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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第3話 週末のダンジョン

『冒険者』


 それは魔物を倒し、まだ見ぬ先を切り開く者達。外の世界へと真っ先に飛び出し、危険とぶつかり合い、踏み越えて、時には倒れていく。


 彼らは皆、人々の希望であり、人々は彼らを支える。そのひとつに冒険者組合がある。誰が作り、いつから存在するのか分からないが、色んな方法で、冒険者達を支援した。更には人々が分かりやすいようにと、冒険者達をランク分けもした。

 Sを頂点とし、A、B、C、……と順番に下がり、初心者用のFまで、合計七段階あった。それぞれのランクによって、待遇や支援内容もドンドン優遇されていき、人々からの注目度も変わっていくのだ。その為、冒険者達は誰もが上のランクを目指した。そうして組織の中に深く深く沈んでいく。



 そんな冒険者のランクで言うと、ノリス達は全員Eランク。『週末のひととき』パーティとしてもEランクであった。


 ノリス達の年齢でEランクだと若干物足りないのだが、この街に居るのならば、そうおかしな空気にはならない。【ゴブリン】だけが発生するダンジョンしか無い街なのだ。この街全体で見ても、Dランクが数組居るかどうかだろう。上を目指す、より経験を積みたいと考える若者達は、慣れたらすぐにでも別の街へと行ってしまうのだ。それにココでランクを上げようにも、そもそも上げる手段が全然無いのだから。


 この街は通称『初心者の街』。

 駆け出しの冒険者が一番最初に訪れて、手ほどきを受けて、巣立って行く街である。


 ちなみに『初心者の街』は世界各地に点々と存在している。その為、全ての初心者がノリス達の居る街に殺到する訳でもなかった。全ては街にあるダンジョンの難易度次第なのである。


 そんなダンジョンへ、週末になったのでノリス達はウキウキで向かう。


 そろそろ昼食の時間かなと皆が思う時間にダンジョン前へ到着する。やる気の度合いが違うのだ。本気で目指している者達と朝一で一緒にダンジョンへ入っても無用に争い事を産むだけだ。なので、ノリス達以外にも趣味でダンジョンに潜っている者は、大体が潜る時間を考慮して利用していた。


 駆け出し冒険者達は、一通り潜りきったのだろう。ダンジョン前に人だかりは皆無で、ポツンと二人だけダンジョン入口を守る兵隊が暇そうにあくびしたり、昼食はまだかとお腹をさすったりしていた。そんな兵隊にノリスは声をかける。


「エッジ、ゲイン。今週もお疲れさん!」


「あぁ。『週末』の皆さんか。……そうか。もう週末になったんだな。」


「なんだ?お前ら。俺らで日付感覚を掴んでいるのか?」


 イドが呆れながら、エッジとゲインに問い掛けると笑いながら肯定された。


「そりゃそうでしょ。ただココに突っ立っているだけの仕事だ。暇で暇で仕方がないよ。

日々様変わりする駆け出しのガキ共を見送り、たまに貴方達のような趣味のパーティも来るけれど、貴方達ほどきっちりとした時間には来ないからな。」


「毎日、本当に何も無いんだ。

勿論、何かあれば俺達が対処するが、ゴブ程度で何かあったらそれこそ笑い物だ。駆け出しのガキ共でも理解はしているだろうよ。」


 エッジとゲインはうんざりしながら愚痴を零す。


 ゲインの言う事は最もだった。駆け出しが大怪我を負った、ゴブリンの数が普段よりも多かった、なんて事で逃げ戻ってきたら、この先も冒険者として絶対に生きていけない。

 ゴブリン以外の魔物が発生する事もあるが、その種類も高々知れている。そんな異常はどのダンジョンでも起こり得るのだ。ここで経験して、その異常も乗り越えないと、別のダンジョンでは太刀打ち出来ないだろう。


「……イド。……自分達も一緒。」


「ハハッ。エストの言う通りですよ。

私達だって、ココへ来る日で日付感覚を保っているじゃないですか?」


「まぁ、そうなんだがな。」


「それにしても、『週末』の皆さんは本当に週末しか来ませんよね?

今もそうですが、毎週本当に楽しそうですし……その顔付きなら普通、ダンジョンに潜る回数増えませんか?」


「チッチッ。分かってないねぇ。エッジ君。

俺達は趣味だ。断じて仕事じゃない。週一が丁度良いんだよ。」


「そんなものですか?」


「そんなものだ。回数を増やしたら、義務感が増すのだ。何より楽しい気持ちも減るからな。せっかくのこのメンツで、あんな空気はもう懲り懲りだな。

しかし……ゴブが相手では楽勝過ぎるとは思うがな。」


「おっ?言うねえ、イド。

なら、先週まで無かったサウルとエストとの連携を見せてもらおうじゃないか!」


「ふん!ノリス。貴様よりもバッチリに決まってる!

サウル、エスト。行くぞ!さっそくアレをやるぞ!」


「ちょっと、イド?アレって何ですか?

先週話してから、ほとんど何も変わってないですよ!」


「サウル……そこは黙って頷くとこ。」


「……あっ!」


「ブフッ!よし!イド、行こうか。

アレとやらを見せてくれるんだろ?楽しみだな。」


「……。」


 ニヤニヤするノリスと、無言のイド、気まずそうなサウルに、慰めるエスト。

 それぞれが首に掛かる、Eランクである木製の冒険証をエッジ達に見せて、ダンジョンへ潜ろうと歩み……


「あっ!?『週末』の皆さん。ダメだ。待ってくれ!!」


 エッジに止められた。


「え?」


「冒険証の期限切れですね。組合に行って更新して来て下さい。」


「マジ?」


「マジです。さっさと更新して来て下さい。」


「お願いしますよ。俺達は『週末』の皆さんが入ったら昼飯になるんで……。」


「そうなのか?それならば仕方が無いな。すぐに組合に行こうか。」


「だな。だけど、イド?

その間にサウル達と話し合ってアレを考えるのは無しな。」


「ぐっ……そんな事はしない!

だが、そっちこそ良いのか?ノリス。組合に行っても?」


「やべっ!?エッジ!

まだ【アレク】は組合員を辞めて無いよな?」


 反撃とばかりににやつくイドの疑問に、焦り出したノリスはエッジを問い詰める。


「えっ?確か、まだ在籍しているはずですが……?」


「チッ。アレクも無駄に頑張ってやがったか。」


「ふぅ。良かったぁ。いや、良くない。

昼休憩が終わってしまう!急いで向かおう!」


 エッジの返答にイドとノリスは正反対の反応を示す。その反応にエッジは疑問に思ったが、ノリス達が急いで組合に向かってくれそうなので、昼食が遅くなる事は無さそうだと安心し、それ以上は何も聞かなかった。

 その後、足早にノリス達はダンジョン前から踵を返し、冒険者組合へと向かっていった。

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