第17話 鎮静
休憩が終わり、方針も決まったので、通路での攻防が再開された。
ノリス達は変わらずに、先程までと同じ事の繰り返し。そこにドバン達の魔石拾いが加わった。
壁の魔石はドバンの風魔法でみるみると無くなっていったのだが、あともう少しという段階で、ドバンは魔力切れを起こしダウンした。
ドバンを簡易トイレ近くで寝かせ、アレク達三人で魔石拾いを継続した。
壁の魔石は大半をドバンが処理してくれたのだが、ゴブリン共はまだまだ大量に居る。ノリス達のように驚異的な体力を持ってる訳じゃないので、アレク達は休みながらもある程度魔石が溜まったら集めてマジックバッグに入れる作業を繰り返した。
アレク達の後方まで退けるのは、引き続きエストが担ってくれたので、腰を痛めつつもなんとかやれていた。
そうして一時間程……
「おっ!?皆、朗報だ!減ってきてるぞ!」
ゴブリンの大群を止めるノリスから、全員に聞こえるように大声で、嬉しい悲鳴があがった。
更にもう二時間後……
「恐らく半分ぐらいだ!あと少しだぞ!!」
ノリスはそう言うが、アレク達にとっては、今までで三時間。更に後三時間も魔石拾いをするのかとうんざりしていた。しかし、イドからフォローがあった。
「折り返しじゃないぞ?
ノリスの抑える分担が減るのだからな。殲滅速度も上がるから、もう少しだ!」
イドの言う通り、一時間もすれば、ゴブリンしか見えなかった通路の奥も見えるようになり、ノリスは抑え役を担いつつも、片手は剣を持ち、殲滅に加わった。
その三十分後には、一体のゴブリンと相対していた。
「ふむ。上位種とはいえロードではなくキングか。ノリス、俺が行こう。」
「……僕も!サウルは休んでて。」
ゴブリンキングの猛攻を無手のイドは綺麗に華麗に受け流す。恐ろしい速度で襲いかかるゴブリンキングの剣筋を見切り、手を触れて速度を増やしてあげているようだった。
当然、自分の力以上の速度で振り回す剣は制御を失い、ゴブリンキングは腰を捻り過ぎて痛め、肩を外し、自らの足すらも切り刻んでいた。
動けなくなったゴブリンキングの背後にいつ間にかエストが居た。ゴブリンキングの背中に張り付くようにくっついて、ゾワゾワと頭まで登る。そのまま両手にそれぞれ持ったナイフでゴブリンキングの頭を切り裂き、跳ね飛ばした。
ゴトッとゴブリンキングの岩のような大きさの魔石が転がる。
『ダンジョンの怒り』が終わった瞬間だった。
「よしっ!やっと終わったな!」
「うむ。これで一件落着だ。」
「ふぅ。疲れたけれど、結構楽しめましたね!」
「……うん!クフッ。仲間だね。」
「アハハッ。エスト。その通りですね。
ノリス、イド。今更ですが、ありがとうございます。本当に私達を誘ってくれて。」
「……うん。久々に笑えた。」
「気にするな。サウル、エスト。俺達は皆同じだろ?」
「そうだな。こういうのも悪くない。」
「ハッ。イドちゃんは、ツンデレですねぇ?
何が……『こういうのも悪くない。』だ?口がニヤけてますわよ?」
「この脳筋が!
サウル、エスト。間違ってもこんな風になるなよ?」
「アハハッ。大丈夫ですよ。私達はノリスのようになれませんから。」
「……うん。僕らは、それぞれ。」
「そうだったな。ともかくお疲れ様だな。」
「おうよ!お疲れさん!」
「はい。お疲れ様でした。」
「……うん。早く帰ろう。」
ノリス達は未だに元気で、ワイワイと四人で拳をぶつけ合ってお互いに讃えあっていた。
その光景を魔石拾いだけで体力を使い果たし、ぐったりしながらもアレク、エッジ、ゲインは見つめる。その眼差しは羨望の色が強かった。
エストの言うようにノリス達は早く帰りたかったが、ダウンしたドバンや、疲労困憊のアレク達が居た為、彼らが復活するまで少しだけ休憩してから、ダンジョンの入口へ帰ることになった。
エストの調合した薬を皆で飲みながら、『ダンジョンの怒り』が今さっき終わった為に一匹もゴブリンが出ない通路をワイワイとしゃべりながら帰った。
「それにしても、只者じゃないとは予想していましたが、皆様強過ぎじゃないですか?」
「うん?ドバン殿から俺らの事を聞いてないのか?」
「組合長は何も言わずに俺達を拉致し、ここまで連れて来させられました。」
「ああ。そいつは可哀想にな。
でも、褒美は皆から後でいくらでもくれるはずだ。」
「え?それはどういう事ですか?」
「私達の依頼の報酬は、【私達の素性を黙っておくこと】です。
だから、代役はアレクさん、エッジさん、ゲインさんになるのですよ。」
「……キング討伐おめでと!」
「んなっ!?俺達が?」
「そんな馬鹿な話があってたまるか!」
「そうは言ってもな。ドバン殿はそのつもりだろ?
まさか、無下にはしないよな?これはドバン殿からの依頼だ。俺らは完遂した。後は……。」
「分かっておるわい。
お前達もすまんが合わせてくれ。この方達にとって、それが何よりも報酬になるんじゃ。」
「ですが……他人の功績を横取りするのは、流石に……。」
「そうですよ。俺達ではキングは厳しい。戻った時に彼らが倒したと一目瞭然じゃないですかね?」
「だな。皆から疑われるかもしれん。」
「エッジとゲインの言う通りで……」
「ハハッ。ありがとう。アレク、エッジ、ゲイン。
それだけで十分だ。俺達が拠点にしたこの街に、三人が居てくれて本当に良かった。」
「そうだな。そこは素直にノリスと同じ気持ちだ。」
「ええ。そうですね。
ですが、私達からもどうかお願いします。
アレクさん。気づいてますよね?私達はどうしてもEランクから上がりたくないのです。」
「……お願い。」
「「……。」」
ドバンのみならず、偉業を達成した当人、サウルやエストからもお願いされて、アレク達は何も言えなくなった。
『ふむ。何故そうするのか?どの道すぐに分かるだろうさ。』
イドの呟きは誰にも届くことなく、ダンジョンに吸収されていった。




