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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第42話 新しい街Ⅱ

「気にしなくても大丈夫ですよ?」


「……うん。僕らは全然、恩を返せていない。」


 ノリスとイドがトボトボと足取り重く家に帰って事情を説明すると、サウルとエストからやはりと言うか予想された答えが返ってきた。


「違うのだ。これは俺らの気持ちの問題だ。

お前達が頑張って支えているのを、俺らが黙って見るだけなんて出来ないのだ。」


「そうだな。それに暇すぎてやる事が無い。」


「なら、ダンジョンにでも……」


 サウルの提案をすぐさま遮ってイドは否定する。


「サウル。それは俺らの主義では無いな。」


「サウル達が逆の立場だったら行くか?行かねぇだろう?」


「それもそうですね。すみませんでした。」


「いいさ。それに、お前達が俺らの分まで稼ぐとなると、結局お前達もダンジョンに行きそうだからな。」


「……確かに。それは考える。」


「だろ?だから、これで良いんだよ。元々イドと考えていた事だしな。」


 ノリスもイドも、そしてサウルやエストも今まで人生の大半は冒険者として生きてきた。冒険者だから生き長らえてきたと言っても過言ではないかもしれない。それ以外の生き方をあまり知らないまま、ここまで来てしまっていた。


 だから……冒険者であることを捨てられない。

 だけど……ダンジョンに潜る頻度を増やせば、また以前と変わらなくなってしまう。


 その二つがせめぎ合った結果、『週末のひととき』として週末に趣味でダンジョンへ行くのだ。そのぐらいが丁度良いと皆が考えて決めていた。


「まぁ、ひたすら同じ普通の武器や防具を作り続けるなんて、それこそ初心者の冒険者がゴロゴロ死んでないと無理だからな。いつか破綻すると思っていたのだ。まさかこんなに早くとは思わなかったがな。」


「とはいえ、俺達の装備としては必要だから、二人で矢を作りつつも剣や防具も作るがな。」


「そうですね。特にこの街は【オーク】ですからね。」


「……消耗が激しいかも?」


「なら、少し性能を上げるか?」


「おいおい。今さっき俺らの作った物では売り物にならないと断られてきたばかりなのに、それを俺らで証明してるようなものじゃないか?」


「アハハッ。とりあえずは、せっかくの【オーク】ですから私達の連携を強化したいですね。」


「……うん。まずはそれから。後は様子見。」


「まぁ、週末のダンジョンが楽しみなのは分かるが、兎にも角にも普段の生活を安定させねばな。」


「だな。明日に矢作りを開始して、卸先も探さないとだな。」


「あぁ。サウルとエストも少しだけ待ってくれ。」


「構いませんよ。」


「……ダンジョンは逃げない。」


「上手く行かなくて発散に付き合ってもらうかもだけどな。」


「アハハッ。それは大歓迎ですよ。」


「……うん。失敗を期待しそう。」


「フッ。その期待を裏切ってやろうではないか。」


 ノリス達は笑いながら、この街に足を付け始めた。


 来たばかりの余所者冒険者なノリス達は、これから少しずつ街の一員として浸透していかなければならない。Eランクの冒険者であるノリス達は、あまり期待もされないし、頼りにもならないと周りから思われるし、結局のところ冒険者なので完全に浸透することは無いのだが、ずっと孤立していては面倒事にしかならない。

 適度な関係と、適度な距離感を持って、街に馴染んでいく。少しずつ、ゆっくりと。

 その地方の独特な喋り方に影響を受けて、自分の喋り方も変わっていくように……急に変えてしまうと嘘くさい雰囲気が拭いきれず、少しずつ……ゆっくりと……街に溶け込んでいく。


 しかし、何事も上手く行くとは限らない。


 ノリスとイドの日常生活の安定は最初の数週間、失敗の連続で、ニヤケ顔のサウルとエストに励まされながら、週末になるとダンジョンに潜ったりもした。交渉失敗のストレス発散で連携皆無のゴリ押し殲滅するノリスとイドを、若干呆れながらもサウル達は接待したりもしていた。


 一ヵ月も経てば、ノリス達の卸先も決まり、ようやく街で生活している日々が感じられるようになってきていた。

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