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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第13話 攻防

 ダンジョンの入口から、ゴブリン共がワラワラと溢れ出してきた。


「放てぇぇーー!!」


 戦いは、魔法や矢による遠距離攻撃から始まった。

 しかも、攻撃を担ったのは冒険者達ではない。魔法が使える錬金術師や魔法薬を売っているお店の店員、弓矢を扱う武器屋の親父や弟子達、更には受付嬢達も多少魔法が使えるのならば、その中に組み込まれていた。


 この街は『初心者の街』。冒険者といっても駆け出しが全体の八割を占める。

 そんな駆け出しのパーティを役割に応じてバラバラにしてしまうと、まとまらなくなる。他の街ならいざ知らず、集団戦に必要不可欠な指揮を執るカリスマが居ないのだ。高ランクも居ないし、Dランクの者達は趣味や事情があって残っている『豪雨』のような者達だけだ。そんな微妙な中年の指揮で、若くやる気に満ちた駆け出しが言う事を聞くはずもない。だから、若い連中はバラさずにパーティ単位で行動させていた。


「突撃ぃぃーー!!」


「「おおおぉぉぉぉー!!」」


 遠距離攻撃が一通り終わると、冒険者達がパーティ毎に突撃する。そのほとんどが駆け出しだった。

 先程、『週末』へ『豪雨』が軽口をたたいていたはずなのだが、その『豪雨』は突撃に参加しなかった。他の中年達も同様だ。彼らは長年の経験から『ダンジョンの怒り』を何度も経験している。歳を取り体力も減り、その体力の使い道を熟知していた。逆に駆け出しにとっては、今回が初めての経験だろう。ゴブリンの波はどのくらいあるのか?想像もついてないのだから、どの駆け出しも最初から全力だった。


 この『初心者の街』の『ダンジョンの怒り』対策は過去から変わっていない。序盤は若い駆け出し達がガス欠するまで頑張ってもらい、体力切れで脱落していったら待機させていた第二班の駆け出しを随時交代投入。危険そうなタイミングやパーティが居れば中年達がフォローし、兵士達がダンジョン入口付近を取り囲み、一匹もその包囲から出さないようにしていた。


 ただし、それが上手く行くのは慣れてから……。駆け出しにとっては本当に全てが初めての体験なのだ。どうしても全力を出してしまい多少力があるパーティだと突出してしまう。それを中年達が止める為、『豪雨』や他の中年パーティも戦いはせずとも序盤から忙しく動き回っていた。


「馬鹿野郎共が!突っ込み過ぎだ!?少し下がれ!」


「でも!」


「まだ始まったばかりなんだぞ?これから長い戦いになるんだ。

第一波で怪我や死んでみろ?他の奴から馬鹿にされるぞ!」


「チィ。……分かったよ!」


 長年の経験から中年達は、駆け出しを上手いことコントロールしつつ、第一波を淡々と削っていく。

 一時間近く湧き出るゴブリンを殲滅していくと、ようやく第一波が終わりゴブリンがダンジョンから出てこなくなった。


「調査隊!頼んだぞ!」


 組合長のドバンが叫ぶと、調査隊に選ばれた三つのパーティが素早く前に出て、ダンジョンへ潜って行った。


 その光景を見て、中年達の指揮をしていたアレクは少しだけ思考に引っ掛かりを覚えた。


 調査隊は次の第二波までの偵察任務だ。ダンジョンに入り最初の十字路を直進・右・左と三つに分かれて行動するので、三つのパーティが必要になる。直進組は一番先に波と接触する機会がある為、全員足の速い構成のパーティである。そして右と左の組は、遠回りする分どうしても波に飲み込まれる可能性もある。だから、どちらもダンジョン内の行き止まりで波が収まるまで待機、耐久する為に防御力が高い構成のパーティを選ぶのが一般的だった。

 『ダンジョンの怒り』中の魔物は、全て外を目指す。だから行き止まりで待機していれば、そこに魔物が沸かない限り、そこまで危険は無かった。ただし、辺り一帯が外に向かう魔物で渋滞し埋め尽くされる為、相当な精神力も必要ではあった。


 そもそも左右の組は必要なのか?という疑問もあるが、ドバン組合長が他の者達の有無を言わさずゴリ押しして決めていた。

 更に左組に『週末』が選ばれていた。『週末』は全員剣士で構成されたパーティであり、先程の要件を満たしていないはずなのに、これまたドバン組合長の一声で決められた。アレク自身も彼らは何かあるとは思っていたが、選んだ真意が分からなかった。


 調査隊が潜ってニ十分程経過したぐらいだろうか?足の速い直進組パーティが血相を変えて戻ってきた。


「第二波。来るぞーー!!」


 こうして第二波の攻防が始まった。調査隊は直進組しか戻ってこなかったが、『週末』ももう一組も経験豊富なはずだ。彼らの心配よりも、今は第二波に集中しようとアレクは頭を切り替えて、中年達を指揮し始めた。



 第二波は、第一波よりも規模が大きく、ほとんどの駆け出し達の体力が底を尽き、疲れ果てた姿で後方に休まされていた。結局、周りを包囲していた兵士達の力を借りて、数時間後にようやく殲滅する。


「ふぅ……こりゃキツい。長の言ってた今回はいつもと違うのも頷けるな。」


「あぁ。これが続くと俺達もヤバイかもしれんな。」


 中年達は汗に混じる冷や汗を感じながら、第二波も終わりようやくゴブリンが飛び出てこない入口を恐ろしそうに眺めていた。


「調査隊。もう一度頼めるか!?」


 ドバン組合長が声をあげ、なんとかといった感じに直進組がダンジョンに潜ろうとした時だった。


 ダンジョンから何かが飛び出てきた。


 ゴブリンかと焦った直進組は、危うく戦闘になりそうだったが寸でのところで回避された。出て来たのは若干ボロボロの恰好になっていた調査隊右組のパーティだった。

 第二波をなんとか行き止まりでやり過ごし、無事に戻ってこれたのかと、直進組や他の者達も安堵していると彼らからとんでもない報告がもたらされた。


「多分だが、第三波がもうすぐ来るぞーー!」


「馬鹿な!?今さっき二波が終ったばかりなんだぞ!!」


「しかし、俺達が戻ってくる際に第一階層の至る所でゴブリンが湧き始めていたんだ。

規模こそ少なかったが、奥の方から動き出す気配も感じたんだ!」


「マジかよ……。」


「最悪、逃げる準備も必要か?」


「よせ!今更、何処に逃げるってんだ?」


 冒険者、兵士、支援していた者達、更には野次馬達ですらも、絶望し、重苦しい空気が辺り一帯を支配した。


 しかし、この場にただ一人だけ、希望を捨てていない者が居た。その者はこの場に居ない一組のパーティを希望だと信じて疑わなかった。


「狼狽えるな!皆の者よ!!

ワシらには希望があるのじゃ!組合長であるワシを信じよ。秘策がある。とにかく、第三波を迎え撃つぞ!」


 初老とは思えない力強い声と、揺るぎない確信を持った言い方に、誰もが希望の火を再び灯す。折れかけた心を奮い立たせ、冒険者や兵士達は立ち上がり、剣を持つ力を握って確認する。


 「まだ、やれる!ああ、やってやるさ!」


 『ダンジョンの怒り』はまだ始まったばかり。こんなに早く諦めてたまるかと歯を食いしばり第三波を迎え撃った。

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