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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第12話 魔法のパンツ

 話し合いが一段落したら、ノリス達は再度準備に走った。


 Eランクパーティとしての準備しかしていなかったので、ドバンの依頼である参戦はまた別だから改めて準備しなおす必要があった。


 ドバンもノリス達が準備すると言うと、一人急ぎ足で組合に戻っていた。組合長としてすべき仕事は大量にあるはずだ。しかし、今回のダンジョンの怒りで最重要だと想定しているノリス達に嘆願する為、少ない時間を絞り出して依頼しに来ていた。


 そんな組合長ドバンの誠実さに心を打たれて、ノリス達も真面目に準備する。


「はぁ……またコレを履かなきゃいかんのか……」


 準備の際に、ノリスはため息を吐いて、手に持つソレを見つめた。


 ソレはパンツだった。ブリーフと言ってもいい。ブリーフ型の魔道具だった。

 用途は至ってシンプルである。履いた状態のまま魔力を込めながら用を足せば、あら不思議!出した物が綺麗さっぱり別の空間に消えるではないですか!長時間、魔物と戦う冒険者には必須アイテムだった。


 ただし、気持ちの良い物では全くない。綺麗に出るとは限らないからだ。尻を拭く機能なんてない。間違えて魔力を込めなかったら大惨事にもなる。更に終わった後、別の空間に保存されたアレを捨てたり、その空間も洗ったりしなければ、尋常じゃなく臭う。思春期の少年のように、良い歳したおっさん達が冒険後に自分のパンツを洗うのだ。なかなかにシュールな光景で虚しくなる。


 しかし、ソレが無いと当然垂れ流しだ。最悪、自分の出した物に足を滑らせて、魔物に殺されかねない。

 冒険者なら絶対にこんな風に死にたくない方法のぶっちぎりの第一位だった。だから、ある程度経験を積んで、長時間冒険するようになる者達は必ず持っている。


 今回で、大群を抑え役になるノリスは催している時間なんて当然無いから履かなきゃいけないし、イド達だって全員持っているし今履いていることだろう。


 皆一緒なら、多少は気持ちが救われるかとイヤイヤながらもノリスはそのパンツを履いた。そうして準備が終わり、全員で合流すると、ノリス以外はいつもの軽装であり、ズボンもまったく盛り上がっていなかった。


「お前達……まさか、履いてないのか?」


「履いてない?ああ、あのパンツか。今回は要らないだろ。」


「ノリスから抜けた魔物の殲滅ですからね。私達が交代して対応すれば良いので。」


「ふざけんな!そういう事なら、ザルのように流して向かわせるからな?」


「……さっきの発言はどこいった?」


「エストの言う通りだ。ノリス、一匹も通さないのではないのか?

俺らでは抑えきれんぞ。無論、その後がどうなるか分かるだろ?」


 ノリスを抜けて、イド達も突破した魔物は何処へ向かうのか?当然ダンジョンの外だ。


「ぐっ。クソッ!ズルいだろ?俺だけ貧乏くじじゃねぇか!」


「まぁまぁ。ノリスが止めても倒す訳では無いですから、私達の方も慣れない殲滅は大変ですよ。」


「……うん。頑張る!」


「はぁ……マジで頼むぞ?ちくしょう。諦めるしかないか……。」


 一人だけ若干もっこりしたパンツを履いて落ち込むノリス。しかし、それ以外は皆同じだった。

 ドバンとの打ち合わせ通り、調査隊派遣まではEランクパーティとして動かなければならないので、いつも通りの見た目にしなければならなかった。なので、全員が普段通り、頭を同じ柄のバンダナで巻き、イドの作った同じ皮鎧を着て、ノリスの打った同じ鉄の剣をさげる。

 普段と違うのは荷物を入れるバッグをエストしか持っていなかった程度。相手は大群だ。下手すると荷物が飲み込まれる可能性もある。四人一丸となって動く予定なので、一番素早いエストが一括で管理しようと相談して決めていた。


 エストの持っているバッグは【マジックバッグ】という見た目よりも容量が入る特殊で貴重なバッグだった。そこに調査隊以降の仕事で使う、それぞれに必要な獲物や食料、更にはイド達が交代で使える簡易トイレなんかも入っていた。


 そうした荷物を持ってノリス達はダンジョンの前に向かった。



 ダンジョンの前に着くと、冒険者や支援する業者・組合員、更には野次馬などでごった返していた。


 そういえば、何処に集合とは聞いてなかったなと、四人は顔を見合わせて途方に暮れていると、一番背の高いノリスが、見覚えのある二本の槍の矛先を見つけ、イド達を引き連れて人混みをかき分ける。


 矛先に向かい辿り着くと、見慣れた槍を持つエッジとゲインがそこに居た。更にアレクや周りに『豪雨』のメンバーなど他の同じような者達も集まっていた。どうやらココが集合場所だったようだ。


「『週末』の皆さんも招集されたんだな。」


 会って早々、エッジから声を掛けられたので、ノリスは応える。


「ああ。『週末』では無いが、『終末』にならないようにな!」


「「……。」」


 ノリスは二度目の全く同じオヤジギャグをぶちかますが、エッジ、ゲイン、アレクには通じなかった。だが、周りの冒険者達には盛大にウケた。


「ブハハッ!良いな、それ!

なら今日の天気は『雨』じゃないが、俺達が降らせまくってやるぜ?」


 その中の『豪雨』が、ノってくる。他のパーティもノリノリで追従した。


 それもそのはず、この一角だけはノリスや『豪雨』のような趣味で潜る冒険者達が多く、そのせいで平均年齢が他と比べ非常に高く、おっさんばかりのむさ苦しい集団になっていた。


「他はヒヨっ子ばかりだ。お陰でヒヨッ子を落ち着かせる為に、受付のお嬢ちゃん達がそっちに行っちまいやがった。」


 酷く残念そうに『豪雨』は言い、更に周りのおっさん達もしみじみと頷く。アレク達が若干気まずそうにしていた。


「お?良い事じゃねぇか。」


「てめぇと一緒にすんな。ノリス。

何が悲しくてエッジやアレク達……男共の指示を聞かなきゃならんのだ!

しかもだ、俺達側にも誰一人として女が居ないんだぞ?全員おっさんだ。」


「イシスだったな?

長年続けるにはそれが一番無難だろ?寧ろ俺らのようなパーティの中に若い女が居たら、そいつらを全く信用出来んな。」


「ブハハッ。イド。それもそうか!?

それで?『週末』はどこに分担された?」


「俺達は第一波後の調査隊だ。それまでは後方待機だな。」


「ほぅ。潜るのか。気をつけろよ?

第一波は俺達がちょいと蹴散らしてやるから、出番は早いぞ?」


「ああ。頼もしいな。頑張ってくれ。」


 『豪雨』や周りの冒険者達と拳を突き合わせながら、ノリス達はエッジやゲイン、アレクとも話し合い、同じ調査隊となったパーティと待機する。


 そして、組合長のドバンが全体周知をさせて、それぞれがそれぞれの役割を全うすべく位置に着き、身構える。


 数分後、ダンジョンの怒りが本格的に開始し、入口からゴブリンが溢れ出てきた。


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