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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
35/104

第35話 刺激

 サウルvs騎士達や領主の娘とのイザコザが終わり、ようやく野次馬であった周りの者達も動き出した。


 彼らは当初、ノリスの話を聞く気マンマンで居座っていた。しかし、領主の娘がヒートアップし、ヤバい空気だと察しだした頃にサウルが豹変し、騎士達との戦闘みたいな何かが始まってしまった。

 このタイミングで自分達は関係無いと言って、街へ向かう訳にもいかない。サウルやイド達は余所者だからどうでも良いが、もう片方はこれから向かう街の領主の娘なのだ。取り返しのつかない場合、街に滞在すら難しくなる。

 かといって、止める事も出来ない。余所者に肩入れするつもりは更々無いが、止めるという事はそう取られてもおかしくない。

 では、騎士達の味方をするのか?それも出来なかった。サウル一人が相手をするようだったが、ついさっきノリスの馬鹿力を目の当たりにしたばかりだ。加勢したところで、ノリスまで参戦したらと思うと動けなかった。


 周りの者達は、豹変したサウル以外の三人でサウルを止めてくれる事を願ったが、イド達は静観を決め込んだ為自分達も見守るしか道が無かった。


 騎士達がサウルの魔法で倒れ伏せた時、流石にこれはヤバいのでは?と何人かの冒険者は動こうとしたが、その後のサウルのクソ魔法で足が止まり、結局何も出来ないままで終わった。


 サウルの圧勝で終わったが、死者はゼロ。周りの者達はこれ幸いと、騎士達や領主の娘を介抱しに動き出した。


 領主の娘や従者は、女性陣が駆け寄り、騎士達には男性冒険者や商人が向かう。その男性陣の中にイドとノリスの姿もあった。

 エストはサウルの側から離れず、イドとノリスに回復薬を投げ渡し、その薬で騎士達を次々に癒していく。


 とはいえ、騎士達も怪我らしい怪我をしていない。ヘルムや鎧を補助しながら外すと、今まで締め付けられた鎧の跡が赤く浮き出ているだけであった。サウルの手加減は完璧に制御されていた。


「暫く時間が経てば、跡も綺麗に消えるだろう。」


「……。」


 回復薬を飲ませながらノリスは騎士を支える。そこに近寄ってきた一緒に説得に応じた冒険者パーティのリーダーが恐る恐る伺う。


「アンタ達、その……こんな事をしてしまって、大丈夫なのか?」


「うん?あの街に用事があった訳じゃないからな。ただ通過したかっただけだ。

ま、街に入れなくなっただけだな。俺達は所詮余所者だ。」


「いや……しかし……」


「別にどうという事も無いだろ?ノリスの言う通りだ。

寧ろ、ほとんどの者達が気づいているだろ?理解できなかったのはあのお嬢ちゃんだけだ。

確かにこちらは無礼を働いたが、騎士達も相応の事はしただろ?

サウル!致命傷はいくつ負った?」


「ふぅ……イド。四つですね。」


 イドの問いに落ち着いて普段通りに戻ったサウルから答えが返ってきた。


「ほぅ。あの人数の突き刺しでか。中々の連携だったのだな。

……ということだ。俺らの仲間を四回殺したんだ。これで終わりにしておくのが無難だぞ?」


「……分かった。皆もそのようにせよ!

他の者達もこの話はこれで終わりだ。いいな!」


 隊長格風の騎士が渋々だが、イドの提案に了承し、他の騎士達や周りの者達も無言で頷いた。


 恐怖に塗り潰した為、領主の娘に響いているか微妙だったが、豹変したサウルの意見は最もであり、騎士や周りの者達も理解していた。それこそイドの言う通り、理解できなかったのは領主の娘だけだった。



 街から見える距離の森に賊が居る。


 その賊の討伐は本来、領主の私兵であるこの騎士達の仕事のはずだ。もしくは、ここに居る……あの街を縄張りにしている冒険者達に依頼する仕事だった。

 余所者のイド達がするべきことではない。無論、イド達も襲われたら対処するが、今回そうはならなかった。

 例えるなら、観光に行った街でチンピラに絡まれたが、街の統治者から「自分でなんとかしろ。可能ならチンピラを一掃しろ。」と言われた。街の治安など存在しないと言っているようなものだ。もし、イド達が周りに影響力を持った人物なら、この街の評判は地の底まで落ちているだろう。サウルの言う通りロクな街じゃない。


 冒険者であることを尊重しつつ報酬等を交渉して依頼するのではなく、ただただ領主の娘が「救えるのなら助けて欲しい」と言われても、余所者でなくたって誰も受けないだろう。

 本当ならば、自分達がやらなければならない仕事を余所者のイド達へ領主の娘が命令した。サウル程激昂はしないが、騎士達や周りの者達もその点だけはサウルの気持ちが痛いほど理解していた。


 なので、ここまでやったサウルを騎士達は誰も憎んでいない。サウルの言い方が下品過ぎて戦うはめになってしまったが、もう終わった事として負けた結果を飲み込んだ。


「だが、少々刺激が強すぎたかもしれんな。

あのお嬢ちゃんが変わってくれると良いのだがな。」


 でなければ、せっかくのサウルの手加減が無駄になる。イドはスッキリし合流した従者や他の女性達から馬車の中へ運ばれる気を失った領主の娘を見ながらボヤいた。


「それも貴方達ではなく我らの役目だ。誠に申し訳ない。

言い訳になってしまうが、お嬢様はこの街を継ぐ訳ではないし、まだ幼い。政はまだ触れてすらいないのだ。」


「なるほどな。だが、もう十分自分の意見を言えるのだ。他の街に嫁ぐとしても、必要になるだろう?」


「これが良い機会になってくれると良いが……確かに強烈だったかもしれんな。」


 イドと隊長格風の騎士が領主の娘の今後を話し合っていると、今までほとんど動かなかった者が動いた。


「……大丈夫。フォローは僕が行くよ。」


「エスト!?」


「エストが行く必要は無いよ。私は別になんとも思っていませんから。」


「……サウルが誤解されたままなのは、僕が嫌。」


「ありがとう。エスト。一緒に居られて私はとても幸せだよ。」


「……僕も。だから行く。」


「わかったよ。ならお願いするよ。」


「……うん。」


 領主の娘の馬車から他の女性達が出て行ったタイミングで、エストは霧のように姿を消した。

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