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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
幕間 亀
22/104

第22話 亀

 俺は産まれが特別だった訳じゃない。


 何処にでも居るような両親から、何処にでもある村で、普通に産まれ、生きていた。


 ただ、ほんの少しだけ人よりも体が大きく力が強かった。だから農民にはならず、村を出て、冒険者になる事を決めた。何処にでもある普通の話だ。


 冒険者になってから、壁役……特に盾を扱うのは気に入った。サウルに話すとガチギレするから言えないが、才能や素質があったのだろう。俺に……俺達にもそうだが、特にサウルにとって、その言葉は呪いみたいなものだからな。


 そして、俺はアイツと出会った。


 今思い返しても、あの出会いが良かったのか悪かったのか分からない。アイツのせいで俺はこうなったとも言えるし、アイツのお陰で俺は今もこうしていられるからだ。

 もっとどうしようもないクソみたいなヤツだったら違ったのかもしれないが、アイツはとても良いヤツだった。優しく、真面目で、人当たりも良く、頼りがいがあった。同じ男の俺ですら外見も内面もカッコイイと思ってしまう、まさに物語の主人公だった。

 そんなアイツと、ふとした事がきっかけでパーティを組んだ。俺はパーティを、アイツを護る盾であり、アイツはパーティの、俺達の道を切り開く剣だった。当初、俺達は本当にうまくやれていた。冒険者として楽しかった記憶はその頃から少し経ったまでだったのかもしれない。


 男の俺でさえ尊敬するアイツだ。だから、女は特にホイホイ寄ってきた。アイツの唯一の欠点をあげるとするならば、女の押しに弱いところだった。だが、適当な女なら当時のパーティメンバーや俺があしらったり、遠ざけたりしてやりすごせていた。


 だけど、高名な森の魔女がアイツに惚れてから、俺達の空気はガラリと変わった。


 強引にパーティへ加わり、こともあろうに役割が被っているからと魔法使いだったメンバーを追い出した。これには他のメンバーも激怒して、魔法使いの後を追うように抜けていった。俺はアイツの悲しそうな顔を見てしまい、抜けるに抜けられなかった。今思えば、このタイミングでしか抜けられなかったのだろうな。


 その頃にはアイツとの連携にも慣れており、強力な魔法を使う魔女は、抜けたメンバーの穴を簡単に埋めてしまった。


 これから三人でパーティを組んで活動するのかと思っていたが、良くない流れは止まらなかった。どうやったらそうなるんだ?と不思議な出会いが重なって、弓の扱いに優れたエルフ族の族長の娘が、更には支援魔法を使う何処かの国の王女までもがアイツに惚れこみ、パーティに加わった。

 この時点で、俺はパーティを抜ける選択肢が完全に閉ざされた。


 だってそうだろ?アイツの出自はともかく、アイツに惚れ込む相手の立場がどれも強烈だ。更にパーティ構成的に壁役は必須であり、代わりたいと名乗り出る者が誰一人現れなかった。羨ましいと言われた事すら無い。寧ろ、他の冒険者達からは同情された。三人の女が加わってからというもの、それこそ何処でもどんな時でも女共がアイツにベタベタしていたからな。


 俺は殻に閉じこもった。


 丁度良く俺は壁役であり、仲間を護る役目もあったので、頑丈な全身鎧で重装備し、ヘルムもしっかり被り、ヘルムの狭いスリットからしか見えない世界に篭った。アイツとも色々話し合った際には、本当に申し訳なさそうにして鎧の代金を半分以上も負担してくれた。そんな良いヤツだったからこそ、俺は泥沼にハマったんだ。


 五人が揃った時、まだ俺達は低ランクの冒険者だったから、俺達が居た冒険者組合では真っ先に死ぬだろうパーティとして有名で、あと何日で崩壊するか?賭けの対象にもなった事があった程だ。

 だが、そうはならなかった。魔女とエルフが元々強かったのもあったが、俺やアイツ、王女も見返してやろうと必死で努力して、経験を積み、ランクを駆け上っていった。俺以外のメンバーは休息の度にイチャイチャしていたがな。


 駆け上る途中ぐらいで、俺は今のイド……ブルースの存在を知った。


 あの頃のイドは、既にAランク冒険者であり有名で、『清流』の二つ名も持っていた。その『清流』という二つ名から、確かパーティ名はその当時違った名前だったはずだが、人々は『青龍』と呼び広まっており、イド達のパーティがSランクになった時にパーティ名を正式に『青龍』へ変えていた。

 そんなイド達を知って、俺達もパーティ名の話になった。アイツは俺に気を遣って、「誰にも何にも壊せない盾として、俺達を護り導いて欲しい」という想いと、「彼らに負けないように頑張って行こう」という決意を込めて、『玄武』に決めていた。

 パーティ名だけは珍しく、女達の反発を抑え込んでまでアイツは意見を押し通した。アイツにとって同性の俺は、居ないと困る存在だったのかもしれない。それこそアイツが言うように、まさに誰からも壊されない絆としたかったのだろう。お陰で、俺はより逃げられなくなり、女達からの風当たりも強くなった。無理矢理押し通した反動で、アイツはより女の押しに弱くなって、女達は更に調子に乗った。


 そして俺は、少しずつおかしくなっていった。


 俺達がAランクに上がりそうになってきた時、もう組合内で馬鹿にされることもなく、逆に期待の新人扱いで称賛されるようになっていた。

 それから、アイツは既に三人の女が居るのもあって、周りの女はフリーな俺に群がるようになった。女共が我先にと色目を使ってくるんだ。まるでなりふり構わずアイツに言い寄る三人の女のようだった。周りの者達の盛大な手のひら返しと合わさって、あまりにも気持ち悪くて、何度も吐きそうになったし、実際に何度も吐いた。


 俺に触れられるのも嫌だった。だから、閉じこもる殻をより強固に頑丈にしていった。


 全身鎧のつなぎ目すらも鎖帷子で覆ったり、手さえもすっぽり被せる金属製の手袋にした程だった。ヘルムを外す時間もほとんど無くなった。


 いつの間にか、俺の盾は仲間を護る盾であり、俺の鎧は俺を女から護る盾になっていた。


 もうこの頃から女を女として見れなくなった。だが、まだ地獄には先があった。


 俺達がAランクに上がったら、やたら何がしかのパーティーに呼ばれ、今度は一般人では無く、お偉いさん関係が増えた。俺が年頃の女性は好みじゃないとでも思ったのか、幼女や熟女、老婆までもが俺に群がってきた。


 全ての女が『生ゴミ』に変わった。


 最終的に男色かと思われそうなところで、性欲も無くなった。


 自分の部屋で独りで食事する時と、独りで寝る時以外、鎧を脱ぐ事もヘルムを外す事も無くなった。



 そして、ひたすらヘルムを被っていた影響で……



 Sランクに上がる頃には、俺はハゲていた。

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