第23話 亀Ⅱ
俺は幸せを手に入れたのだろうか?
『男』と『生ゴミ』しか居ない世界で、自らも滑稽だと思うような頭皮を晒して……。
これが俺の幸せなのだろうか?
それでも冒険者として、最高到達点である『英雄』、Sランクになった。普通に考えても人生の成功者だ
ここまで来るのに、道半ばで散っていった者達を沢山見てきた。彼らを想えばこそ、「俺は不幸だ。」とは絶対に言えなかった。
思い描いていた未来に近いはずなのに、何かが違った。『俺はワガママなのか?』と悩んだ事もあった。
だけど、立ち止まれない。『英雄』になり、『英雄』として、『英雄』であるのだから。
俺はアイツを護る盾だ。誰にも、俺自身にも壊れる訳にはいかなかった。
だからこそ、ハゲた姿をアイツが見たら悲しむだろうし、他の仲間に見られても面倒だと確信して、俺は同じパーティ内だけの時も、アイツと二人の時でも、鎧やヘルムを脱がなくなった。
ハゲは更に進行した。
それからもなんだかんだ色んな事が起き、色んな魔物と戦い、時には人とも争った。その全てから俺は盾として仲間を、アイツを護りぬいた。
俺は盾だ。盾だからこそ、余計な事を考えるのをやめた。最初の想いからそれだけは変わらない。そして、アイツも同様に俺達の道を切り開いていく剣だった。それで良いと思っていた。
「お前達は一見すると、今にも崩れそうな脆弱なパーティに見える。
そして何度か見れば、ロンがパーティの要になっていると気づくのだ。
だから全ての者達がお前をどうにかしようと躍起になる。それら全てを受け止め、跳ね除けた。
砂上の楼閣だと高を括っていたのが、その砂は何よりも堅く、欠片も崩れなかったがな。」
「買いかぶりすぎだな。
盾が壊れちゃ不味いだろ?それに言う程無茶な攻撃も無かったぞ?」
「フッ。自覚無しか。
だが、ある程度の経験がある者ならば、皆そう思っているぞ?
お前達はロンが居てこそだ。まさに『玄武』だな。」
「違うな。ルースも皆も、何も分かっていない。
俺は盾だ。そんな盾を十分に使いこなしているのが、俺達のリーダーでもあるアイツなんだ。
ルースだって、この前愚痴ってただろ?どんなに道具が良くても、それに溺れること無く研鑽を積み、自身も高めるのが重要だと。
それと一緒だ。例え俺が凄いとしても、それを使うアイツが居てこそだ。」
「なるほどな。確かにそうかもしれん。
しかし、ヤツはまだマシだが、他のアレはどうにかならんのか?」
「『生ゴミ』に何言っても無駄だろ?
それを言うなら、ルース。お前のところも自慢ばかりでヤバいぞ?」
長くSランクを続けていると、他者との交流もいくつかできた。そんな中に、俺達が目指していたイド達も居た。
イド達が東で名を挙げ俺達は北だったので割と近く、一緒になる機会が度々あり、ちょくちょく会話するようになり、お互いに壁役だったことで意気投合し、数年もすれば親友のような関係にまでなっていた。
普段、鎧をひたすら着ている影響で、俺は私服と帽子を被りさえすれば街を歩いても誰も気づかれなかったが、イドは元々顔を隠していなかったので気の休まる場所を探すのが大変そうだった。なので、互いに会う街ではイドがどこからか探し出した、少しボケた老人が営む飯屋など隠れ家的な場所にこっそりと入り、そこでもバレないように略称で呼び合い親交を深めた。
同じSランクとして、同じ壁役として、更に同じハゲとして……アイツとの関係とはまた違った意味で、イドとは親友になった。
その頃ぐらいだろうか?『朱雀』や『白虎』の噂も聞くようになっていて、俺やイドもたまにそちら方面へ行く時は探してみたり気にしたりしたが、会う機会はほとんど無かった。俺とイドの関係もそうだが、俺達は元々イド達を目標にしてきた。だから、アイツもイド達と良好な関係を築いていたし、イドもアイツにはSランクパーティのリーダー同士として結構気軽に話していたこともあり、度々一緒になるのではなく、計画的に一緒になっていたりもしていた。
後々、サウルとエストに話を聞けば、彼らも似たような理由により、俺やイドの方面に行く機会があまり無かったそうだ。
その後も色々な事件に巻き込まれつつも、経験を重ねて、日々生き抜いていった。
そろそろ引退も頭をよぎる年齢になってきて、されど年上のイド達はまだ健在だったので、「彼らよりも先に引退は出来ないな」とアイツと笑いながら話し合ったりもしていた。
しかし、色んな障害を乗り越えてきた割に、俺達の終わりは酷くあっけなかった。




