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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第15話 本領

 アレク達が、ドバンの発言の正否を確かめようと壁に触れる。パラパラと小さな石が壁から転がり落ちた。そのひとつを手に取ると、確かに石ではなく、ゴブリンの魔石だった。


「まさか?コレ全部が?」


 壁になる程、魔石が積まれた光景を目にし、エッジ達やドバンまでも、一体どれ程のゴブリンがココに居たのかと恐怖した。


 だけど、すぐに持ち直す。魔石になっているということは倒されているのだ。では、誰が?彼らしか居ない。でもどうやって?


「恐らく、この壁の向こうに居るはずじゃ。」


 その答えはすぐそこだとドバンは言う。

 アレク、エッジとゲインも魔石の壁をどかそうと少しずつ掘り崩していった。パラパラと魔石が崩れつつ、壁が無くなっていくに連れて、壁の先から音が聴こえてくるようにもなった。


 それはゴブリンの叫び声だった。しかも尋常じゃなくひしめき合っているだろう数の声が聞こえてきた。アレクやエッジ、ゲインもヤバいと思い、掘るのを止めて、壁から離れる。


「く、組合長。どうします?逃げますか?」


「あの声の数が突っ込んできたら、流石の俺らも無理だ。」


「……待て!少し黙っておれ。」


 ふとドバンは何か別の声を聞いた気がして、アレク達を黙らせる。暫くゴブリンの叫び声を聞いていると、小さいが男の声も聞こえた。


「嘘だろ?空耳じゃ……」


「お前達にも聞こえたな?

先へ行ってみよう。大丈夫じゃろ。あの数のゴブリンが本当にただ居るだけなら、この程度の魔石の壁なんてすぐに破られるはずじゃ。それが今も無事なんじゃ。」


 そうして、アレク達は先へ行こうと再び魔石の壁を崩し始めた。



 先が見えるようになった時、ドバン達は本当に現実なのか?と目の前の光景を疑った。



 ドバン達が見るすぐ先には、聴こえてきた通りの通路一面にゴブリンがすし詰めになって、こちら側へ向かおうとしていた。それこそゴブリンがゴブリンを踏み台にして上にも乗り上げているゴブリン達も見える。一本道の通路に上から下まで隙間なく所狭しとゴブリンが迫ってきていた。



 そんな発狂してしまいたくなる光景を、たった一人の男が止めていた。


 タワーシールドのような大きな盾を持ち、更にその盾も異様な大きさになっており、通路の横幅ギリギリまであった。


 そんな盾を両腕で、体でも支え、ゴブリン達の侵攻をガッチリと止めていた。筋肉質な体は汗で光り、服装もボロボロになっていたが、倒れる事無く今も必死に止めていた。


「あれが……噂に聞く、【盾の壁】(シールドウォール)と言うスキルなんじゃな。」


 ドバンはあまりにも常識外れな光景で、少しでも知ってる事を零さないとおかしくなりそうと思って呟いていた。


【盾の壁】(シールドウォール)?」


「そうじゃ。元の盾の形は知らんが、盾を自由自在に変形させて、広範囲を守る……あの人の有名なスキルじゃよ。」


「それが本当で自由自在なら、なんでノリスさんは上側には展開しないのでしょうか?」


「ああ!?言わんこっちゃない。登り越えられてるぞ!」


 【盾の壁】(シールドウォール)を展開している一人の筋肉質な男……ノリスは、通路幅はキッチリ盾で阻止していたが通路の高さは考慮していないのか、現に数体のゴブリンが、ひしめき合うゴブリンを踏み越えて、ノリスの盾も飛び越えて、突破しようとしていた。


 そんなノリスの少しだけ後方の左右に陣取る二人、イドとサウルが居た。


 ノリスを飛び越えたゴブリン共を、地面に降り立つ瞬間にイドとサウルが殲滅していく。ゴブリン共も負けじとイドとサウルへ攻撃を仕掛けるが、不思議な現象で返り討ちにあっていた。


 イドは無手のままゴブリン共の勢いを泳ぐようにかき分ける。それだけのはずなのに、何故かゴブリンは殲滅されていった。

 サウルはガッツリ攻撃されているというのに、何事も無かったかのように、ゴブリンの攻撃など気にせず、普段持っている鉄の剣とは違う、変わった形の剣で殲滅していった。


 ノリスにも飛び越えたゴブリンが攻撃しているが、効いている雰囲気は無い。それに何度もノリスへ攻撃する前にイドかサウルの援護が間に合い、すぐに倒されていた。


「なるほど。乗り越えてくるゴブだけを相手にする為にワザと上側を空けているのか。」


「しかし、それだと越え放題じゃねぇか?」


「いや、二人ともよく見ろ。」


 エッジとゲインの会話にアレクも入る。

 アレクが指さしたのはノリスの足元。ノリスは【盾の壁】(シールドウォール)の下側にも少しだけ隙間を作っていた。そこから、まるでメダル落としのようにジャラジャラと魔石が流れ込んできていた。


「乗り越えると言っても土や岩を越えるんじゃない、土台もゴブだ。しかもギチギチな程だろ?上から踏みつけられ、後ろからも押され、最後にノリスさんの盾に潰されて、土台のゴブが圧死しているんだ。だから、土台自体が不安定で、そこまでの数は越えてこないのかもしれん。」


「信じられんな。たった三人でこんな事が出来るなんて……」


「三人?エストは?あっ、居た!」


 エストは素早い動きで縦横無尽に移動し、ノリス達を支援していた。乗り越えるゴブリンが多ければ、イド達と一緒に殲滅し、余裕がある時は、自身をモップのように気持ち悪く……地面を滑るようにして、全員の足元に散らばった魔石を集めて後方へどかす雑用もしていた。


 その魔石をどかす場所が壁であり、現在はドバン達が居た。ドバン達を一番最初に気づいたのは当然、エストだった。


「……んむぅ?ドバン?でも、アレクやエッジ達も居る?……どうして?」


 魔石を退かして気づき、急にドバン達の前にエストが立ち、不思議そうな顔でドバンを真っ直ぐに見つめた。


「す、すまんのじゃ。ワシ一人で様子を見に来るのが不可能じゃった。」


「……確かにそうかも。誰も怒らないから大丈夫。……皆に伝えてくる。」


 エストはそう言うと掻き消えて、ドバン達が気づいた時にはサウルの隣にいた。サウルと何か話した後、エストはサウルの場所と交代し、今度はサウルが後方へ陣取り、大量の魔力を自身に込め、それを解放し、魔法を発動させた。


 淡い光が地面を走り、ノリスやドバン達をも囲み、通路一帯を強力な結界で包み込んだ。


「こ、これは!……【聖陣(ホーリーフィールド)】か?

じゃが、この強度……信じられん!!」


 ゴブリン共をも遮る強力な結界にドバンは驚愕し、目の前で起こっていることが錯覚なのではと混乱していた。

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