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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第14話 異常事態

 第三波は誰の目から見ても異常だった。


 最初は普通の第三波だったが、数百体程のゴブリンが飛び出してきて以降、ガラッと様子が変わった。


 それからは、十数体のゴブリンが断続的に入口から飛び出てくるだけ。溢れんばかりに出てくる波とは全くの別物であり、波と呼んで良いのかさえ疑問に思う程の代物だった。しかも、出てくるゴブリンはほぼ通常の一番弱いゴブリンで、たまに弓を持ったゴブリンアーチャーや剣を持ったゴブリンナイトなどの中位種が数体居る程度で、上位種が出てくる気配すらも無かった。


 これなら数組のパーティが対応すれば良いと、ドバン組合長は早々に体制を変えて、対応するパーティを交代制にし、兵士の包囲を狭めて対応する人数を減らし、ゆっくり休憩できる時間まで誰もが取れるようになっていた。


 とはいえ、飛び出るゴブリンは止む気配が無く、昼過ぎに始まったダンジョンの怒りも、陽が沈み夜になっても続いた。ダンジョン入口周辺には、篝火が炊かれ、夜通しで交代しながら殲滅を繰り返していた。


 十数体のゴブリンは、駆け出し冒険者には丁度良い修練になり、体力が回復したら、誰もが参加したがった。そのせいもあり中年冒険者達は腑抜けきって、酒を飲みながら駆け出し達の戦いを観戦し、あれこれ言っては楽しむ者達も出ていた。



 そうして夜が明け、朝になった。


 未だにゴブリンは変わらず断続的に飛び出てくる。流石にこんな状況は異常過ぎると、唯一理解していそうな数時間の仮眠明け間もないドバン組合長にそれぞれの代表者達が詰めかけた。


「ドバン組合長。一体、コレはどういう事なのでしょうか?」


「すまんな。実のところ、ワシにも詳しくは分からん。じゃから、今から潜って確かめようと思っておる。」


「組合長がですか!?それは危険なのでは?」


「なぁに、これでも昔は冒険者としてブイブイいわせておった。魔法の腕はまだ錆びついておらんわい。」


「しかし、お一人で行かせる訳には絶対にできません。せめて何組かパーティを連れて行ってください。」


「むぅ……しかしのぅ……。

(彼らの存在を黙っているのが報酬じゃからのぅ。下手に人を連れて行って大騒ぎされるとワシが困るんじゃが?)」


 ドバンのつぶやきは後半がほとんど誰にも聞き取れない程、ボソボソと言ってごね続けた。


「(じゃが、確かにワシ一人ではもしもの時に対応出来ない可能性も捨てきれぬ……なら、せめて彼らと仲の良い者達を選ぶしかないか……)

……よし!分かった!皆の言い分も最もじゃ。

じゃから、アレク・エッジ・ゲインを連れて調査してくるわい。それなら文句無いじゃろ?」


「いいえ……組合長。人員が少な過ぎます!」


「そんな事は無いじゃろ?

アレクはああ見えて元Cランクじゃし、エッジやゲインもダンジョンの門番として実力は十分にある。

こんな状況なんじゃ、あまり大勢で向かってしまうと、もしもの時、入口前の防衛すらままならんのではないか?」


「ですが、もし組合長に何かあったら……」


「それこそ、ワシ無しでもやりきってもらわんと困るわい。

もう隠居も近い身じゃぞ?そろそろ巣立って欲しいんじゃがな。」


「「……。」」


「なんじゃ、がん首揃えて……何も言えんのか?」


「……分かりました、分かりましたよ!

こちらは我々に任せて、調査をお願いします。」


 ドバンは半ば強引に取り決めて、これ以上何も言われないようにそそくさとその場を後にし準備をする。そのままの流れで強引にアレク、エッジとゲインを拉致して、三人に詳しい説明もせずダンジョン前まで連れだって、これから潜って調査しに行くとだけ伝えた。

 三人共、唖然とした表情を浮かべたが、アレクはすぐに何か気づいたような顔を浮かべ真剣味が増し、遅れてエッジとゲインも同様の顔付きになった。


「お前達。この場で詳しく話せないのは理解できるじゃろ。まずは潜ってからじゃ。」


「……分かりました。」


「では、タイミングを計って俺達が道を切り開きます。」


「二人共、遅れずについて来てくださいよ。」


 少ないとはいえゴブリンが絶え間なく出続ける入口の脇にエッジとゲインは控えて、少しだけ途切れた瞬間に二人は潜り込んだ。

 その後をドバンとアレクは急いで追う。ダンジョン内なのでエッジとゲインは槍ではなく剣で、ゴブリンを切り伏せ、ドンドンと前に進んで行く。遅れない程度にアレクも援護し、十字路に差し掛かった。


「直進じゃ。最短距離で第一階層の奥へ進めば良い。そこに答えがある。」


 エッジ達は無言で頷き、奥へ奥へと進んで行く。少しだけ先へ行くと、ゴブリンの湧きも収まり、余裕が出てきた。至る所で発生し、最終的に入口前の十字路で合流するので、そこさえ超えれば三分の一程度の湧きになるからだった。


「組合長。この面子と言う事は……まだ戻らない彼らが何かしているのですね?」


 余裕が出来たので、半ば確信を持ってアレクはドバンに質問する。


「そうじゃ。しかし、何故こうなったかはワシにも分からんのじゃ。」


「組合長。一体、彼らの何を知っているのですか?それに、どうして知ったのですか?」


「とにかく先に進むのじゃ。今、おまえさん達に話しても信じられないじゃろうて。」


 アレクとドバンの会話に耳を傾けながら、エッジとゲインは無言でドンドン進む。



 湧き出るゴブリンを蹴散らしながら、一時間程進み、そろそろ目的地の第一階層の最奥へと差し掛かった。しかし、四人の足取りはそこで止まる。


「これは……どういう事じゃ?」


 薄暗いダンジョンの奥にて、四人の目の前には壁が出来ており、もう後は直進だけのはずなのに、先へ進む通路がそもそも見当たらなかった。


「馬鹿な!?『ダンジョンの怒り』中に、通路改変が起こるなんて聞いた事が無い。」


「ああ。俺もだ。」


「しかし、何か手がかりはあるはずです!」


 アレクが周辺をくまなく探す為に、持ってきたバッグからランタンを取り出し火を灯すと、目の前の壁が鈍く煌めいた。


「なんじゃと!?これは……!」


「組合長?何か分かったのですか!?」


 驚き隠せぬドバンを見て、アレク達は問い詰めようとしたのだが、ドバンは壁を見つめたまま震えていた。


「お前達も良く見ろ。……これは壁じゃない。魔石じゃ。高く積まれたゴブリンの魔石じゃよ!」

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