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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第二章
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第27話 足止め

「悪いが、ここは通行止めだ。」


 賊の集団の恐らく纏め役の一人が前に出てきて、そう言った。


「そうか。この先の街まで、他に迂回路はあるか?」


 代表してノリスが纏め役に尋ねる。


「いや、無いな。」


「……そうか。」


 賊の集団はかなりピリついているようで、纏め役と対応するノリスや、イド達ももしもの場合に備えてすぐに動けるように体制を整えた。それが尚更、賊を刺激してしまい、一触即発の状態にまでなった。しかし、纏め役が彼らを抑え込む。


「待て!お前達は、こんなところで散らすつもりか!?

すまない。アンタらとやり合うつもりは無い。」


 纏め役の一喝に集団の殺気は霧散した。一喝のセリフ内容で、ノリス達はなんとなく想像がついた。


「なるほど。理解した。

俺達は少し引き返して、あの草原辺りで通行出来るまで待たせてもらうぞ?」


「ああ。そうしてくれるとありがたい。」


「それで?どのくらい待てば良さそうだ?」


「そう長くは無い。明日か、遅くとも二日だ。」


「了解した。ちなみに、俺達と同じ方向から来るのか?」


「……逆だ。」


 渋々と言った感じで、纏め役は情報をノリス達に伝える。流石に情報を漏らし過ぎだと他の賊から纏め役を非難する声があがっていた。


「お、おぃ!?そこまで喋って良いのか!?カシラに怒られても知らねえぞ?」


「構わん。そうだろ?」


 しかし、纏め役もノリス達の事を十分に理解していて、非難の声などどこ吹く風とばかりにぶっちゃけた。


「ああ。俺達に無関係であれば、邪魔するつもりも無い。

そうだな。もし、同じ方向から来る人が居れば、注意して同じように待機を薦めておくさ。」


「それは助かる。な?大丈夫だろ?」


「「……。」」


 纏め役が苦笑しながら肩をすくめると、他の賊達も押し黙って、ノリス達への警戒心もかなり緩んでいた。

 ノリスは馬に指示をだして、その場でゆっくりと反転し、引き返す。別れ際、またもエストが賊の人達に向かって手を振っていた。


「……頑張ってね!」


 エストの激励に賊達は若干ポカンとした顔をしながら、馬車に揺られて手を振るエストを見送った。




 ノリス達は暫く来た道を戻ると、付近に幅は狭いが丁度良い感じの小川も流れている場所があったので、そこで野営の準備を始めた。それぞれが手際良く動き一時間もしない内に、ある程度は過ごしやすい野営場所になっていた。

 馬達を休ませながら、ノリス達も沸かしたお茶を飲みつつ一休みする。


「ふぅ。しかし、こんな場所で足止めとはな。」


「まぁな。だが、逆で良かったじゃないか?」


「そうですね。こちら側からなら巻き込まれそうでしたからね。」


「……面倒は勘弁。」


「そうだな。急ぐ用もないか。」


 ノリス達はこの場でのんびりしようと考えていたが、同じように街へ向かう者達がすぐに通りがかった。商人風の男が手網を握る荷馬車とその周りに若い冒険者パーティが一組。商人とその護衛だろう。

 そんな若い冒険者パーティから、先に声をかけられた。


「アンタら、こんな場所でこんな時間にもう野営か?もう少し進めばすぐに街だろ?」


「ああ。丁度良い。

この先の森で賊の一団が網をはって待ち構えているぞ?俺達が行ったら、暫く通行止めだとよ。だから、引き返してココで通れるまで待っているのさ。」


「なんだって!?」


「どうやら街から出てくる何かを狙っているようだったな。」


 大店の商人一行なのか?何処ぞの貴族様なのか?それはノリス達に判断しようが無いが、街からこの道を通る一行の情報を得て、彼らは襲撃する予定らしい。余程の利益があるのか、しっかり計画まで練られている。だから反対側から来るノリス達のような人を遠ざけていたのだ。


「じゃあ何でアンタらはそんなにのんびりしているんだ?」


「俺達はこの辺りの土地勘がまるで無いからな。

先の街へ行く道をここしか知らないんだ。明日か明後日には通れるみたいだから、それまで待つつもりだ。」


「分かった。少し隣を借りていいか?俺達も相談しなければいけなくなった。」


「ああ。元々そのつもりだ。待つなら一緒になっても構わないさ。」


「すまん。助かる。」


 若い冒険者パーティのリーダーらしき男は、感謝を言って、仲間や商人と相談しだした。その相談も数分で終わると商人が手綱を操作して自分達の荷馬車を、ノリス達の荷馬車の隣につけた。冒険者パーティも軽く野営の準備をしていたが、その中の一人が急に気配を消した。


「ほぅ。中々に良いウデだな。」


「イド。そこは黙っておく方が良くないですか?」


「まぁ俺達と敵対する訳でもないし、純粋に褒めただけだろうさ。」


 恐らく気配を消した一人は、俺達の証言を確認しに森へ偵察に行ったのだろう。気配の消し方にイドは感心したが、消したのがバレバレだと言っているようなものだからサウルは苦笑し、ノリスがフォローしていた。


 三十分程経って、偵察に行った冒険者が戻ってきた。


「彼らの言ってた事は本当だった。かなりの人数を揃えていた。更に監視の奴らの奥には、いつでも道を塞げるように、いくつかの木が倒れる仕掛けもあったから、突破は厳しいだろう。」


 偵察した冒険者は俺達にも聞こえるように報告した。


「なあ。商人も居るようだし、アンタ達はこの辺りに詳しかったりするのか?

それなら別の迂回できる道があったりしないのか?」


「難しいですね。かなり戻れば森を迂回する道もありますが、最短でも街まで二日はかかると思います。」


 イドが確認すると、冒険者ではなく商人が応える。


「なるほどな。だとすると、やはり何もせずに待機が一番無難か。」


「そのようですね。しかし、本当に街から来るものを待ち伏せているのでしょうか?」


「多分な。俺と話していた纏め役は、俺達がこれに巻き込まれるのを嫌がる余所者だと理解して教えてくれたんだ。こちら側から来るようだったら、俺達がこんな場所に居ては邪魔になるだろ?」


「確かにそうだな。おぃ!見てきてどうだった?」


「彼らの言う通りだと俺も思う。こちら側はあくまで監視や足止めが主体の人員配置だった。」


 そうして、商人と若い冒険者パーティも再び相談をしだして、結局ノリス達とこの場所で一晩過ごすことに決まった。


 これから誰かが襲われると知っていても、誰だってまずは自分の命が第一なのだ。


 こちら側から賊の襲撃を伝える術もない。下手に狼煙みたいなものでも焚こうものなら、確実にこちらが襲われる事になるだろう。

 賊が予定している襲撃対象すら、こちら側に居ては判断できない。もしかしたら、賊が正義の場合もあるかもしれない。ノリス達も合流した商人達も、動きようもなかったし、動くつもりもなかった。

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