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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
30/104

第30話 勝敗

 結局、領主の娘と護衛の騎士達は、野営集団に合流して一晩共に過ごすことを選択した。


 騎士達の説得が効いたのか?最後のサウルの言葉が効いたのか?野営準備の為の手伝いをサウルに頼んでいたので、どちらかといえば後者なのかもしれない。

 サウルはバンダナを頭に巻いた状態であれば、割と整った顔付きをしている。体格もノリスのようにムキムキでも無いし、イドの体も顔と同じような歴戦の雰囲気も無く、エストのような一見すると頼りなさそうな感じでも無い。とても普通に見えるので接しやすく、更には言葉使いも丁寧で、何事もなければ好印象なのだ。何事もなければ……。


 領主の娘やその従者達にもサウルは好評だった。

 急遽この場所で一晩過ごすことになってしまったし、更には襲撃を見て見ぬふりをする方針で、機嫌が悪くなってしまうのでは?と予想し、どう取り繕うか考えていた騎士達も、お嬢様が楽しそうにサウルと会話する光景を目にしてホッとしていた。

 その甲斐もあり、イド達は余所者であったが、騎士達からそれ以上疑われることも無くなっていた。



 そして、日が落ち夜が来た。


 森の雰囲気から、まだ襲撃イベントは発生していないようであり、誰も口には出さないが、明日の朝が本番なのだろうと皆思っていた。それもそのはず、見晴らしの良い草原に野営を大人数で構えているのに、魔物が一匹も襲ってこなかったのだ。特に森に住んでいるだろう魔物が出てこない。

 嵐の前の静けさとはこういうものなのかと皆思いにふける。森に潜む集団のピリピリとした空気を感じとって、魔物も大人しくしているのかもしれない。


 イド達はのんびりまったりしつつ、しかしサウルだけは彼女達が眠るギリギリまで対応していたので、三人で夜を迎え、サウルが合流してからも変わらずいつも通りに、他の冒険者や騎士達と相談しつつ見張り番を交代しながら、一晩安全に過ごした。



 翌朝。



 朝日に照らされて、野営していた人達もまばらに起き出し、ゆっくりとだが朝食を準備し、全員が起きた頃には準備も済んで朝食を食べ、後片付けをしている最中だった。森から異様な音と人の叫び声が木霊してきた。襲撃イベントの始まりでもあった。

 その声を聴いた者はビクッと体をこわばらせ、冒険者達も周りを警戒しながら見張る。しかし、森から人が出てくる様子は無く、恐らく森の中の街道と思わしき場所から誰かが火を使ったのか?煙がもうもうと立ち昇りだした。


「始まったな。」


「ああ。あの煙は広がっている様子も無いし、木々ではなく馬車か何かに火をつけたのだろうな。」


「では、あの煙が消えた時が終わりだと思って良さそうですね。」


「……出発準備。」


「だな。他の人達にも知らせていくか。」


「お前には無理だろ?俺らのはノリスに任せるから、代わりに俺らが行こう。」


「すまんな。イド。頼む。」


 野営した場所の片付けはノリスに任せて、イド達三人は他の人達の手伝いに走った。

 冒険者や騎士達はまだ慣れていたが、他の者達は断末魔を聞きながらまともに手足を動かすことは出来そうになかったので、イド達三人の支援に口を震わせながらも感謝していた。


 それぞれの出発準備が終わる頃には、森から響く音や声もしなくなり、暫くすれば立ち昇っていた煙も掻き消えた。しかし、森を抜ける人の気配は未だに無く、襲撃側が勝ったか、撃退したが被害が大きく街へ戻っていったかのどちらかが予想された。


 その場で待っていても何か合図がある訳でもなく、普段通りの森に戻っていたので野営集団は全員で出発することにした。


 先頭はイド達。襲撃側が勝った場合、会話したことのあるノリスが御車台に座り、交渉可能ならば敵対せずにやりすごす為だった。その後ろに最初に合流した商人と護衛の冒険者パーティ、更に領主の娘の乗る馬車と騎士達が続き、二台の定期相乗り馬車、後方に他の商人と護衛達といった列になった。



