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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
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第29話 理由

「……お前達の説明はよく分かった。なるほど。確かに辻褄は合っているな。」


 ノリス達と冒険者リーダーの五人は、甲冑騎士達に囲まれながら、事情説明をした。甲冑騎士の少し後ろに御令嬢と思しき女性と更にはその従者だと思われる二人の女性も傍に控えていた。『生ゴミ』が三つも居てはノリスが使い物にならない為、イドが主体となって事情説明していた。そうして説明が終ると、騎士の中の隊長格風の男が理解を示した。


「例え辻褄が合わなくても、どっちでも良いのだがな……。」


「何っ!?」


「そうじゃないか?

この先の森に潜んでいる集団が居る。これは、偵察した冒険者からも確認してくれているから、紛れも無い事実だ。その事実だけで十分だろ?その上で、それぞれが対応するだけだな。信じる信じない以前の問題だな。」


「だが、お前達は……」


「俺らがその者達と繋がっているかどうかか?それで何か変わるのか?」


 隊長格風の騎士が説明を聞いて理解を得られたからこそ、イドは強気に出る。

 騎士達はあくまで護衛だ。一人一人がどのくらいの強さか不明だが、強いからといって騎士達だけで無謀な突破は選ばないだろう。イド達を敵だと想定していたら、後ろから挟撃もされるので、さらに突破しづらくなる。

 一緒にここで待機するのも安心できないかもしれないが、少し離れて野営してても、結局襲われる可能性は捨てきれない。ならば、イド達以外にも人が溢れているこの野営場所に居たほうが、騒ぎを聞きつける時間や、もしもの際には肉壁にも出来たりと、色々と便利だったりする。

 イド達が敵か味方か?どっちを想定したところで、結論は変わらない。まずどうにかしなきゃならないのは、先の森に潜んでいる集団なのだから。そして、騎士達は突破するには戦力が心もとないと思っている。でなければ、この野営集団など素通りしているはずだ。


 数人の騎士達は少しだけ集まって相談し、やはり同じ結論に達したようだ。


「そう長い時間でも無いはずだな。

ヤツらは明日か明後日と言っていたが、あまり長いと通行止めがもたない。数時間でここにこれだけの人数が集まった訳だからな。なので、恐らく襲撃事態は……」


「これから日暮れまで……もしくは、明日の早朝か。」


 隊長格風の騎士がイドの推測を代わりに答え、その通りだとイドも頷く。


「そうだろうな。だからこそ、待機するのが無難だと俺らは思ってる。一晩ここで過ごして明日ゆっくり出れば、終わってるはずだな。」


「俺達も、そして今までココに集まってきた者達も同じ気持ちです。」


 更には同行した冒険者パーティのリーダーも他の者達を代弁して応えた。


 説明を終えて、ようやくといった感じにイド達、冒険者パーティのリーダー、そして騎士達は意思の疎通が図れ、全員がまとまった空気感に包まれていた。

 冒険者パーティのリーダーもホッと一息ついて、イド達もこれで自分達の役目は終わったとばかりに、解散しようとした。しかし、ただ一人だけは納得していなかったようで、透き通る声で遮った。



「一つ、よろしいでしょうか?」


 男達が輪になっている集団にねじ込むように、領主の娘が強引に入ってきた。同時にノリスは一歩後ろへ下がっていた。


「お嬢様、如何致しましたか?」


「この先の集団は、わたくしを狙っているのでは無いのですよね?」


「ハッ。我らも考慮しましたが、その可能性は低いかと思います。」


「ですが、何かを狙って潜んでいるのですよね?」


「はい。我らもそう考えております。」


 隊長格風の騎士が領主の娘を敬いながら応える。


「……そう。」


 領主の娘は暫く考え込んで沈黙したかと思うとすぐに復活し、とんでもない事を言い出した。


「先程までの話は、わたくしも聞いていました。でも一つだけ、理解が出来ませんでした。

これから襲われる者達が居るのに、何故誰も助けようとしないのでしょうか?

悲しい事に今までの話で誰一人として、その発言や方法を模索する案すらも出ませんでした。何故でしょう?」


 領主の娘は悲しそうな顔をしながら、イド達、冒険者パーティのリーダー、護衛の騎士達……一人一人を、その純粋で真っ直ぐな瞳を向けて問う。

 冒険者パーティのリーダーや騎士達は申し訳なさそうにするが、イド達にはあまり効果が無かった。寧ろノリスには逆効果で口元を抑えていた。他の者達はあまり期待出来ないかと代表してイドが問いに応える。


「お嬢ちゃん。俺らには『理由』が無いからな。」


「人を助けるのに『理由』が必要なのですか?」


 イドの返しに負けじと挑発するように、領主の娘は反発する。それでもイドは慣れているようで、全く気にせずに否定する。


「違う。俺らの命を賭ける『理由』が無いのだ。お嬢ちゃん。

ただ助けるだけなら、もうやってる。」


「こ、この人達は他の人達の野営準備や食料支援をしてました。それは俺達も同じです。

助け合えるのなら、助け合う。

で、ですが、戦闘となると話は別です。俺達は護衛依頼もありますから、それを放棄する訳にはいけません。」


 領主の娘に対して不遜な態度を貫くイドのように……と流されること無く、冒険者パーティのリーダーは恐る恐る言葉を選び、イドのフォローと自分達の理由も伝えた。更に……


「お嬢様。我らもお嬢様の身の安全が第一なのです。絶対に危険な目に合わせる訳にはいきません。万が一、怪我でもされたら、領主様に何とご報告すれば良いのでしょう?

今回は護衛としての最低人員しか居ませんから、尚更危険は避けるべきだと我らは思います。」


 隊長格風の騎士までもが領主の娘に懇願していた。


「……と、いう訳だ。

正直、俺らは他の者達の決定にあれこれ言うつもりも無いし、俺らをどうこうしようとしない限りは、好きにすれば良いと思う。

お嬢ちゃんがそれでも納得しないなら、この騎士様達に命令すれば良いし、勝手に街へ向かうのも、一向に構わない。それで襲われても自業自得だしな。」


「少し言い過ぎですよ?ですが、間違いではないですよね?

貴方は今、騎士様に守られています。その騎士様を、貴方の『他の人を助ける』という素晴らしい精神で危険に晒すのですか?

それよりもまず貴方を守っている騎士様を助けようとは思いませんか?

守られているのならば、そのことを一度よく考えてみてください。

勿論、ここで一晩野営するのであれば、私達も手伝いますから是非言ってください。」


 あくまで不遜な態度を貫くイドをサウルがたしなめて諭すようにまとめた。


 そのお陰で、若干顔が強ばっていた領主の娘も、落ち着きを取り戻し、従者や騎士達と向き合って相談をし始めたので、イド達と冒険者パーティのリーダーは話し合いは終わりにして解散した。

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