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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
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第34話 回復魔法?

「うぅ……そんな凄い力を持っていながら……どうして……?」


 サウルの説明を聞いていた領主の娘は、泣きながらもサウルのしている事に疑問を抱いてしまっていた。


「このクソアマァ!!まだ言うか!」


 だが、サウルにとっては火に油を注ぐようなものだった。激怒したサウルは声を荒げるが、ふと何かに気づいたように表情を変えた。


「ゲヒャヒャ。良いことを思いついた!

ノリス!森に戻ろうぜ!彼らの中にも負傷者が居るはずだ。俺の力で治しに行こうぜ!」


「なっ!!何故、そんな酷いことが出来るのですか!?」


「酷い?クソアマなてめぇが『他の人を助けて』と言ったじゃねぇか!彼らだって、十分『他の人』だろ?」


「違います!絶対に……違います!そんなのおかしい……こんなの間違ってます。」


 泣きじゃくる領主の娘は、一心不乱に『違う』と叫ぶ。


「まだわかんねぇのか?正しいとか間違いとか、その判断をてめぇだけですんじゃねぇよ!!

周りも見ねぇ聞かねぇ、てめぇの立場すらも見てねぇのに、てめぇの都合だけ考えて、それを俺らに押し付けんな!!

俺の力は『癒し』が主体だからな。尚更、てめぇみてえなクソアマは今まで腐る程見てきた。クソったれのブクブク太った豚みたいなヤツから、『こいつは生かせ。あいつは死んでいい。』そんなクソゼリフをクソみたいに聞いてきた。

ハッ!今のてめぇとそっくりだな!」


 違うと言い張る領主の娘に対して、サウルはそもそもが違うと言う。


 何が正しいのか?何が間違いなのか?その物差しは人それぞれが持っている。


 領主の娘が言っていることは正しいことだとサウルだって理解しているし、サウルがやろうとしたことが領主の娘にとって間違いになることも気づいていた。

 ただ、根本的に正しいことだろうが、間違ったことだろうが、実行するのは領主の娘ではなくサウルやノリス達である。領主の娘がどれほど望んだところで意味などまるでない。他者の気持ちや意見を考慮して交渉するのならまだしも、自分の気持ちしか考えてない者から求められても、これっぽっちも響く訳がない。


 お互いが普通に話し合えば理解出来たかもしれない。しかし、泣きじゃくる領主の娘と、豹変したサウルでは、どう足掻いても無理だった。


「もう時間の無駄でしかねぇな。

言い出したのもてめぇだし、俺を変えたのもてめぇだ。その責任としての罰は受けてもらおうか。」


「お嬢様に手は出させません!」


「んあ?随分と強気だな。

俺が攻撃しねぇと言ったからか?犯すつもりも無さそうに見えたか?確かにその通りだが、勘違いはすんなよ?

今までクソ生意気なクソ餓鬼共をクソ黙らせてきたクソ魔法だ!」


 領主の娘を守る為に立ち塞がる従者に対して、サウルは指を弾いて鳴らす。特に何かが変わった……ということもなく、しかしサウルの行動から何かしらの魔法を使ったのだろう。そして……


「……うっ!」


 急に従者はお腹を抑えて蹲った。


「……ん。」


 苦しみ出した従者を、領主の娘ともう一人の従者も心配して声を掛けていたが、あまりの苦しみに従者は声にならない声を上げていた。


「今度は何をしたの!?もう止めて!」


「ゲヒャヒャ!だから人の話を聞けって!俺はちゃんと言っただろ?」


「……こ……んな……。」


「ほら?こいつはちゃんと聞いてたので正解だ。

強制的に内蔵……特に消化関係を活性化させる回復魔法だ。するとどうなる?見れば分かるだろ?我慢するから苦しいんだ。

ゲヒャヒャ!さっさと茂みに行って、出して来いよ!それぐらいの時間はあるだろ?」


 サウルの魔法を受けた従者が、たまたま発した苦しみ漏れる声で、正解を言い当てられ、ご機嫌なサウルは説明する。サウルは使用した魔法を事前にしっかりと言っていたが、クソ発言が多すぎて本当に【クソ魔法】だとは領主の娘は理解できていなかった。


「クソ辛いだろ?無理すんなよ。出せば楽になれるぜ。

もう少し活性化を強めてやろうか?クソ我慢出来ないぐらい今すぐに全てをぶちまけれるぜ。」


「……くっ!このっ……!」


 苦しみながらも、目の前に立つサウルへ侮蔑の視線を突き刺す従者だが、そのサウルがまた指を弾いて鳴らそうとする動作をしたので、心が簡単に折れた。


「……お、お嬢様……も、申し訳ございません!」


 従者は領主の娘を守る役目を放棄し、近くの茂みに猛ダッシュし、溜まっていたものを出しに消えた。


「安心しろ。残り二人もすぐに同じ場所へ送ってやるからよ。」


 ニヤニヤしながら、走り去る従者をサウルは見送り、言葉も贈る。見送ったサウルは言葉通りに残りの二人へ向きなおる。


「ヒッ!」


 その悲鳴は、どちらの声だったのか?はたまた両者が共に発したのか?すぐ側に居たサウルにも分からなかったが、サウルに対して恐怖が突き抜けたことは理解した。


 今まで必死に領主の娘を抱き留めて落ち着かせていたはずのもう一人の従者が、震える領主の娘を引き剥がし、我先にと宛もなく何処へ行くのか不明だが、バタバタと逃げ出した。とにかくサウルから離れたかったのだろう。


 そんな大股で逃げる従者へサウルは見定めながら指を鳴らすと、走り方が滑稽なほど変化して、行く宛ても無さそうだったのに、今度は近くの茂みに一直線にお腹を抑えて小走りになり、消えていった。


「ゲヒャヒャ!

だが、一応回復魔法なんでな。全部出し終われば、スッキリするさ。体も軽くなるしな。」


 逃げる従者の変化を笑い、されど念の為にフォローも忘れないサウル。


 回復魔法も使い方次第では、恐怖の魔法に変わる。

 便秘気味で悩む女性へ使うと大変感謝されるが、サウルは本来の使い方をあまりしてこなかった。しかし、今回のような場合や、決闘を申し込んできた馬鹿などには積極的に使っていたので、感謝されるどころか恐れられていた。相手の門が決壊するまで、先程の騎士達との戦闘のように回復しながら耐えれば、勝手に自滅するからだ。

 パンツ型魔道具で対策もされたが、体を大きくさせて、パンツを破ってから、クソ魔法をかけて楽しんだりもするほど、徹底していた。


「さて、最後の仕上げな……チッ!俺が出させる前に先に漏らしてんじゃねぇよ!

はぁ……シラケちまった。もういいや。」


 やたら静かになった領主の娘を見やると、守っていた従者が居なくなり、恐怖が突き抜けた影響で、領主の娘はスカートを濡らして失神していた。


 罰を与える者が不在になったので、サウルの機嫌は急速に鎮火して、指を鳴らして騎士達の強化魔法を解除し、ノリス達の居る馬車へ戻り、荷台で横になり不貞寝に入った。

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