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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
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第28話 野営

 それから二、三時間程経過して、ノリス達の野営場所は人で溢れていた。


 最初に合流した商人と護衛の冒険者達以降、さらに二つの商人と護衛の組み合わせが合流し、二つの定期相乗り馬車も加わった。

 人が増える度にノリス達は積極的に野営拡張をして合流する人達を助け、待機すると食料が心もとないグループには自分達の食料を分けたりもした。ノリス達はそれぞれが元Sランク冒険者であった為、実は個人でいくつものマジックバッグを隠し持っている。なので食料も相当余裕があり、他のグループから不審がられない程度の量ではあるが、全く問題なかった。


 結果、三十人以上の集団になった。その内、ノリス達を含めて冒険者も半分は居た。

 全員で進めば突破出来る可能性もあったが、誰一人としてその提案はしなかった。残りの者達は戦えない者達であり、ノリス達以外はその護衛でもあったからだ。無理に突っ込んで怪我でもされたら、後で色々と問題になってしまう。

 無論、ノリス達が真の力を発揮すれば容易いのだが、これっぽっちもする気は無かったし、他の者達からはあくまで他所から来たEランクの冒険者パーティでしか無いので、戦力としてはアテにすらされていなかった。その分、ノリス達は野営拡張や食料を分けたりもしていたので、どのグループからも友好的な対応をされていた。


「しかし、アレだな。こういう時、一番頼りになりそうなはずなのに、一番使えないのは問題だろ?」


「仕方が無いだろ!」


「アハハッ。鎧を譲らなければ良かったんじゃないですか?それか、イドが作ってあげたらどうですかね。」


「……どんまい。」


 ノリス達四人の中で一番力が強いのは盾で全てを受け止めるノリスである。こういう助け合いの際、特に野営準備等の力作業では、とても役立つ存在でもあった。

 しかし、世の中には性別が存在する。『男』と『女』。ノリスにとっては『男』と『生ゴミ』。どちらも等しく存在していた。その結果、二つの定期相乗り馬車に乗車していた中に『生ゴミ』が数名、更には後半に合流した護衛の冒険者パーティにも『生ゴミ』が居たため、ノリスは役立たずになった。

 とはいえ、ノリスがそうなる事はイド達三人は織り込み済みであり、冗談程度にしかいじらない。無理して治るものでもないし、最悪の事態になっても面倒なだけだ。それに、何もノリスだけが異常ではない。イド達三人も形は違えど、それぞれに抱え込んでいるものがあるからだ。寧ろ、関わり合いを持とうとしないノリスが一番可愛い度合いなのかもしれなかった。


 四人の中で、ぶっ飛んだ力を持つノリスではあるが、イド達三人も普通より力を持っている。でなければ、Sランクの壁役は到底務まらない。なので、例えノリスが戦力外になろうとも、三人だけで十分支援出来ていた。



 そうして、もう少しで陽が暮れだす雰囲気が漂ってきた時間帯に、更に追加の一行が集団野営場所を通りかかった。野営準備をしながら、その一行を見た者達は皆一様に驚き焦り、ギョッとした。


 豪華な馬車に身なりの良い御者、更には護衛として馬に乗った甲冑騎士が数名。どう見ても馬車の中に居るのは、お偉いさんか貴族だった。


 驚いた理由は誰もが、この一行が賊の標的なのではないかと疑ったからだ。街から来る者達を狙っていると聞いてはいるが、ノリス達は所詮余所者であり、半信半疑に陥っていた。少しざわついた空気の中、フォローしてくれたのは、最初に会った護衛の冒険者パーティで偵察をした者からだった。


