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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
32/104

第32話 豹変

 サウルが豹変した。


 領主の娘の『才能』と言う言葉に……そして、その才能の使い方を上から目線で導こうとする行為は、サウルにとって何よりも耐え難い感情が爆発した。


「なぁおい、クソアマ?

頭がお花畑だと思っていたが、ホント酷すぎねぇか?」


「あっ、なっ!?あ、貴方は……」


「その使い方とやらを、てめぇが教えてくれるのか?そいつは無理だ!馬鹿過ぎて話にならねぇ。」


「き、貴様!?無礼が過ぎるぞ!」


 騎士達は怒り顔でサウルに詰め寄るが、こうなってしまったサウルはもう誰にも止められない。詰め寄る騎士達を強引に振りほどき荒ぶる。


「無礼?なら聞くが、どうして欲しかったんだ?まさかとは思うが、俺らにあの集団をどうにかしろとでも思ってんじゃねぇだろうな?そっちの方が、クソ無礼だろうが!

これだから騎士はクソでダメだ。まぁこんなクソビッチに従ってるヤツらだ。可哀想だが、仕方ねぇか。ゲヒャヒャッ!」


「ひ、酷い!わたくしの事をそんな風に思っていたのですか!?こんな屈辱は……!」


 涙目になりつつもサウルを睨む領主の娘。だが、そんな事など気にもせず、先程までとは逆転して今度はサウルが止まらない。


「屈辱?ゲヒャヒャッ!だからクソ馬鹿だろ!

俺らの才能どうこうよりも、てめぇの才能はからっきしだな。もう領主の娘なんて辞めちまえ!」


「サウル。流石に言い過ぎだ。」


「サウル。少しは落ち着け。相手はまだ少女だぞ?」


「……サウル。止まって。」


「ノリス、イド、エスト。仕方ねぇだろ?まるで分かってねぇんだからよ!

『信じたくない』と言っていたのは単純にあのリーダーの考えだけだったみてぇだからよぉ。

大体、こんな街の近くに賊が集団でのさばってるんだぜ?

どう考えても彼らは街の元住人達だろ?街の治安はどうなってるんだ?ロクな領主じゃねぇし、あの街もロクでもねぇに違いねぇ!

あの街で生み出しておいて、その街の領主の娘が元住人達を殺せと言ってるんだぜ?

屈辱?おかしいよな?恥の概念があるなら、まずそこを恥ねぇとおかしいだろ!」


「貴様!?お嬢様だけでは無く、領主様の事まで何たる物言いだ!万死に値する!」


「おっ!?殺るってのか?良いぜ。

だけど騎士は瞬殺だな。仕方ねぇから手加減してやるよ。」


 怒り心頭の騎士達は剣を抜き、サウルに構える。対するサウルも煽りながら、手をクイクイと折り曲げ挑発していた。


「お、おぃ。サウル。本気で……エスト、何故止める?」


 流石に殺し合いまでされたら敵わんとイドは戦い自体を止めようと動こうとしたが、そんなイドを少し驚いているエストが止めた。


「……サウル。少し変。いつもは手加減なんてしない。少しだけ理性が残ってる?……だから大丈夫。」


「本当か?」


「……多分。でも普段なら、既にいくつも死体が出来上がってる。……諭そうとしてる?」


「なるほどな。サウルも心の底ではまだお嬢ちゃんや騎士達が変われると思っているようだな。」


「なら、俺達は見届けるか。」


「……うん。ヤバかったら僕が行く。」


 サウルvs騎士達の対決が始まろうとしていたのだが、ノリス達は静観を決め込んだ。

 かなり不味い事態のはずなのだが、ノリス達に不安はまるで感じられなかった。サウルが死ぬなんて事がまず無いと確信していたからだった。


「おら!来いよ!ハンデが欲しいって?しょうがねぇな。俺は攻撃しねぇからよ!」


「舐めるのも大概にしろっ!」


 一人の騎士が激昂し、サウルへ突撃する。剣を振りかぶり、上段からサウルの肩口に袈裟斬りを仕掛けた。

 騎士は殺すつもりで仕掛けた攻撃ではあるが、散々煽っていたサウルが相手なので、必ず防御か回避か反撃はしてくると思っていた。

 しかし、サウルは一歩も……受ける動作すらとらず、まともに騎士の攻撃を受ける。


 騎士の剣は、イドが作った皮鎧を易々と切り裂き、その先も止まらなかった。サウルの皮膚を切り、肉を絶ち、骨を砕き、内蔵を破壊する。


 剣を握る手に、その感触はありありと伝わった。


 人を斬った。人を殺した。


 剣から伝わるその手応えに、騎士は若干戸惑う。何か仕掛けてくるはずだと……こんなに簡単に殺すつもりは無かった……そう思っていた。


 振り抜いた剣を持ち上げつつ一緒に顔もあげ、せめて最後を見届けるつもりだった。



 サウルの皮鎧は見事に切り裂かれていたが、不思議なことにサウル自身は無傷だった。


「え?」


 そんなはずがない。

 幻な訳がないんだ。今さっき、確実に斬った手応えがあったんだ。


 騎士は混乱のあまり、素っ頓狂な声を出して、呆然とした。


「ブハッ!ホント、人はクソ馬鹿だよな!

毎度毎度、どいつもこいつも、すぐに隙だらけになりやがる。」


 サウルは笑いながら、呆然としている騎士を掴み、後方へ放り投げ吹き飛ばした。他の騎士達の足元まで転がり、騎士は気を失ってピクピクと痙攣していた。


「クソっ!一斉にかかるぞ!」


「ハッ!」


 隊長格風の騎士が号令し、他の者達も同時にサウルへ突撃した。集団で突っ込む為、全員が剣での突き刺してきた。ある者はサウルの心臓を、別の者は喉を、足を、腕を。その全てをサウルは何もせずに受ける。


 狂乱したとはいえ、昨日の夜親しげに話していた相手が目の前で串刺しになる。領主の娘やその従者達は三人で震えながら抱き合い、涙を流して、騎士達の惨劇を見て、悲鳴もあげた。


 しかし、サウルは串刺しのまま倒れない。


 不思議な事に、剣が何本も自身の体を貫いているのに、そこから血が一滴も出ていなかった。サウルの表情から笑っているようだが、喉に剣が突き刺さったままの為、声が出ていなかった。


 一通り騎士の攻撃を受けて、ようやくサウルが動きだす。


 喉を突き刺していた騎士の腕を掴み、強引に横へ振りほどく。釣られて剣も横に薙ぎ、サウルの首を半分刎ねる。それでもサウルの喉は何事も無かったように無傷だった。


「おいおい。喉はクソやめてくれよ?

気道が塞がって声が出せないだろ?」


「馬鹿な!?」


「幻覚か?」


「で、ですが、貫いた手応えはありました!自分の腕も掴まれましたし……」


 突き刺した状態のまま、混乱する騎士達とそれを笑うサウル。


「ゲヒャヒャッ!

だからノリスも言っただろ?俺らの対人戦は凶悪だ。大体、あの力と同等だとお前らが言ったんじゃねぇか!もう忘れたのか?そんなんじゃ答え合わせも面倒だ。

こりゃ、あまり長くても時間の無駄だな。ゆっくり痛みに耐えて寝てろ!」


 サウルが指を鳴らすと、サウルを中心に魔法陣が広がり、騎士達を一人残らず包む。

 炎が吹き荒れるでも、水が溢れるでも、周囲に何の変化も起きなかったが、騎士達は何故か急に腕を真横にピンと伸ばした状態で倒れ、苦痛に耐える悲鳴を誰もが口から溢れ零していた。

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