っていいのか微妙なところだが、何も決めないと本当に四人共がグダグダになった。酷い時は四人同時に最後の一撃を譲り合った事もあった。


「フハハッ。これ程とはな。」


「あの時のオークの顔見たか?あまりにも俺達の不甲斐なさに驚いていたぞ!」


「染み付いたものを無くすのは中々に難しいですね。」


「……とにかく数をこなす?」


「うむ。それしか無いだろうな。」


「そういう意味では、オークで丁度良いのかもしれないな。」


「元々すぐに出来るとは思っていませんでしたし、ゆっくりやっていきましょうか。」


「……うん。こういう試行錯誤も楽しみの一つ。」


「だな。」


「ああ。」


「ですね。」


 危うくオークを取り逃がしてしまいそうになりながらも、ノリス達は笑い合い、拙い連携を練習しながら、ダンジョンを楽しんでいた。


 その後、ダンジョン終わりに酒場へ行って、今日の冒険をアレコレ言い合う。時には難しい顔をしながら、時には爆笑しながら……アレはああだった。ソレは次からこうしよう。酒が入っているので、もしかしたら来週には忘れてしまっているかもしれないが、四人全員が気軽に色々と話し合い、笑い合い、週末のひとときを過ごしていた。


 そうして、普段の変わり映えしない平日が翌日からまた始まる。



 しかし、その週は少しだけいつもとは違った。


 たまたま矢と回復薬の卸しに行くタイミングが重なった為、せっかくだからと平日に四人全員で、矢と回復薬を卸し先に向かったある日だった。


 丁度、街中での揉め事に遭遇してしまった。

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