「大丈夫だ!皆が思っている可能性は低いだろう。現に俺達は監視されていない。

もしこちらから標的が来るとしたら、ココにこの人数が居るのだ。普通なら常時監視の目があってもおかしくないんだ!」


「確かにな。とにかく話し合ってみるか。」


 どうやら、イドが感心しただけはあったようで、ノリス達が最初に会った護衛の冒険者パーティが今居る中で一番強く、冒険者のランクとしても高いようで、彼らが代表して豪華な馬車を護衛する甲冑騎士と話し合いをしてくれるようだった。あくまで形式上Eランクパーティのノリス達はそれならよろしく!と対応をお願いして、自分達の野営場所でくつろいでいた。


 甲冑騎士達と冒険者パーティが話し合って三十分程経った頃合いに、何故か話し合っていた冒険者パーティのリーダーがノリス達のもとへ来た。


「すまないが、あの方達と話をしてくれないか?」


「どうしてだ?俺達が話したところで何かが変わるとも思えないが?」


「本当にすまない。信じてもらえなかった。いや、信じたくないのかもしれない。」


「意味がよく分かりませんね。別に私達の言葉を信じられないのなら、それはそれで構いませんよ?それなら、無視してそのまま街まで進めば良いだけですしね。」


「確かにその通りなんだが……だからと言って、『はい。どうぞ。』とは、とてもじゃないが言えなかった。

それにあの方達は、そもそもアンタ達を疑ってしまっているんだ。俺達も色々伝えたんだが、あまり効果は無かった。

だから、直接会って話しをした方が、あの方達にもアンタ達にも良いと俺は思う。」


「なるほどな。馬車に乗っている人は相当な人物ということか。それこそ狙われてもおかしくない程のか。

そして、俺らは襲撃する者達の仲間だと思われていると?そうなると断る選択肢も無さそうだな。」


 リーダーの言い方から、【この先に危険が待ち構えているのを知っていて止めなかった。】もしかしたらそれだけで罪に問われるかもしれない人物が乗っているらしい。イドの説明通り、ノリス達は全員理解し、リーダーもその通りだと頷いた。

 更に、襲撃者達の仲間だと思われてしまっていた。そうなるとノリス達の説明は聞く耳を持たないだろうし、気にせず進もうにもノリス達が後ろから挟み撃ちにするのではないかと警戒されてしまう。いや、既に警戒しているのだろう。だから、話し合いを断ってしまうと完全に敵対行動と認識されるだろう。


「ああ。俺も同席して出来る限り擁護する。」


「貴方は私達を信じるのですね?正直、そちらの方が驚きですよ。」


 リーダーはノリス達をフォローしようと今まで努力もしてくれていたようであるし、これからも一緒に来てくれもするようで、サウルの驚きはノリス達全員の感想だった。


「アンタ達が賊と話し合った内容を信じている訳じゃない。俺は、俺達の仲間が見て、感じてきたものを信じているだけさ。

アイツがそう言うなら、それは正しい道だってことだ。俺達はそうやって生き延びてきたからな。」


 リーダーは偵察してきた者を信じているようだった。


「ほぅ。良い仲間だ。それでこそパーティだな。」


「アンタ達だって、そうだろ?」


「フッ。まぁな。」


「そうですね。あまり楽しそうじゃないので行きたくはありませんが、貴方に迷惑をかけたくありませんし……皆さん、行きませんか?」


「……うん。行ってすぐ終わらせよう。」


「だな。それで馬車に乗っている相手は結局誰なんだ?」


「行けば分かるが……いや、この辺りの人じゃないのだったな。

乗っているお方は、この先の街の領主の娘……貴族の御令嬢様だ。別の街で開かれた交流会の帰りらしい。」


「マジかよ!?」


「馬鹿な!俺らは面倒を回避する為にココで待機しているのだぞ?」


「……面倒が転がってきた?」


「ハハッ……強引に突破した方が良かったかもしれませんね。」


 ノリスはまた『生ゴミ』と関わるのかと嘆き、イドは待機した理由である面倒事を回避した意味を自らに問いただし、エストは訳の分からない言い方で現実逃避し、サウルはここまで引き返した過去を悔やんだ。

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