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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
40/104

第40話 別れⅡ

 ノリス達が街を迂回すべく、脇道に逸れて先へと消えていった。


 その様子を領主の娘はいつまでも手を振りながら見送っていた。そこへ、隊長格風の騎士が身を乗り出していた馬車へと馬を寄せる。


「お嬢様。彼らを行かせてよろしかったのでしょうか?」


「わたくしにはどうすることもできませんでした。貴方達もそうでしょう?

謝りたい気持ちでいっぱいですが、招き入れるとお父様になんて説明したらいいのか分かりません。」


 領主の娘は寂しそうにボヤく。


 サウルがやらかした不敬により、騎士は捕らえる事も考えたが、先程返り討ちにあったばかりだ。捕らえに行くのも騎士であり、サウルにとって何ら障害にならないだろう。

 逆に街へ招くとなると、領主に説明しなければならないし、先に街へ向かった者達が噂を広めているのも予想できた。ノリス達は面倒事を嫌っていたので、どれほど願っても受け入れないだろうと領主の娘は思っていた。


「本当に、不思議な方達でした。

冒険者の方から、あんな風に言われた事は初めてでした。」


「はい。彼らはEランクの冒険証を下げていましたが、あれ程の力ですから、本来はもっと上の方だと思われます。

何らかの事情で隠しているのでしょう。隠しきれてはいませんが……。」


「フフッ。そうですね。

そういえば、サウルさんの本名をお聞きしました。わたくし達にはよく分かりませんでしたが、どなたかに聞けば分かると言われました。」


「お嬢様。それはどういう意味ですか?」


「わたくし達が知らなかったので分かりません。貴方なら知っていますか?

サウルさんの本名は『シルベスト』さん……と言うそうです。」


「!!!」


 隊長格風の騎士は、サウルの本名を聞いてすぐに気づく。ついさっきまで、同じ『四神獣』の話題で盛り上がったばかりだからだ。


「お嬢様!それは本当ですか!?」


「えっ?ええ。

馬車でお話してくれた、エストさん……彼の本当の名は『ジャック』さんでしたが……そのエストさんから教えてくれました。」


 隊長格風の騎士が物凄い勢いで詰め寄ってきたので、戸惑いつつも領主の娘は応える。その答えは騎士にとって、追い討ちをかけるようなものだった。


「……なんという事だ。

クハッ……フハハッ……なるほど!それでは勝てないのも仕方が無いな!」


 驚きのあまり若干言葉使いが適当になった隊長格風の騎士は唐突に盛大に笑う。今度は領主の娘が驚き返す。


「い、一体、どうされたのですか!?」


「お嬢様は流石にそれぞれの名前までは知らない様子ですね。ですが、パーティ名はご存知でしょう?」


「パーティ名ですか?」


「ええ。我らも先程話していましたから、すぐに気づきました。確かにあの時、あの名が出るのは疑問でしたが、それはそうですよね。何故なら当人達がすぐそこに居たのですから!

お嬢様、『四神獣』です。」


「『四神獣』?確か、以前に居た【英雄】冒険者パーティの名ですね?『玄武』や『朱雀』と言った……」


「そうです。やはりお嬢様ですと、そのパーティメンバーの名前までは分かりませんか……我らの世代なら全員言えるのですがね。」


「では、サウルさんやエストさんが?」


「南の英雄パーティ『朱雀』。

……不死身の如くとは本当だったな。あの方が『不死鳥』のシルベスト様。

そして、西の英雄パーティ『白虎』。

彼は霧のように現れたり消えたりしませんでしたか?彼こそが『蜃気楼』のジャック様。

そういえば、シルベスト様とジャック様はとても仲の良い幼馴染だったと聞いた事があります。」


「それは、エストさんも言っていました。」


「やはり本物か……。

お嬢様。確かに彼らはお嬢様に対して不遜な態度をしていて、我らもそういった場に慣れていない余所者かと蔑んでいました。ですが、逆だった。彼らは出るところに出れば、国賓待遇で迎えられます。慣れきっていたからこその態度だったのですね。」


「……そんな方々が……何故?いえ、これではまたわたくしが怒られてしまいますね。

あの方々にも色々あった。そして、この場に居て、わたくし達を救い、教え導いてくださいました。」


「そうですね。『四神獣』は全て解散しております。もし良ければ、詳しい話を帰ってからお聞きしますか?」


「はい!是非お願いします!」


「しかし、そうなりますと、残りの二人は一体どなたなのでしょうね?『朱雀』と『白虎』の誰かなのでしょうかね?」


 隊長格風の騎士は、イドとノリスが誰になるのか?興味津々で呟いた。それを聞いた領主の娘が、エストの言葉を思い出して笑う。


「フフッ。ノリスさんでしたね。本当に色々あるのでしょうね。」


「お嬢様?どういう事ですか?」


「エストさんが言っていました。

ノリスさんは頑丈な全身鎧を着ていないと女性とまともに話すら出来ないみたいです。おかしな人ですよね?」


「……。」


 領主の娘がクスクスと笑う横で、隊長格風の騎士は気づいた。いや、気づいてしまった。


「……そんな……我らの憧れが……そんな理由で?」


 知りたくなかった。だけど、繋がってしまった。

 あの時、「何故あの方は鎧を常に着ているのか?」自分達の疑問に当のノリスは言葉を詰まらせて、知っているはずのイドとサウルは爆笑していた。その事実で彼こそがあの方であると証明されてしまった。


 隊長格風の騎士の呟きは、ノリス達が消えた道の先へ彷徨い空へと還っていった。

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