第2話 週末のひととき
『ダンジョン』
いくつもの階層に分かれ、魔物が発生する魔訶不思議な空間。
人にとっては危険極まりない場所ではあるのだが、ダンジョンに居る魔物を倒せば、色んな用途に使える魔石が手に入ったり、お宝や貴重なアイテムを手に入れたり出来てしまう。危険だと知りながらも、そんな甘い蜜に誘われて、人はダンジョンに吸い寄せられていく。
危険よりもその旨味に味を占めて、冒険者以外の人も集まってその方が便利だからと、ダンジョンの周辺に生活環境も整えだす。次第に発展し、寄合所から村へ、村から街へ、どんどんと増えていく。ダンジョン内の魔物が異常発生する時もあるのだが、それさえも人が多い方が対処しやすいと思い込み、発展も加速する。
未確認や突然発生したもの以外のダンジョンほとんどが、その周囲に都市が形成されていた。
ノリス達が居る街にもダンジョンがあった。
その街のダンジョンは他と比較すると低階層で全五階層しか無く、発生する魔物も、多少派生はするがいわゆる雑魚である【ゴブリン】しか出なかった。ある程度、冒険者として経験を積んでいれば二~三日もあれば踏破してしまうような簡単なダンジョンであった。
ダンジョンは場所により難易度が違う。
この街のダンジョンは超初級と言っても過言では無かった。しかし、簡単だからこそ需要はあった。冒険者になろうと決意する者達が集まり、それに関連する人々も集まる。
高難易度のダンジョンに初心者が挑むのは、よっぽどの馬鹿だろう。高難易度ダンジョンがある都市には、経験豊富な数少ない冒険者しか居ない。それは何も冒険者に限った話でもない。商人、鍛冶師、薬師……。どの世界でも、ピラミッド状に強者は一握りの者達で、弱者になればなるほど人数は増えていく。一段でも上に登るのを夢見ながら……。
では、ノリス達が居る街は人が溢れんばかりか?と言うとそうでもない。
先程の通り、超初級のダンジョンだ。数人で無難なパーティが組めさえすれば、初心者だとしても二週間程で卒業していく。冒険者の回転率が恐ろしく早かった。ノリス達がこの街で週末に活動し始めてから、二週連続で鉢合わせた者達はほぼほぼ居なかった。会うとしても、ノリス達と同じように趣味でダンジョンに潜っている冒険者達ぐらいだった。
ノリス達はその街を拠点とした。四人一緒に住める家を借りていた。
宿暮らしも可能ではあるが、周りの冒険者の大半が、若くやる気に満ち溢れ、夢見る駆け出しの者達だ。そんな若者達と同じ宿に、のほほんとした中年冒険者が居たら、必ず面倒事になる。趣味で活動できることから現状余裕もあり、ノリスとイドがお金を出し合って、広々とした家を借りた。
平日は四人共、その家でそれぞれの仕事をする。
ノリスは家の一画に火事場を作り、剣を打つ。
イドは作業台で魔物の皮をなめし、防具を作る。
サウルは庭に畑を耕し薬草を栽培する。
その薬草をエストが調合して薬を作る。
四人共、その才能が突出してある訳でもない。なので、それぞれの出来上がった物の性能は良くて普通だった。寧ろ、この街では大半の冒険者が駆け出しの初心者なのだから、それで充分なのだ。
性能の良い物を作っても、絶対に売れるとは限らないのだ。駆け出しが大金を持っているケースがまず珍しい。仮に購入出来たとして駆け出しがそんな物を持っていて目立たない訳が無い。この街を卒業して、次の街にステップアップした瞬間に、その街の先輩達からカモられる可能性が高い。少し考えれば誰もが気づく。
武器や防具、アイテムの性能で魔物を殺し、上へと駆け登る者は、そのほとんどがあっさりと人によって殺される。ある意味、魔物よりも人の方が格段に恐ろしいのだ。
そんな訳で、ノリス達は普通の性能の物をある程度数を作成したら、武器屋・防具屋・薬屋へ安い値段で納品しに行き、その帰りに更に安い値段で素材を買い付けて、また作成する。その繰り返しの日常だった。
稀に武器屋や防具屋から修理やメンテを依頼される事もあるが、物が物だけに、新しく買った方が良いので本当に極稀だった。
そんな稼ぎで大丈夫なのか?と突っ込まれそうだが、素材は鉄や皮ぐらいで、サウルが薬草の株分けが出来る為、薬関係の買い付けが無く、四人が普通に暮らせるだけの稼ぎははじき出していた。
地味な平日を仕事をこなして過ごし、平日が終われば、また日は巡る。そして、彼らが待ち望んでいた日がやってくる。彼ら冒険者パーティの名前の通りに……
『週末のひととき』
それを楽しむ為に、ダンジョンへと向かう。