 イド達一団が森に入ると、結果が否応なく判明した。


 初めに入った時に止められた場所は難なく進めたが、暫く進むと足止め用の大木が数本、街道を塞ぐように倒れており、見知った顔の指揮のもと、その木を撤去しようと数十人の集団が働いているのが見えた。


「よぅ!お疲れさん。少し来るのが早かったか?」


 ノリスが会話したことのある賊の纏め役に声を掛けると、賊の全員が振り向き一斉に警戒したが、ノリスの顔を見て前回見た事のある者は少しだけ警戒を解いていた。


「あぁ!?ああ。アンタらか。すまんな、もう少し待ってくれ。

それにしても助かった。本当に他の者達を待機させてくれたんだな。お陰でこちらに回す人員が少なくて済んで、無事にことを運べた。」


「気にすんな。俺達をどうこうしようとしないのなら好きにすればいいさ。

それにしても大丈夫か?少し待つだけじゃなさそうなんだが?」


 誰がどう見ても大木が大きくて、それを運ぶにしては、集団も襲撃したせいか疲れており、人数も足りている感じがまるでせず、少しの時間で撤去できる気配が微塵もなかった。


「ぐっ……。待ってくれ。必ずどうにかするさ。」


「ったく、仕方が無いな。イド、御車を頼む。このままじゃ陽が暮れちまうから手伝ってくる。」


 ノリスは御車台から飛び降りて、ノシノシと大木に近寄っていく。纏め役や他の者達の警戒など知った事かという雰囲気で、ノリスは大木を抱えて掴む。


「……よっこいせ!っと!?」


 ミシミシと大木がきしむ音が響き渡り、イド達以外全員が驚愕の表情を浮かべてフリーズしている中、ノリスは一本の大木を一人で抱え上げた。


「で?コレは何処に置けば良いんだ?おい!おい!?聞こえていないのか?」


 ノリスが纏め役に聞いても、一向に返事が返ってこなかったが何度も呼んで、ようやく纏め役も復帰していた。


「……あ、あぁ。少し先に置場を作ってあるからそこに置いてくれ。」


「了解した。」


 その後、数十分で街道を塞いでいた木々は綺麗に移動されて、ようやく街への道が開けていた。その間、イド達以外は、フリーズから戻ってきていなかったり、まるで夢でも見ているかのような表情をしたり、自分の頬を抓って現実なのかと確かめていたりと酷く滑稽な光景が広がった。


「よし!これで問題無いな。んじゃ俺達は街に向かうから、達者でな。」


「……最初に遭った時に手を出さなかった俺の判断は間違いじゃなかった……と今、心の底から自分を誉めたい気分だな。」


「ハハッ!そうだな。対人戦だと俺よりもアッチの三人の方が更に凶悪だからな?

俺達はあくまで余所者だ。さっきも言ったが、どうこうしようとしないのなら好きにすればいい。」


「分かったが、少しだけ待ってくれ!

お前達!聞いたな!?今すぐに周囲に連絡してまわれ!『彼らには絶対手を出すな!』とな!!」


 纏め役は他の者達を一喝して命令すると、一部始終見ていた者達は物凄い勢いで無言で頷き、周囲に散っていった。


「すまんな。助かる。」


「それはこっちのセリフだ。せっかく上手く行ったのに、アンタらに手を出したら全て意味が無くなる。やはり直感は信じてみるものだな。良い経験になった。」


 ノリスは纏め役と会話しながらイド達の荷馬車に戻る。その少し離れた横で纏め役は笑いながらノリス達に向かって手を挙げ別れを告げた。


「……ばいばい。」


 纏め役に応えるようにエストも手を振り、無事に森を抜けれる約束まで取り付けて、四人を先頭に街までの道を再び進みはじめた。

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